無神論者と神の僕
「ぐっ、どんな切り方をしたらこんな音がする!」
酷い雑音に、アルバーは酷く顔を歪めた。
ヘルメットを踏みつぶして通信を止められたなどとは、真面目なアルバーには想像もできないだろう。
『随分と嫌われてるね。アルバー、だっけ?』
そして通信相手を選べない短距離通信で連絡したことで、話は敵にも伝わったらしい。
今から人を殺そうとしているとは思えない、落ち着いた声が耳元から流れ出す。
酷い質のマイクを使っているようで、音がガサついているが、それでもその声の主が子供であるということは容易にわかった。
「それがどうした!死人を減らせるというなら私は例え誰に嫌われようとも構わん!」
『そうだね。じゃあ君たちを皆殺しにして早く終わらせよう』
男の声を切っ掛けに、銃弾が一斉に放たれた。
機体の性能が低いせいで、アルバーはその攻撃をまともに避けられない。
薄い装甲の上を銃弾は滑り、不愉快な金属音を奏で続ける。
「何も理解していないではないかっ!あの三人のことが気に入らんのもわかるが、それでも命は命だ!殺してはならん!」
『素晴らしい考えだ。でも俺達は無法者、幾らお前の考えが正しく、素晴らしいものだったとしても関係ない。おい、やれ』
号令を受け、銃撃が更に激しくなる。
だがアルバーに反撃は許されない。
もし反撃をすれば、必ず人が傷付く。それは神の掟に反する大罪だ。
だからといってこのままやられるのも、自殺と見做されて神の怒りに触れる。
どちらを選べど神意に背く、涜神の二択だ。
ならば、どうするか。
「貴様ら、聞こえているか」
答えは決まっている。
それは、選ばないこと。
提示されなかった選択肢を強引にでも作り出し、その道を押し通ることだ。
出来そうにないからと、言い訳をしていては神に見放されるだけだ。
だから、考えろ。
神の試練には、必ず努力で乗り越えられる道筋が残っている。
その道筋を見つけるぐらいのことができずに、信徒を名乗っていい筈がない。
「今から貴様らを、捕まえる。それが嫌なら今すぐに私の視界から失せろ!」
『捕まえる?』
「聞き返すほどのことではあるまい」
『無理だな。お前の機体には、インク用のタンクすら無いじゃないか。攻撃もできないような雑魚に、俺は負けない』
「インクは必要ない。私は貴様らを殺すのではなく、捕まえるのだ。我が神に誓ってな」
神への誓いを破った先にあるのは、終わりの無い地獄のみ。
つまり神に誓うのは、絶対にそれを達成できると確信している時に限られる。
言い換えれば勝利宣言だ。
『宗教家か。馬鹿だなぁ。神なんているはずがないのに』
「私は宗教家と言えるほどの立場にない、唯の一般信徒だ」
『神経を逆撫でするのが上手いな。決めた。お前には地獄を見せてから、本物の地獄に送ってやる』
「そうはならん。私は負ける気など毛頭無い。それに地獄に落ちるのは、暫く先の予定だ」
この戦場で最も落ち着いた舌戦が終わりを告げる。
そして他のどの戦いよりも激しい信念のぶつけ合いが始まった。




