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必殺技と移動手段

「あーもー、ムカつく。完全にこっちが悪いから言い返せなくて尚ムカつく」

 ニコラは日替わり定食のトレーを叩きつけるようにテーブルに置くと、コップの茶を一息で飲み干した。


「次からは怪我しない程度の訓練にする。いいな、ヴィーシ」 

「全く良くないわ。楽しくないなら訓練なんてする意味がないもの」


 そう答えたヴィーシも、少しいつもより機嫌が悪い。恐らくあの後、エイルの折檻をくらったせいだろう。

 三人の中でも特にエイルと馬が合わないヴィーシは、相当長時間に渡って絞られた事だろう。


「なら俺達だけでも怪我しないように、寸止めにしろ。こっちは殺すつもりでやってやる」

「あら、それなら大歓迎よ。どんどんやりましょう」


 しかし新たな危険を見せてやれば直ぐに機嫌を戻し、踊るような箸の動きで豚の生姜焼きを口に運んだ。

「しっかしさ、付き合い悪いよね。アルバーとトレハ」


「何だ、誘ってたのか?」

「なんか面白い情報ないかなって。でもトレハは忙しいって言うし、アルバーは戒律でだめだってさ」

「何が楽しくて従ってるのかしら」


「どうでもいい。それよりトレハに用があったんだが、余裕無さそうだったか」

「お、何事?いやらしい話?」

「……やっぱり技名は俺が考える」

「あっ、ちょっ!待って!それは止めて!」


 ニコラは体を乗り出して、イチトの食事を妨害して考えを改めさせようとする。

「鬱陶しい」


「ねえ、技名って言ってたけど、それって私と戦ってる時にやってきたやつよね?前も考えてたし」

 ヴィーシもまた、少し体を乗り出して問う。


「ああ。この言葉を発したらこう動くって決めておくことで」

「よりスリルのある戦いを楽しめるってわけね!」

 かぶせ気味で、的外れな事を言い出した。


 もしかすると、この女は戦いにスリルを求めているのが自分だけだと気付いていないのかもしれない。


「一回やったら、次からは行動が完璧に読まれて追い詰められる、退屈しない最高の戦略よね!」


 かと思えば今度は、必殺技に頼ることの危険性を正確に見抜いてきた。


 そう、言葉と行動を連動させるのは一回だけなら敵の不意をつくことが可能だが、二回、三回と繰り返す程にその効果が薄まっていくのだ。


 実際包帯男との戦いでは二回目のレティキュラムは防がれたし、ヴィーシの腹に当てられたのも二度だけだ。


 だから必殺技を使うなら、同じ敵には一度のみ、文字通り必殺のつもりで放つ必要がある。

「技、増やすか」

「あ、そろそろ技名の付け方も思いついてきたから、最初に使うま・え・に教えてね」


 余程蜂巣胃が気に入らなかったらしく、妙な技名をつけさせぬようにと執拗に圧をかけてくる。

 その度に邪魔を挟むため、食事の進みが遅い。


「煩え奴だ。んで、トレハはなんで来なかったんだ」

「忙しいからだって。あいつ、基本仕事断わんないからいいように使われてるって聞いたよ」

「そういや医者もそんなこと言ってたな。まあ、こっちで解決するか」


「大した用事じゃ無かったの?」

「まあまあ重要だ。思ったより貰ったマニュアルが使えなかったから、バイク作った奴に改造のアドバイスを」

「改造!」


 改造、という言葉に反応して、ニコラが前に跳んだ。座っていた椅子は吹き飛び、食器は跳ねてガチャンと品の無い音を出した。


「……なんだ」

「改造するんでしょ、機体!改造だよ、改造!」

「言っておくが、どう改造するかは俺が決める。戦略がある」


「はあー!?例えあったとして私が従う義理は無いでしょ!」

「従うなら部品の金は出す」

「へへ、イチトくぅん、それを早く言いなよぉ」


 それを聞いたニコラはテーブルを回り込むと、揉み手でイチトに近付いた。


「貴女、今すっごく気持ち悪い顔と声してるわよ」

「だって金払いたくないもん。私の預金今三千円よ?」

「借金の返済額考え直せ。ヴィーシ、お前の機体も俺の自由に改造させて貰うが、いいな」


「私を高鳴らせるようなのなら歓迎するわ。あとこれ、使って」

 ヴィーシは端末を数回触ると、イチトに送金する。


 費用を出す程度なら別に不思議なことではない。

 だが問題はその額だ。


「うえ!?百万!?」

「何勝手に覗いてやがる。ってか、本当に良いのか?」


「別に金なんて興味ないもの。何なら追加でくれてやってもいいわ。ただ、つまんない機体だったら全部返して貰うけど」

「それなら心配無い。ただ一つ、死んでも文句言うなよ」


「ふふふっ!やっぱり貴方、面白い」

 その顔はニコラのことを言えないぐらいには気持ち悪く歪んでいた。

「ってか何、君、こいつのこと好きなの?趣味悪くない?」


「私より、貴女の方がよっぽど距離近いと思うけど。それにそういうのではないわ」

「『星群』が二人用だから一緒にいるしかないってだけだよ。んで、本当のとこはどんなのがタイプ?」


 ニコラは椅子に座り直し、しっかりと話を聞く体制に入った。

 ヴィーシは大して仲良くも無い相手から好みの異性を聞かれて多少困惑したものの、断るほどでもないと思い、自分の好みを分析した。


「まあ普通に、優しい人とか?それで見た目で寄ってくるような奴は嫌ね。ああ、あと私を楽しませてくれる人」


 話に巻き込まれて、時間を食うのを嫌がったイチトは、残った飯を胃に書き込んで逃げるように席を立った。


「あっ、ちょいとお待ち」

 だが呼び止められ、足が止まる。

 ニコラは残っていた肉を口に入れると、自分の皿をイチトの皿に重ねた。

 そして頼んだぞ、と言わんばかりに親指を掲げる。


 イチトはお盆以外の全てを机に戻すと、そのまま食器返却口に向かった。


「あっ、お盆、お盆返して!運び辛い!」

「流石に好みの男言ったの放置されるのは辛いものがあるんだけど」

「え、ジョークでしょ?君の楽しむって、優しさとは真逆だし、それに見た目除いたらいいとこ欠片も無いじゃん」


「耳貸しなさい。ちぎってあげる」

「ヒッ!医者に殺されるでしょうが!」


「ニコラ、それ終わったら話あるから来い」

「今終わった!あばよアバズレ!」

「その言葉そのまま返すわ!」


 ニコラは素早く逃げ、イチトの後ろに回り込んで挑発した。

 ヴィーシは怒りを込めて全力で走っているようだが、どうも動きが鈍い。


 追う側、つまり追い詰められていない状態だと、全くと言っていい程力が発揮できないらしい。

 ニコラは更にイチトの手を取って、逃亡への布石を撒いた。


「それで、改造?それとも必殺技?」

「改造」

「了解。つっても改造って、何をするわけ?」

「らあっ!」


 追いついたヴィーシが手を伸ばす。

 だがニコラはぴょんとイチトの肩に飛び乗り、それを躱した。


「普通のバイクは雨水、それから石を吹き飛ばす為に風を吹き出して防御してるのは知ってるか。普通の銃弾はそれで弾かれる」

「へー。まあ銃ぐらい弾けないと体に穴空いちゃうよね。で?」


 次にヴィーシはその行動を縛るため、繋いだ手を切ろうとするが、ニコラは即座に首に触れて手を離す。


「それを貫通する武器を乗せる。重量の関係もあって基本はそれだけだ」

「なるほどね。でも、そんな都合のいい武器あんの?」

「ある。けどその前に、ヴィーシ。お前帰れ」


 無視していれば解決すると思っていたが、想像の数倍粘るし、歩きづらいため、流石に対応せざるを得なくなった。


「何で私に言うわけ?悪いのはその女よ」

「ん?ああ」

 イチトは尚も挑発を繰り返すニコラの頭を掴むと、近くの壁に叩きつけた。


「グポォッ!?」

「これでいいか?」

「……まあ、今は良いわ。それに私、改造するの見たいんだけど。出資したんだから良いでしょ?」

「やめとけ。油とか色々で汚れるぞ」

「でも、見たい」


 汚れるのは嫌だが、好奇心を抑えきるにはまだ足りないらしい。

 いじけた子供のように口をとがらせ、ヴィーシは駄々をこね続ける。


 だが招けば間違いなく、今壁と同化している馬鹿と喧嘩をし、面倒を引き起こすだろう。


「知らない方が楽しめそうなものを積むんだが、それでも見るか?」

「期待してるわよ!それじゃ、また訓練誘って!」


 ヴィーシは華麗にターンを決めると、即座に部屋へと戻って行った。

 同じことでも、言い方を変えれば通り易くなる。イチトは宙域に来てそれを学んだ。


「んで、お前もお前だ。面倒ごとを起こすな」

 ニコラの顔を壁に押し付け続け、歩く。

 ズズズズと、肉と金属が擦れる音が響く。


「痛い、痛いよお」

「か弱い声を出すな。頭掴んでるんだから、『星群』で殆ど効いてねえだろうが」


「美少女の顔を壁に押し付けておいて、心傷まねえのかコイツ。それに私だって汚れたくないよ?」

「改造費払うか?」

「喜んでお手伝い致しやす!」


 任務まで、約二週間。

 必殺技や飛行訓練のことを考えると、一人でのんびり改造をやっている暇はない。

 鬱陶しいし金がかかるが、その程度で時間を浮かせられるなら我慢するべきだろう。


「ついたぞ」

 ぱ、と手を頭から離し、ニコラを解放する。

 そして二人は、再びガラクタだらけの部屋へと足を踏み入れた。


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