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部隊は宇宙へ

「あら」

「む」

 集合場所に走り寄ると、他の二人は既に集合していた。


「ご機嫌シルブプレ。皆々様お元気そうで」

 ニコラは直前の機嫌の悪さが嘘のように、明るく話しかける。


「全員無事だったみたいね」

「無事、なのかこれは?」


 アルバーが疑問に思うのも無理はない。

 無事だと言ったのは、手足の皮膚が裂けたヴィーシ。元気そうと言ったのは黒制服が赤黒くなるほど血塗れのニコラ。

 どちらも、どう見ても無事とは思えない。


「全部返り血だ。片腕にアザがあって骨に罅入ってるが、まあ無事だ」

「十分大怪我だろう。あと、どれだけ殺したらそこまで血塗れになる」

「まあいいじゃん。それより、水とタオルない?流石に乙女として受け入れがたいよこれ」

「乙女が人を殺すな。いや、乙女でなくとも当然だが」


 アルバーは非難めいた声で呟くと、バイクからお茶を取り出してニコラに手渡した。

「別に喉乾いたって意味じゃないんだけど」

「知っている。水とタオルはないという意味だ」

「うーん、ま、満足しといてやりますか」


 複雑そうな顔をしながらも、ニコラはお茶を一口含み、残ったもので頭を洗い流した。

「俺も欲しいんだが」

「今のが最後だ」

「ニコラ、ってもう使い切ってやがるのか。チッ」

「私の飲み差しで良ければあるわよ」


 パシッ、と投げつけられたボトルを受け取る。中には光に照らされて僅かに焦茶に光る黒い液。パッケージには堂々と微糖の文字が鎮座している。


「コーヒー、しかも微糖か……」

「要らないなら返してよ。結構私好みの苦さしてるのよそれ」

「いや、借りとく。助かった」


 イチトもまた喉を潤してから、髪を洗った。砂糖が髪に絡む。血よりは精神的にも衛生的にも格段マシだが、不快には変わりない。


「ふふ、間接キスね」

「残念だが唾液よりもっと濃厚な体液接触をしてきたばかりでな」

「人の唇を血と比べないでほしいんだけど」

「悪かったな。で、本部への連絡は?」


 イチトはジャケットを脱ぐと、内側で頭を拭きながら聞く。

 アルバーは力なく首を横に振った。


「なら通信妨害装置を壊さないとか」

「まだやるの?私一回帰ってシャワー浴びたいんだけど。その後じゃダメ?」


 いつの間にかバイクの排気を髪にあてて、ドライヤー代わりにしていたニコラは不満そうに声を上げる。

「帰るにも迎えの連絡ができない。それにここは市街地だ。流石に連絡ができないのは問題がある」

「ちぇ。わっかりましたよ。そんで、どうやって探す?」


「四方向に分かれて移動し、この端末で妨害電波の強さを調べるのはどうだ。確か艦長が、そういう機能があると言っていた。そして妨害装置に近付いた者が破壊する」

「そうするか。でも分かれるのは三方向がいい。俺とニコラは、『星群』がないと戦闘になった時困る。それにバイクぶっ壊したから移動もキツイ」

「そうね。それから妨害電波弱くなった方向ってどうすればいいの?」


 イチトは顎に手を当てると、現在の電波の強さを測定した。

 結果は二千百十五。横に添えられた目安では、千以上で強い障害が発生するとあるから、近くに妨害装置があるのは間違いない。


「この場所まで戻って来い。それから一人戻って来たのと合流して、もう一方へ動く。良いな?」

「「「了解」」」


 ヴィーシは自前の、アルバーは敵から譲り受けたバイクに跨がり、出撃の準備をした。

「私達もバイク取ってこれば良かった」

「道中見つけたら確保すればいい。それよりも、手出せ」

「はいはい、わっかりましたよ」


「そうだ、イチト、これを持っていけ」

 アルバーは思い出したかのように座席を開けると、その中から白い制服を取り出して投げつけた。


「サイズは少し小さいかもしれんが、血塗れよりは良いだろう」

「助かった。後で返す」

「え!ちょっと!私も服欲しい!流石にシャツだけで走るのキツイよ!?」


 ニコラは期待も込めて、ヴィーシに視線を向ける。

 だが黒制服すら着ていないその姿を見て、即座に諦めてため息をついた。


「黒ならあるわ」

「あるの!?んじゃ頂戴!」

「何故自分で着ない。人前でする格好ではないだろう」

「運動用ウェアなんだから問題ないでしょ」


 ヴィーシはサドルの下から黒制服を取って、ニコラに投げつける。

「ってかサイズは。明らかに背違うだろ」

「サポート対象外よ」

「いんや、案外ピッタリだよ」


 そう言うニコラの袖はだらんと垂れ下がり、裾は分厚く曲げられていた。

 そして全体的に、大量の皺が見られる。


「明らかに体に合っていないな」

「予想通り酷い有様ね」

「死にたくないなら脱げ」

「当たりが強い。んで、せめて留めるか切るかしたいんだけど、なんか良いものない?」


 イチトは何一つ荷物が残っていないので、当然首を振る。

 ヴィーシは予備のヘアピンとヘアゴム、アルバーは手錠を取り出した。

 ニコラは即座にアルバーへと詰め寄ると、その胸倉を掴んでメンチを切った。


「ナメてんの?」

「普通の手錠ではない。見ろ、繋いでいる部分がワイヤーだ。伸びるぞ」

「わーい。ってなるかい!結局私手錠つけなきゃじゃん!犯罪者側の扱い!」

「両袖を通して輪を作れば良いかと思ったのだが。気分を害したならすまなかったな」

「いや、結局手錠が背中で存在感放つじゃん。あと動きにくい。ってことでゴムとピンかーして♡」


 ニコラは猫なで声で両腕を差し出した。

 するとヴィーシはヘアピンを天に掲げる。


「……あの?」

「そういえば、アバズレって言われた分、殴ってなかったわよね。歯食いしばりなさい」

「陰湿ゥ〜!聞きました、陰湿ですよぉ〜???」

「一発じゃ足りないみたいね」


「暴力は駄目だ。だがニコラ、先ずは誠心誠意謝れ」

「あっクソ、いいこちゃんが正論かましやがって」


 ニコラはそれでも抵抗したが、イチトとヴィーシの睨むような視線に負けて、仕方なく頭を地面に擦りつけた。

「ごめんなさい」

「ここまで粘られるとこっちまで渡したくなくなってくるんだけど」


 ヴィーシはため息をついて、地面にピンとゴムを撒いた。

 ニコラはそれをせこせこと拾い、袖と裾を戦闘に耐えうる程度の長さに調整した。


「これぞ、パーフェクトニコラ!」

「何故土下座した直後にそこまで堂々とできる……」

「どう考えても丁度良いサイズの服着てた時がパーフェクトでしょ」

「それじゃあ、いい加減動くぞ。全員、出撃」


 イチトの声に合わせて、三組は同時に動き出した。















「どうだ、ニコラ」

 車道を我が物顔で走りながら、イチトは隣の少女に問いかけた。

「大分減ってる。今は千五百ぐらい。戻った方が良いね」

「無駄足か」


「私としては助かったって感じだけどね。疲れてるし」

「だろうな。まあ、仕方ない。それよりも、急いで戻るぞ」

「え?あの二人だしほっといてよくない?」

「合流すんだよ。行くぞ」







「さて、と」

 空中を飛ぶバイクが降下し、着地する。

 そして完全に静止した後、アルバーはタブレット端末でその場の妨害電波の強度を測定した。


 表示された値は、千と百。

「外れか」

 アルバーは端末を仕舞うと、Uターンして集合場所へと戻っていった。



「ねえアレ、多分アルバーだよね」

 集合場所が近づいてきたころ、ニコラは手を引っ張ると、上空を指差した。


「多分そうだな。まあ、ヴィーシのが適任か」

「あー、あっちのが壊すの得意そうだもんね。おーい!アルバー!」


 ぶんぶんと、音が聞こえるぐらいに素早く腕を振る。

 するとアルバーはそれを見つけて、向きを変えて近寄って来た。


「貴様らの方にも無かったようだな」

「ああ」

「それならヴィーシに加勢、いや、止めに行くか。もし人がいたら殺されてしまう」

「まあ、帰る時も一緒のがいいだろうしね」


「ああ。アルバー、乗せろ。あと運転代われ。法定速度で走ってんじゃねえ」

「市街地での高速走行は禁止だ。知っているだろう」


 イチトは呆れ返って肺の息を全て吐き出し、タブレットを叩いた。

 そしてそれをアルバーに投げ渡す。

「じゃあそれが何かも知ってるだろ」


 そこには、真っ赤に輝くパトランプが表示されていた。おまけとばかりにサイレン音も鳴り響く。


「なるほど。失念していた」

「あ、それでいいんだ」

「宙域も、一応は警察だ。外出禁止令が出ている場所でなら事故も起こらないし良いだろう」


「御託は良いから一回降りろ」

「てかどうやって三人乗るの?」

「決まってんだろ」


 アルバーが乗った後、イチトはニコラを掴むと、ひょいと機体に飛び乗った。

「よし、行くぞ」

「意義を申し立てたい」

 ニコラの意見を無視して、イチトは加速のペダルを踏んだ。


「待てって言ってるでしょ!」

「いいだろ別に」

「良くない!なんで、」


 ニコラが不平を訴えているのは、座席のことだ。

 運転席にイチト。その後ろにアルバー。

 そこまでは良い。


「何で私が君の膝の上なわけ!?」

 そう、ニコラはまるで子供のように、イチトの膝の上に体育座りで乗せられていた。

「場所がない」


「つってもさ!普通に三人タテに並んじゃダメなの!?何で上下!?」

「長さが足りない」

「屈辱なんだけど。アルバー、代わって」

「私がそこに収まると思うか」

「うぐっ」


 何も言い返せなくなったニコラは、苛立ちを連打に変えてタブレットに叩きつける。

 叩くたびに電波は強くなっていく。

「あーもう!速く終わってよ!」


 だん、だん、だん。タブレットが液に戻りそうな程に強く叩く。

 その度に新たな値が表示される。


「上がる一方じゃ……あらら?」

「どうした」

「急にゼロになった」

 急激な強度低下。恐らく、ヴィーシが破壊に成功したのだろう。


「流石に早いな。これ以上、人的被害を出さないためにも急ぐぞ」

「ニコラ、ヴィーシに通信入れろ。合流するぞ」

「指示が遅い。誰よりも膝の上に収まっている現状を変えたいと思っているニコラ様だよ?」


 単に膝から折りたいだけだろ、というセリフを飲み込んで、タブレットを覗く。

 しかしヴィーシは一向に出ない。


「壊せはしたは、戦闘が続いているのではないか?」

「かもな。高度を上げるから戦闘している奴を探せ。目立つだろ」

「「了解」」


 眼下の建物と距離が離れ、だんだんと小さくなっていく。

 運転をしない二人は、道を視線で辿った。


「あ!左前方!」

 ニコラの叫びを聞いて左前方を見ると、ビルの影から真っ赤な液体が広がっていた。


「血か!しかも広がってるぞ!」

「口閉じろ。一気に降りる」


 宣言通り、イチトは一気に地面に向かって加速していく。

 考えてみれば、急ぐ理由はない。

 戦っているのはエフェメラ・ヴィーシ。現地に向かう三人よりも強い、悪魔のような女だ。


 そんな女が電波を止め、敵を殺したとしても何も不思議はない。

 だが何故かイチトは全速力で地上に向かった。

 先の戦闘で、昂ぶっていたのかもしれない。

 そして機体はすぐに地表に辿り着き、ビルの角を曲がった。



 そこに倒れていたのは、ヴィーシだった。


「……は?」

 腹部を横断するぐらいの大きな赤い線。

 そこから溢れる小腸。

 目の光は殆ど消えかかっている。


「まさか、これは、死んで……いるのか?」

 そう言った瞬間、三人の乗るは急激に上へと上がった。


「「!?」」

 突然の衝撃に、襲撃を受けたのかと見渡す。

 だがそれらしき影はない。

 何故ならその機体を浮上させたのは、ニコラなのだから。


「何を、してる」

「決まってんでしょ!追うんだよ!」


「落ち着けニコラ!姿も見えないのにどうやって追いかける!それに、ヴィーシを倒すような奴相手に、俺たちが何をできる!」

「何もできないからって、このまま見逃すってわけ!?あれが見えないの!?」


 そう言ってニコラは、眼下に広がる血だまりを指さした。

 次の瞬間、アルバーがそこにめがけて飛び降りた。

「なっ!?」


 そして即座に、大きく裂けた腹に応急処置を始め、流れるような手つきで出血を抑えていく。

「先ずは応急処置だろうが!」


 そして、上空で固まる二人に向かって吠えた。

「まだ、死んだと決まってはいないだろう!たとえ死んでいたとしても、義憤に駆られて報復を目指している場合か!」


 人の命は、失われれば戻らない。

 故にアルバーは、例え自殺紛いの戦闘を繰り返す女だろうと助けるし、その死を確認する前に報復に走った少女に激怒した。

 今必要なのは、治療であって復讐ではないのだ。


「ニコラ!降りるぞ!」

「っ、でも!」

「良いから降りろ!追うにしても、手掛かりを見つけるのが先だろうが!」


 ニコラはようやく正気を取り戻し、全速力で地面に近づいた。

 そして即座にタブレットを取り出し、周囲の光景を録画していく。


「とりあえず救急に連絡はした。それからニコラ、『双騎当千』だ。まだ犯人がいるかもしれない」

「わかった。ほかに、やることは」

「本部に連絡しろ。俺は周囲を警戒する」


 繋いだ手から、鼓動が生まれる。

 だがその鼓動の数倍早く、全員の心臓は脈うっていた。

ただ自分と同じぐらい冷静ではない者を見て、少しでも正常な行動を心がけねばならないと必死で振る舞った。


 三人は、どこか思っていたのだ。

 この班で一番強いヴィーシが、負けるはずがないと。

 だからこそヴィーシがやられたということの衝撃は大きかった。


 誰が、どうやってこの最強の女を倒したのか。

 何もわからないまま、ただ作業をこなす事でその事実と向き合うことを拒否し続けた。


 だが視界には現実が映り続ける。倒れたヴィーシ、広がる血。

 壁に描かれた文様は、こちらを嘲笑う口のようにも見えた。


「なんか連絡繋がらないんだけど!」

「確か、何個か連絡手段用意されてたろ!」

「全部試してダメだったんだよ!」


 戦闘中の連絡は、終了報告以外は殆ど緊急事態の発生を意味する。

 それを与えられたあらゆる通信手段を使ったのに返事がないというのは明らかに異常だ。


 更に先程、妨害電波の強度はゼロになったはずだ。

 何か、説明をつけるとしたら。


「宙域側に、妨害装置が持ち込まれた……?」

「……貴様、正気か?」

「救急には繋がったんだぞ。宙域につながらないなら、恐らくあっちに問題がある」

「そ、それはそうだけども!仮にも警察の本部だよ!殴りこむ馬鹿いるわけないでしょ!?」

「俺達がそう思っているのは、容易に想定できるだろうな」


 しん、と場が静まり返る。

 予測できるなら、その裏をかくこともできる。単純な理屈だ。

 更に言うなら、宙域は自ら犯罪者の根城に赴き、壊滅させることを繰り返してきた。


 犯罪者からすれば、馬鹿な真似をしてでも潰しておきたいことだろう。

「相当状況はまずい。本部に加勢しに行くぞ」

「ヴィーシを切った犯人は放置か?」

「ヴィーシのバイクが無いから、乗って逃げたと見るべきだ。電波も消された以上、三人じゃ探せない」


「……」

 位置情報と写真を送り終えたニコラは、渋面でイチトを見た。

「不満があるなら言え」

「不満だらけだよ。でも、言ったってどうせ聞き入れやしないし、聞き入れてもらったところで何もできない。だから、従う」


 ニコラは自分に言い聞かせるように言うと、宇宙空間飛行に必要な部品が欠けていないかの確認を始めた。

「アルバー、お前はヴィーシに付いていろ」

「何故だ」

「救急隊が来るまで止血役は必要だろ。それに人を守るなら、お前のが向いてるだろ」


「……絶対に、死人は出すな」

「味方からは出すつもりねえよ」

 出さない、とは言わない。

 アルバーの基準では、その死人に敵も入っているだろうから。


 そして何より、イチトはそれを約束できる程強くない。

 コーレスや、ヴィーシを切った犯人と同格の相手が出て来られたら、自分の命を守ることすら危うい。


 そんな状態で約束をできるほど、不誠実でも楽観的でもない。

「イチト!こっちは多分大丈夫!」

「わかった。お前は後ろに座れ!」


 二人はバイクに飛び乗って、空を睨みつけた。

「落ちるなよ!」

「当然!」


 ペダルを踏む。


 加速度は最大。潰れそうなまでの重力の中、それでもイチトはペダルを踏み続けた。


















作者です

いつもご覧いただきありがとうございます

もし気に入っていただけたら評価ブクマなど宜しくお願いします




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