第4話 呪われた天使⑭
「……なんだ?」
魔術銃を持つ手に違和感がある訳ではない。
それはキルライナの身体もそうだ。
呪眼――サワンがそれを発動させたのと同時に寒気がキルライナを襲う。
呪いの一種であることは何となくわかるのだが、キルライナは見たことがなかった。
どういった能力なのか、それをキルライナは知らない。
「寒気でも感じた……でも、もう遅いよ」
「なんだと……は?」
突如、キルライナの視界のすぐ上――空が発火した。
驚きつつ、発射し続けるその手を止めることはなかった……しかし、この判断は間違いだった。
「――!?」
サワンに撃つその銃弾が、サワンの手前で燃える。
それだけではない。銃弾の発火は、徐々にキルライナに近づいてくる。
「なんだこれは――」
咄嗟に発射を止める……同時に魔術銃が発火、爆発した。
「あつっ――」
「……私に近づく銃弾で一番私に近い弾に呪いを付与して、さらにそれに近い弾に呪いを感染させる……それを繰り返してあなたに近づく……そしてあなたが銃弾を放つのを止めた際に引っ込めた魔力はすでに呪いに感染していた。だから私は、呪いに感染したあなたの魔術銃を爆発させた……これが答えだよ」
「……その眼か」
「うん、正解――」
呪眼――それは、サワン自身の眼に呪いを付与させたもの。
呪われた眼に見つめられたものは何かしらの呪いを付与される。
それは人だけではない。
キルライナの上空を発火させたように、空間にも呪いを付与することが出来る。
さらに、呪いはものからものへと感染させることが可能であり、それは空間から人へとも可能だ――。
「……は? まじかよ」
違和感を覚えたキルライナは、視線を手に向けると、血だまりがあった。
手からの出血ではない。
眼や口、鼻からの血が垂れて、視線を落とした際に手が受け皿のようになり溜まったものだ。
気付いたのと同時に、咳き込み、同時に吐血する。
「……幻覚とかじゃないよな、これ」
「正真正銘キル、あなたの血だよ……あなたも呪いに感染した……安心して良いよ、生物は爆発しないから……やろうと思えばできるけど」
「できるのかよ」
自身の硬化させた翼を元に戻し、姿を現したサワンは、負傷はそのままに、呪いの眼は異彩を放っている。
「でも、止血しないとあなたは死ぬよ。いいの? 大切な恋人を置いて逝くなんて」
「おいおい勝手に人を殺すなよ……だったら――」
爆発していない魔術銃を手に取り、再び自身の頭部に銃口を向ける。
「なんで裏切り者が俺の相手をするのかって思ったが、シャルを引き離したのは失敗だったかもなぁ……シャルだったら呪いを食い尽くすんだろうけど、俺は吹き飛ばすくらいしかできねぇからな――」
一発の銃声、再び立ち込める硝煙。
全身が光に包まれ、流れる血が止まる。
「止血は済んだぜ……だが――」
「呪いは完全に消し飛んでいない」
銃声は、止血だけではなく、呪いもある程度吹き飛ばした。
しかし、ある程度であって、完全にキルライナの身体から消えたわけではない。
「私の強さがどのくらいかは知ってるよね……呪いの強さが私の強さ……」
両翼を全開させ、両手に呪われし魔力を宿す。
「あまり私のなめるなよ、キル――」
認識できるほどの強い魔力を解放するサワン。
「……」
それをただただ見つめるキルライナ。
焦りを見せるその表情に、矛盾した不敵な笑みを浮かべる。
何かを言葉を発しようとしたその時――。
「――!? ぐぁっ――!!!」
突如としてキルライナを襲う暴風――横に流れる竜巻状のそれは、サクラと戦っていたはずのシャルを飲み込み、そのままキルライナと衝突し、二人をまとめて吹き飛ばした。
「……え?」
突然の過ぎる展開に驚きを隠せないサワン。
その場に呆然と立ち尽くし、キルライナたちが飛ばされた方向を見る。
暴風に巻き込まれた二人は、ある一定の地点に倒れていた。
二人とも何とか立ち上がろうとしているが、ダメージが酷いのか、身体を動かすのがやっとのように見える。
「――あの程度じゃまだ倒れないか」
「サクラ……ってなに、その格好?」
振り返るとそこにはサクラがいたのだが、最後に見た時と違い上半身がさらしのみの状態となっていた。
「だってあの女の人が衣類を切ろうとするから……一応この服、お気に入りだから……脱いだ」
「あ、そうなの」
意外な一面を見たかもしれないと思うサワン。
実際一緒に旅をしているメニシアたちも知らないことだろう。
「……つまり、あの暴風はサクラの――」
「六道神流……二ノ太刀である天上・闘風ノ打撃……暴風を刀に纏わせて攻撃する打撃技……纏わせた風を解放することで遠距離にも対応できる……シャルとかいう人を吹き飛ばしたのがその一例だよ」
正直、サワンはサクラの力を侮っていた……別に弱いだなんて一度も思っていない。
しかし、感じたエネルギーの変化的にシャルは間違いなくキルライナのように本気を出していたはず。
本気を出したシャルと互角くらいの苦戦を強いられるものだとばかり考えていた自分を殴りたい。
まさか、身につけていた着物を切られただけでここまでシャルを一方的に追い詰めるだなんて……。
「男の人を巻き込むように技を放ったつもりなんだけど……だてにグランの同僚というわけか」
「グラン……か――」
その名を聞いてどこか懐かしむサワン。
「……」
やはり、何かを察してサワンを見つめるサクラは、会心の一撃となるような一言を放つ。
「やっぱりそれ、呪いだよね」
「……やっぱり隠せないかぁ」
サクラが来たタイミングで呪眼を解除していた。
しかし、魔力の残滓だけは完全に消すことは出来なかった。
「それに……サワンもこの人たちの同僚だったの?」
「……うん」
サクラが指す『同僚』――それを肯定したサワン。
サワンも、キルライナやシャルと同じ冥府の誘い……七司教の一人だった……。
「でも、今は違うよ――」
「わかってる……じゃなきゃ魔王狂信者が魔王を倒すなんてことしないでしょ」
冥府の誘いは悪魔――魔王を狂気的に信仰、崇拝する者たちの集まり……特に強く狂気じみた信仰に加え、戦闘力という面で突出した実力を兼ね備えているのが七司教……いわゆる幹部のような立場。
サワンもその一人だった……魔王討伐――勇者一行の仲間に加わるまで――。
「それに、今話すタイミングでもないでしょ……まずはあの二人をどうにかしないと」
「……うん、ありがとう」
サクラの気遣いに感謝をしつつ、改めて二人の七司教と対峙する。
肝心の二人は、震えながら何とか立ち上がり、その表情は怒りなのか狂気なのか……。
「サワンもサワンだが……」
「あの小娘も想定外……あれを使うつもりは無かったんだけど」
(――あれ?)
意味深い単語を聞いたが、突如として二人の魔力の流れが変わる……まるで一つになろうとしているような――。
「サクラ、油断しないで」
サワンの表情や声から油断が微塵も感じない……むしろ焦りが色濃く出ている。
「あれは流石にまずい、止めないと――」
次の瞬間、再度呪眼を発動させ、さらに両手に魔力を込める。
「これは呪われた魔力……でもそれ以上に――」
サクラが気になるのはキルライナとシャルの魔力が急激な上昇を見せていること。
それに、二人はなぜか身体を触れ合わせるようにして抱きしめる。
顔を近づけ、唇が重なり合おうとしている……すでにサワンは動き出しており、それを止めようとしているが、明らかに間に合わない。
唇同士が触れる直前――第三者が参戦した。




