第4話 呪われた天使⑯
脱ぎ捨てた半着を取りに行き、戻って来たところでシュウラを連れて一同はサワンの家へと向かった。
到着すると、リビングに集まり着席すると、先の戦闘時にいなかった四人に一連の流れについて説明した――。
「――冥府の誘い。まさかここにも現れるなんてな……」
「聞いた感じだと、サワンさん個人に用があるような感じですけど」
「僕もそこが気になる所だけどそれを話すどうかはサワン自身だよ」
サワンに視線が一斉に集まる。
「……」
「でもそれを強制するつもりはない。話さなかったからといって何かするつもりはないし」
「サクラ……ううん、話すよ」
決心したサワンは、一呼吸置いてゆっくりと口を開く。
「……元々は冥府の誘い……七司教の一人だったの」
この告白にサクラとシュウラ以外は驚きの表情を見せているが、今までのサワンを見てきたことに加え、今の漂う空気感が、静寂さに拍車をかけている。
「その前に私はね、生まれつき呪い持ちなの――」
手のひらに禍々しい輝きを放つ炎を生みだし、すぐに消炎する。
「呪いの名は呪法……呪術とも言うかな。本来なら天使――天族はその呪いとは無縁の存在。だけど私は生まれながらにして呪いを使えることが出来た……だけどそれをみんながすんなりと受け入れるはずもなかった。気味悪がった私の親は私を捨てた……そして大天使ジャルダルクに拾われて育ててもらった」
「ちなみにサワンさんの親は……」
「死んだよ。まあ、その前に私を捨てたことに大激怒した大天使がこの地を追放したんだけどね。そういうのが大嫌いだから……死んだって言ったけど、正確には、不幸にも通りすがりの悪魔に殺されたというのが正しいけど……あ、別に悲しいとかそういうのはないよ。だって私が生まれて数分で捨てたんだからそもそも記憶なんてないさ」
だが、サワンの表情はどこか暗さを感じる。
「話を戻すけど、呪い持ちの天使は珍しい……いや、異例の存在……つまりは注目の的……いじめの対象としては格好の存在になるだよ――」
幼少期のサワンは、大天使ジャルダルクのもとで育った。
全天使の憧れの存在である大天使が育ての親であっても、その眼から外れるとどの種族もやることは同じ――幼少期から陰でいじめに遭っていた。
差別なんて当たり前のようにあり、それらは人から見たら想像を絶するほど。
大人になってもそうだ。幼少期よりは目立たなくなったとはいえ、その分質が悪いいじめというのは続いていった。それでもサワンは耐えた。
育ての親である大天使を心配させたくない……ただそれ一心だった。
「でもね……溜まり続けたものはいつか爆発する……私もそうだった――」
サワンが生まれて百年以上が経ったある日。
偶然出会った小動物……弱っていた小動物をサワンは保護して、面倒を見た。
その子は元気になっていくに連れてサワンに懐いていき、いつしか家族として一緒に暮らすようになった。
この頃はすでに現在住んでいる家で一人暮らしをしており、サワンにとっても新しい家族というのは喜びの感情でいっぱいいっぱい……それは大天使にも伝わり、今までのこともあったので本人も安堵していた。
だが、いじめが無くなった訳ではない。
幼少期、大人から忌み嫌われ、同世代からは差別やいじめを受けていた。
サワンが大人になる頃には、サワンの人柄やそれまでの行動から、忌み嫌っていた大人は、反省、謝罪する者が多く、良好な関係にまでなっていた。
しかし、サワンの同世代はそうではなく、逆にそれが気に入らないと思う者まで現れ、あの事件が起きた――。
小動物――マーくんと名付けたその子が家族になってからしばらくたったある日、出かけの用事を終えて帰宅した時、家にはマーくんの姿が見えなかった。
最初は家の近くを散歩しているのかと思ったが、どんなに待っても帰ってこない。
心配が頂点に達したサワンは、探しに出かける。
家の周りにはいない。都市部の方に向かい、色々な人に聞いて回ったが見つからず、結局都市部で見つかることはなく、帰宅するときのことだった。
都市の入り口にいた警備の人から一通の手紙を受けとり、すぐに中身を確認した。
「森林部の最奥で待つ」
たったそれだけの内容に疑問を持つが、何か嫌な予感を覚えたサワンは急いで森林部へと向かう。
走りに走り、すぐに開けた場所――最奥に辿り着くと、行方不明になっていたマーくんがいた……ボロボロの状態で――。
「マァ……くん?」
何がどうなっているのかサワンにはわからない。
なぜここにマーくんが、それもボロボロの状態でいるのか……何も気配を感じない。
すぐマーくんのもとへ向かうと――。
「しん……でる……」
呼吸も感じず、硬直している。
すぐに治癒の魔法をかけるが、やはり回復しない……手遅れだった。
次の瞬間、サワンを囲むようにして半円の障壁が展開された。
振り返るとそこには、幼少期からサワンをいじめていた主犯格の天族の男とその取り巻きがいた。
「――悪魔の分際が幸せになれると思うなよ!」
「だから俺らが悪魔の使い魔を殺してやったんだ、感謝しろよって悪魔のお前に言ってもな」
「「「ハハハハハハハハハハハハ――」」」
混乱のあまり、何を言っているのか全てを聞き取ることが出来なかったサワンだが、これらいくつかの言葉は聞き取れた。
そして、悪魔と揶揄する者たちの悪魔のような笑い声……そんなしょうもないことでマーくんは殺された……。
――私は、幸せになることも許されないのか――。
この瞬間、何かが弾けたサワンは、一瞬にして今いる森林を焼け野原へと変えた。
突然の出来事に男たちは唖然とする。
幸いなのか、自衛の魔法を身につけているということもあり、ダメージはあるものの、死ぬというようなことはなかった……しかし、そんなことはサワンにとって知ったこっちゃなかった。
今のサワンは完全に悪魔と言われても遜色はないだろう。それくらいの激しい怒りがサワンを包み、いじめてきた連中を蹂躙する。
騒ぎを聞き駆けつけてきた大天使ジャルダルクとその使いは、暴走するサワンを抑えにかかるが、止められず、それは大天使も同じことだった。
都市部にまで影響が出始めたことにより、大天使も本気で止めにかかる……それも命をかけるほどに……結果的にサワンの暴走を止めることに成功した……天上大陸史上最大の被害をもたらす形で――。
この事件は、内容が内容だけに歴史に語り継がれるということはなかった。
大天使ジャルダルクの名のもとに……。
今回の事件のきっかけとなったいじめグループの連中は、サワンの親同様追放……ではなく、無期限の投獄。
やり過ぎでは片付けられない……これは大天使の下した決断ではなく、彼らの身内による決断だった。
大天使はそれに了承する形で下した。
当のサワンは、被害者側の立場で、それは都市エデンに住まう者たちも理解していること。
しかし、それでも恐怖というものは植え付けられた。
それはサワン自身も理解している。
加えて、溺愛していたマーくんが殺されたということが深く心を抉るようにして刻まれ、半ば人間不信のような状態となり、家に引きこもっていた。
数年単位で引きこもった後、大天使も含めて誰にも悟られないようにして天上大陸から離れた――。




