序幕5
「何飲む?と言ってもお茶しかないけどな!」
なら聞くなよと思いながらも掘り炬燵に座り、特有の程よい温かみを感じながら大和が出したお茶、と言っても回復ポーション扱いであり味もしない物を現実世界と同じように喉に入れ一息つく
VRMMOが進化して漸く痛覚はある程度再現できたのだが、未だ味の再現は叶わず、ゲーム内での飲食は完全に雰囲気だけのものであり、この行為も言ってしまえば茶番になってはしまうのだが、味覚も痛覚も感覚に作用する物である以上近いうちにもしかしたら再現される日も来るのかなと思うと少し期待してしまう
だからと言って良くある話の様なポーション=不味いを再現されるのは嬉しく無いのだが
「そりゃ掘り炬燵何かあったら寝落ちするに決まってんだよなぁ・・・
で、態々人のいない此処に呼びつけた理由は?」
炬燵の魅力に日本人は叶わない これは必然なのである
そして質問した内容も正直9割方予測はついているのである
「Cβテストの内容ってあまり広げるもんじゃないしな
後ゲーム内で他ゲームの話大っぴらにするもんじゃないだろう?」
確かに自分が遊んでいるゲーム内で他のゲームの話をされるのは聞こえが悪い事だなと納得し、そういう面の心遣いや気の周し方は見習うべきだと感心する
当然、口が裂けても本人には言わないが
「と言う訳で本題に移るとだな・・・」
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「いや話が吹っ飛びすぎだろ・・・」
30分で説明された内容を纏めると、既存のVRMMOとは違う要素が多数あったのだが、中でも飛びぬけて気になったのがCβ当選者は公式から招集され、身長体重その他諸々を細かく計測する施設に通され、細分狂わぬ程のデータを取られた後に、リアルの肉体と違和感が無いレベルのアバターを操作してテストに望まされたという現在の環境から考えられない様な待遇だと言う事だった
「ゲームにここまでするか?ってレベルだし聞いた時は正気を疑ったぞ?」
大和の反応は当然であり、そもそもゲームのデータ取りに使う範疇を超えている訳で、幾ら熱心なゲーマーでも怪しすぎると踏んで無視するレベルのうさん臭さな話であるにも拘らず、テスト参加者は定員数いた という話が世界のVRMMOへの期待と需要を感じ取らざるを得ない
「で、大体理解したけど、本当に信用出来るのかこのゲーム・・・?」
ゲームと違ってリアルの体は当然替えが利かず、何かあってからでは遅いのだ
ゲームに人生をかけている人はまだしも一応未来ある若者な訳で、今後長い人生を棒に振るのは地元にいる家族友人に申し訳ない事極まりなく、不安要素から二の足を踏んでしまう
「・・・世間にVRMMO発表したあの男の話位聞いたことあるよな?」
真面目な顔付きになり、此方に問う内容はVRMMO経験者なら誰もが見た事のある あの男 と言う単語
知らない訳がない、しかし記憶が確かならあの謎の男はあれ以降一度も姿どころか声も発する事は無く、今やVRMMO世界では生ける伝説や神様とも世界で語り継がれている
「そう、出たんだよテストの最後の最後に」
自分でも信じられないと言う表情をしながら、その言葉を発した大和の顔は大真面目だったので、思わずそんな真面目な顔出来たんだな と茶化す言葉が出そうになるも飲み込み考え込む
何故今となって再び表舞台に現れたのか その理由は一介のゲーマーである自分達が知る由も無いが、口頭で聞いたゲーム内容とクオリティは今現在VRMMO難民となっている自分たちにとっては耐え難い誘惑なのは間違いなく、柄にもなく興奮していた
「よし、話は分かった、
次のテストか正式の情報は?」
「いや実は・・・明日昼からOβ参加者用アバター測定開始なんだな!!
因みにその翌日Oβテスト開始だってよ!」
「・・・いや!!急すぎるだろ!!!!!?」
怒涛の勢いで圧し掛かってくる情報量の前に遂に抑える事が出来ず、思わず乗り出して突っ込む事になってしまい、この後冷静さを取り戻すのに数分かかったのは言うまでもなく、その後明日の予定を確認し無事に行ける事に安堵するのであった