何度消せば消えるのか
広がるは血と、死体の山。
その中には腕がちぎれ、頭蓋が砕けたグロテスク極まりないものも多数ある。
「なるほど、どーりで嫌な予感がするわけだよ」
だがニコラが顔を引つらせたのは、眼前の凄惨な光景にではない。
死体の山より恐ろしい、一人の男の存在を認識してしまったからだ。
「なんだ、次はガキが相手か」
死体を投げ捨てた男の顔を、見間違うはずもない。
それはイチトとニコラの網膜に、嫌と言うほど焼き付いた顔なのだから。
「また、お前が相手かよっ!」
イチトはグッと手に力を込め、気が狂いそうな現実を睨みつけた。
「コーレス・ダルスター!」
それは、指名手配犯の名前。
そしてイチトが空中で戦い、ニコラが地面に叩き落とし、二人の全力と運を以て漸くその命を断った男の名前。
「ポリ公ごときに呼ばれるほど、安い名じゃねえぞ」
だが目の前の男は立体映像や、死体等では断じてない。
質量を持ち、思考し、行動する、どこをとっても人間だと言って差し支えはない。
唯一、その他人を顧みない精神だけを除けば。
「もうお前の名前はメディアの小遣い稼ぎの為にタダ働きしてるよ」
「そりゃ最悪だ。お前らの後に全員殺さねえとな」
止めねばならない。
この男は、その命が完全に絶たれるまで、他者を殺し続ける。
「ニコラ、全力で足止めするぞ」
「……無理でしょ。逃げた方がいい」
「逃げる先があんのかよ」
「バイクは、捨てたか。やっぱり、アルバーに来させた方が良かったね」
だがニコラはあまり、というか全く乗り気ではない。
投げた死体が、数メートル離れた壁に当たったのを見て悟ったのだ。
今目の前にいる男は恐らく、タイタンで戦った、二人のコーレスが合体した後と同じだけの力を持つと。
そう、腕を貫通させるという奇策を用いてようやくその命を断つことができた化け物と同じ力を。
合体が終わっているあいてには、その策も使えない。
正面から殴って倒せるなら、タイタンでやっている。
今の二人には、その体に傷をつける術はない。
つまり、勝ち目は無い。
「そしたら今頃入れもせず、宇宙で彷徨ってるだろうな」
「そうかもね。でも、死人が出るよりいいでしょ」
「そうなったら、宙域が消えるだろうが」
だがもうこの危機から逃れる術はとうに無い。
二人にできるのは、抗い、そしてこの男を倒せる隊員の帰還を待つことだけだ。
「とにかく時間稼ぐぞ」
「でも時間稼ぎするつもりだと死ぬんじゃない?」
「ああ。全力でやって時間が稼げる程度だろうな」
「ははっ、バカかお前ら」
二人の相談は、当然コーレスにも聞こえていた。
「お前らの全力なんざ、即座に捻り潰せる」
にやりと、笑う。
悪意に満ちた、死刑宣告を兼ねた笑み。
「なら即座の定義を変えるだけだ」
「できれば変えずに長生きしたいけどねっ!」
ニコラはグイッと、自分の口角を押し上げて無理矢理笑った。
勝てない勝負に挑む恐怖をかき消す為に。




