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グラノスヴェイル

「お前たち娼夫か?」大剣を持った女性は僕たちに聞いてきた。ショウフ?僕も光一も何を言われたのか理解できなかった。

「さっさと答えろこの男ども!」

 僕たちが答えあぐねていると、隣に立った騎士が、僕のほほを剣の鞘でぶっ叩いた。

「礼一!」光一が声を上げた。

「黙れ!」もう一人の騎士が光一を叩こうとした。

「まあ、まて。せっかくの可愛らしい顔が台無しになるだろう」大剣を持った女性が騎士を制止すると、その騎士はすぐに身を引いた。

 僕の口からは、大量の血があふれていた。これまでに感じたことのないような痛みが止めどなく続き、涙と鼻水が滝のように流れた。

「もう一度聞く。お前たちは娼夫か?」

「ちっ、違う!俺たちはそんなんじゃない!」

 二人の騎士が僕たちに近づいた。そして子供の身体の僕たちを担ぎあげると、下腹部をまさぐりだした。

「こっちはついてます」

「こちらもです」

 二人の騎士はそう言うと、二人を地面に投げつけた。女性だ。この二人の騎士も女性の声をしている。

「ほお、ならこんなところで何をしている?見たところこの国の民ではないし、男二人で悪魔に挑もうとでもしていたのか?」大剣を持った女性の目つきが変わった。舐めまわすような目つきは一瞬にして、見下すような冷たい視線へと変わった。

 騎士たちはせせら笑っていた。

「俺たちは……」

 光一がまた口ごもると、また騎士が前に出ようとした。

「まあいい。丁度別の悪魔にやられて男が二人減ったところだ。二人とも縛って檻に入れておけ」

 光一はもう異世界云々とは喋らなかった。


 僕たちは騎士に両手を後ろで縛られた。しばらくすると、馬車がやってきた。二匹の馬に引かれ、檻のような形をしたそれには、僕たちと同じようなボロの服を着た子供が何人も乗せられていた。

「大丈夫か?」光一は騎士達の目を盗んで僕に話しかけてきた。

 僕はうなずくことしかできなかった。痛みに涙は止まらず、恐怖で身体が震えていた。


 檻の中に放りこまれると、先にいた子供たちが僕たちの方を興味深そうに見つめてきた。

 子供。そう思っていた人たちは、よく見ると脛やあごには毛が生え、脂ぎった顔には、深いしわが刻まれている者もいた。子供ではない。ドワーフ?小人?まるで子供オヤジのような男達は全員が子供ではなかった。

「おいなんだお前ら、娼夫か?」一人の男が聞いてきた。

「なんでだよ!?娼婦って!そんなわけねえだろ!」光一が反論すると、周りの男達はゲラゲラと笑い出した。

「可愛い顔してよお。一発頼みてえもんだぜ」

「へへへっ、都会の男はちげえな~」

 ダンッ!騎士が檻を叩いた。途端に男たちは黙りこみ、先ほどまでの威勢は嘘のように檻の中は静まり返った。

 

 馬車は先ほどの大剣を持った女性を先頭に進んで行った。静かになったが、男たちの視線は僕たちの方にあった。これまでに向けられたこともないような視線に、殴られた痛みなど忘れるくらいに恐怖を感じた。

「ねえ、君たち。あんまり気にするなよ」近くにいた男が話しかけてきた。丸く太ったその男は、周りの男たちよりも幾分若く、優しそうな顔をしている。

「僕はシッチビック。シッチて呼んでいいよ。君たちは」

 僕たちは目を合わせた。

「礼一……」あごが腫れてうまく言葉が出なかった。

 光一は僕が名前を言うと、身体をぶつけてきた。余計なことは言うなということだろうか。だが、もうさっきみたいにぶたれるのは懲り懲りだ。

「君は?」

「光一……」光一も迷ったようだが答えた。

「へえ、聞いたこともない名前だね。どこの出身だい?」

 また僕たちは目を合わせたが、どうしたらいいのかわからなかった。

「まあいいよ。僕はセルトミルンから来たんだ。君たち娼夫じゃないならなんなんだい?」

「どこに向かってるんだ?」光一が言った。

「えっ?」

「この馬車はどこに向かってるんだよ!?」

「どこって、グラノスヴェイルさ。見たらわかるだろ」

 シッチはそう言うと騎士達の方に目をやった。

 見ると、騎士達の鎧には紋章のようなものが刻まれていた。鷲か鷹のような鳥が堂々と翼を広げている紋章だった。

「この馬車は何なんだよ?」

「君質問ばっかりだね。まあいいよ。僕たちはみんな徴兵されたんだよ。兵士はいくらいたって足りないからね」

 徴兵。ここにいる男たちは皆後ろで両手を縛られ、逃げられないようになっている。徴兵と言うよりは罪人が輸送されているようにしか見えない。

「君も徴兵されたの?」

「そんなことどうでもいい!」僕が言うと、咄嗟に光一が耳元でささやいた。

「まあ、僕は家族のためにね。僕は4人兄弟の末っ子だし、家が貧乏だから」

「偉いんだね」

「へへへっ、そう言ってくれるのは君だけだよ」シッチは目を丸くして照れていた。

「兵士って、戦争でもあるのか?」

「戦争?何言ってるのさ。悪魔狩りだよ。さっきの見なかったのかい?」

「悪魔?」

「さっきのはレナークってやつだよ。結構大きかったけど、騎士がいるなら怖くもないよ」

「レナーク?」

「知らないの?生み余って捨てられた男の子達の悪魔さ」

「へっ?」僕は無意識に変な声が出ていた。

ダンダンダン!騎士たちがまた檻を叩いた。だが先ほどのような怒気はない。

「着いたんだ!」

 男たちは一斉に馬車の正面の方を向いた。馬車が上り坂を上がり終えると、目の前には茶色い城壁が見えた。

「グラノスヴェイルだ」


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