強くなる
「休暇はどうだった?」
「……まさか出迎えて貰えるとは思いませんでした」
宙域に足を踏み入れた二人を出迎えたのは、軍服を纏った宙域の権力者、ネイピアだった。
「出迎えよりも、もっと貴様が欲しいものをくれてやる。前に言った、『アンノウン』による死者の名簿だ。受け取れ」
そう言ってネイピアは、分厚い紙の束をイチトとニコラに投げて寄こした。
イチトは軽く目を通すと、その違和感に気が付いた。
前は死者と遺族の名簿だと言っていたのに、渡された名簿には死人の名前だけ。
代わりと言わんばかりに、ニコラが要求していた、事件前後の惑星便の登場者の一覧が追加されていた。
「遺族の名簿は?」
「遺族の情報は個人情報だから渡すべきではないと言われてな。代わりを聞いたらそれで良いと、そこの女が言っていたが」
「つけ忘れではないか確認しただけです。どうせ遺族も俺と同じように、執拗に取り調べを受けたんでしょう?」
「ああ。貴様が話したところで目新しい情報は殆どないだろうな。それと他にほしい資料があるなら、できれば次任務前に言え。準備し辛い」
イチトは無言で頷くと、資料に目を通す。
名前、検視結果、そして生前の職業などの簡素な情報が延々と羅列されている。
たった数行のその情報が、これだけ分厚い紙束になるだけの数を、仇は殺したのだ。
「絶対に、殺す」
「……うん。生かしておいちゃ、いけない」
覚悟を新たにし、分厚い紙束を握りしめると、イチトは前へ進んだ。
「訓練、行くぞ」
「わかった」
「待て」
だが後ろから呼び止められる。
「……何か用か、トレハ」
そこはトレハが立っていた。
妹をその手にかけ、塞ぎ込んでいたはずの青年が、荒んだ視線を二人に向けて。
「訓練には、相手がいるだろ」
「……お前じゃ力不足だ」
次の瞬間、その眼前に拳が現れた。
「!」
「これでもか?」
突然のことに、目を剥く。
そして状況を理解してもう一度驚く。
速すぎて、見えなかったのだ。
「……そうか、自分の血。腕の中にある血を動かして、普通よりも速く動いた」
「ああ。これなら血での攻撃が効かない相手とも戦える」
「戦うんだな」
「当たり前だ」
「また家族と戦うことがあるかもしれない」
「戦うために戦うんだ。戦って、捕まえて、ふん縛って牢屋にブチ込んで、それでっ、生きて、もらうんだ!」
青年は、涙を流さなかった。
強くなって、『星群』を持つであろう家族を殺さず捕まえるなら、泣いて立ち止まっている時間なんてありはしない。
泣くためではなく未来を見据える為に、その眼は開かれていた。
「……ニコラ」
少年が手を差し出す。
「ん」
少女は資料を壁際に置くと、差し出された手に自らの手を重ねた。
「「「はああああああっ!」」」
失った者達の咆哮が響く。
後悔と無力感を叩きつけるように、周囲の視線も気に留めず戦う。
移動する時間すら惜しい。
今は一秒でも早く、体に残った力を全て使い果たしてしまいたかった。
「「「強く、なるっ!」」」
作者です
3章はここで終わり、次は少しSFっぽい話もしていこうと思います
評価等よろしくお願いします




