第4話 呪われた天使⑱
「……そう言えば、シュウラはどうして天上大陸に? ガランダールに行くのは知ってるけど」
アリストでの会話は、ガランダールに到着以降の話はしていなかった。
「ガランダールにはこのナックルの手入れが目的……もう一つは天上大陸に上陸すること――」
ガランダールはあくまで得物の手入れが目的であり、それが無かったらすぐに天上大陸に上陸していたという。
その目的は修行――。
シュウラは今修行中の身。天上大陸は、シュウラにとって修行の場所として最適だった。
静かな環境で開けた空間が多数。特に森林地は最も適していた……天上大陸に上陸し、すぐに森林に向かい、修行に向けて精神統一をしている最中に、サクラたちの戦闘が始まった……要は邪魔をされたのだ。
「なんかごめん」
「お前は悪くないだろ……何も無いところで騒ぎを起こすほど馬鹿じゃないだろうし……」
「サクラも私も吹っ掛けられた立場だからねぇ……まあ、私に原因があるのは間違いないけど」
「……二人を狙ったという人たちは、サワンさんを裏切り者って言って襲い掛かったわけですよね……」
「そうなるね」
冥府の誘いの七司教の二人であるキルライナとシャルがサワンを狙った理由は、サワンが冥府の誘いを脱退――二人曰く裏切り者だから。
しかし、メニシアは――メニシアだけではない、他の者もいくつかの疑問があった。
「なんで今さらサワンを狙ったのか……」
「裏切り者って言うならその時に始末したら良かったわけだよな……」
「……ひと悶着はあったけど今回みたいに狙われるってことはなかった……確かに今さらだよね」
裏切り者――皆の疑問通り、何故今さらサワンを狙ったのか、それはサワン当人もわかっていない。
「俺が一撃を入れた時の感触としてはまだ生きてるだろうし、また狙いに来るだろうよ」
「そうだね……でも無傷じゃないでしょ、見た感じダメージの大きそうな攻撃だったし」
「まあ、回復するのにそれなりの時間がかかるだろうな」
「……じゃあ、しばらくは大丈夫?」
「安心はできないけどね……そう言えば――」
何かを思い出したかのようにサワンは両手をポンと軽く合わせる。
「あの二人のこともあって忘れてたけど、この後の準備もしないとね」
「そう言えば今夜だっけ?」
「……?」
シュウラは何のことかわかっていなかったが、今夜は天上大陸を統べる者にしてサワンの育ての親でもある大天使ジャルダルクに、住まう宮殿に招待されている――。
先の戦いでそれなりの疲労が溜まったサクラとサワンの回復を待つと、外は真っ暗――時間帯は夜。
そして、大天使ジャルダルクの配下であるカルナがサワン宅に来訪していた。
「定刻が近づいてきましたので、お迎えに上がりました」
「相変わらず時間には厳しいね~」
「大事なことです……それはそうと、先程の戦いの件についてもジャルダルク様はお聞きしたいとのことです」
「やっぱバレてるか~……だったら介入とかしてほしいよね」
大天使ジャルダルク――天上大陸を統べるほどの人物と考えれば、天上大陸で起きた出来事は全て知っているのではないか……そう考えるとやはり恐ろしい存在かもしれない。
「じゃあ行こっか……シュウラも良いの?」
「さっきも言ったが成り行きだからな……それにサクラたちと共にしたら自信を高められそうだからな……」
「ねえ、サラッと僕たちのパーティーに入るって言ったよね……もう今さらだから別に良いけど」
実のところ、サクラはメニシアやビリンの時とは違い、シュウラのパーティー加入は嫌などの感情はない……これにはとある理由があるのだが、それはまた別の話……。
準備を終えた一行は、カルナの案内のもと、大天使ジャルダルクが待つ宮殿へと向かうのだった――。
「……でっかいねぇ……」
「……うん、お昼に行った大きい教会より大きい……」
「それはそうだよ~、六聖教会の大聖堂も確かに大きいけどエデンでは二番目の規模。ここエデン大宮殿は天上大陸最大規模の建物なんだよ~!」
六聖教会の大聖堂も相当な規模を誇っていたが、サクラたちの目の前に映るその建物はさらにその数倍を誇る。
エデン大宮殿――天上大陸を統べる大天使ジャルダルクが住まう居城でもあり、天上大陸唯一の都市エデンの政治的役割も担う。
サクラたちはその正門の前に来ている。
「それでは行きましょう。ご覧の通りの建物ですので、中は広いです。迷子にならないよう案内しますので、私のそばから離れないでください――」
正門を潜り、カルナの案内の元エデン大宮殿の中に入る。
事前に言われていたとはいえ――。
「……すごいですね……」
「ああ……モネとネロなんて開いた口がそのままだしな」
「「……」」
驚くメニシアとモネ、ネロとは違い、ビリンはそこまで驚いてはいない。
ここと負けず劣らずの規模のファルカスの女王が住まう城に勤務していたというのもあるだろう。
だが、ビリンだけではなく、サクラとシュウラも大して驚いていない。
サクラの懐に顔を出すように潜り込んでいるクオンに至っては、まるで興味が無いのかあくびをしている。
「サクは驚いてないの?」
「うん、まあ……そこまで興味ないから」
クオンと同様だった。
「……シューくんも?」
「驚いてはいる……それ以上にただならぬ気配を感じると思ってな……」
サクラと違い、シュウラは奥から感じる「ただならぬ気配」の方に視線が向いていた。
ただ、別にサクラもそれについて気づいてない訳ではない。
「やっぱりか、私も感じてるけどてっきりこの場所の雰囲気に飲まれてるんだとばかり思っていたが……」
「始めてくる人はだいたいそうだよ……シュウラ……サクラもか、二人が珍しいんだよ」
「大天使の持つ気配を本人が単純に抑えきれないほどの……かと思ったけど、それで何百年も統治できるほど大天使はその程度の存在な訳ないだろうから意図的に気配を完全に抑えていないよね」
「その通りでございます、サクラ様――」
サワンが答えるものだとばかリ思っていたので、カルナが回答するのは意外だった。
「ジャルダルク様程の方でしたら自身の強大な気配など完全に消すことなど造作もありません。あえてそうしているのは、エデン大宮殿に立ち入る存在を見極めるためです」
「見極める……ですか……?」
「……」
「その存在がジャルダルク様……いえ、天上大陸に闇をもたらす存在なのか……それが理由になります……では参りましょう、天上大陸を統べる大天使ジャルダルク様がお待ちです――」




