第4話 呪われた天使⑬
時間は少し前――。
「まったく、元気な奴らだな……被害なんて被りたくないから離れてくれるのは感謝感謝っと」
サクラとシャルはこの場を離れ戦闘に移り、残されたサワンとキルライナ。
喋るキルライナに対してサワンは沈黙を守り続けている。
「おいおいだんまりかよ……そっか、裏切り者開く口は無いか」
嘲笑うように言葉を向ける。
何度も出て来る「裏切り者」という単語。
それに対してサワンは同様も何もないが……。
「あなたこそ余裕だね……それとも不安だからそのお喋りな口は閉じないのかな?」
発言と同時に再びサワンは両手に魔力を込める。
「はっ、誰が不安だってかぁ……そもそもお前、あれを使わねーのか」
「……」
何を言われても沈黙を守り続けていたサワンが初めて眉をぴくっとさせた。
「あれを使う程の実力になってから言うんだね」
言い終えるのと同時に地を蹴りキルライナに殴り掛かる。
「また近接かよ!」
わかりきっていた行動にキルライナは冷静に銃口をサワンに向け発砲する。
それを承知で突っ込んできたサワンは、放たれた銃弾をものともせず、ただひたすら前に進む。
「……マジかよ」
魔力の銃弾とはいえ、殺傷能力が無い訳ではない。
痛みを伴うのはもちろん……いくつもの銃弾がサワンに命中している。
なのに、痛みを感じているという素振りを見せず、真っ直ぐキルライナの視界に潜る。
振り上げられた拳を銃で防ぐ。
「ブレスレットがないとそれしかできないのかよ」
「だから?」
「だったら俺よりシャルを相手にした方が良かったんじゃねぇのか」
今までサワンが見せてきたのは拳に魔力を込めた近接戦闘ばかり。
だとしたら、同じ近接戦闘を得意とするシャルと戦った方が相性的には良いはず。
キルライナの言う通り、ブレスレットやあれを使用しない限り近接戦闘に限るのなら、戦略としてはミスとも言えるのではないか……。
「……あなた、私が近接しか戦えないと思ってるの?」
「現にそうだろうがよ。それともなんだ、遠距離攻撃でもあるってか? だとしたら使わないのはおかしいだろうがよ」
「どっちみち私は近接以外は使えないだろうと判断した訳……か……はあ」
ため息をこぼすと、サワンの全身が赤く光りだした。
「何だ……」
「なんで私が貴方の相手をしたか……今まさにこの会話が答えだよ。ちゃんと深く考えようとしないお馬鹿さんだから」
「てめえ――」
すると、赤く光るサワンの身体は、段階を追うごとに膨張し始めた。
「は?」
「――遅い」
次の瞬間、サワンの身体は完全に赤く染まり、同時爆発離散、爆炎と共に大きく黒煙が立ち込めていった――。
大きく立ち込める黒煙。
その先には傷汚れ一つない天使――先程その身が爆発離散したはずのサワンが立っていた。
さらに、黒煙の中から、全身火傷など、重傷を負ったキルライナが出てきた――。
「なんだよ……今のは……」
「ふーん、その程度で済んだんだぁ……運がいいこと」
浮かべる笑みは、サクラたちには一切見せなかった冷酷そのもの。
逆にキルライナは怒りに満ち溢れていた。
「なにって言われても、キルが言ったんじゃない……あれを使えって……だから使ったんだよ……呪いをね」
サワン自身による爆発は『呪い』によるものだった。
「俺程度には使わねーんじゃないのか」
「だから一番弱いのを使ったんだよ」
一番弱いのでこれだけのダメージ。
だが、思いのほかキルライナは驚きも絶望もすることはなく、ただ怒りの眼差しをサワンに向ける。
「やっぱりムカつく奴だな――」
魔術銃を構え直し、銃口を|自身の頭部に向け、発砲する《・・・・・・・・・・》。
「……」
サワンは想定通りだったのか、特に表情を変えることはなく、ただただキルライナを見つめていた。
発砲された頭部から硝煙が立ち込めるのと同時に、頭部から全身に行き渡るように魔力の光が循環していく。
「ハハ、普段はシャルに頼むんだけどな……あいつもあいつで楽しそうだし邪魔するもんじゃねーから自分で久々にやったけど……やっぱ気持ちいいもんだぜ」
怒りの表情とは打って変わり、快楽に溺れたような表情に陥っていた。
「だったら永遠に自分自身に銃弾を撃ち続けて快楽を得ていればいいよ」
「……それでもいいけどさ……うるさい――」
「!?」
背後からの奇襲――撃たれた。
振り返ると、目の前にいたはずのキルライナがそこにいた……しかし、元居る場所にキルライナは立ち尽くしたまま……サワンは何かを思い出したかのように視線を撃たれた箇所に向ける。
「――しまった」
血どころか傷一つ無い。
さらに背後にいるキルライナはノイズのようなラグを見せる。
しばらくすると、ノイズが極まっていき最終的に消滅。
サワンは対応しようとするが、忘れていたことが後手を踏む結果へと繋がってしまう。
一発の銃声と共に一弾が、サワンの心臓目掛けて放たれた――。
「――ッ、そのまま一生忘れたままだったら楽だっただろうな……いや、脳じゃないから苦しむか……まあどっちみち外したから苦しむことに変わりないか」
「……」
今度こそ、サワンの右肩から血が流れる。
魔力で作られた銃弾――先程のとは違い、殺傷能力が高い一弾。
「今度の身体は呪いで作られたやつじゃなくて生身みたいだな……そのまま動くなよ……痛みで苦しむ姿……見ててゾクゾクするからなあ!」
充填することなく再び放たれた攻撃を今度は硬化させた羽で防ぐ。
「――さすがに痛いか」
殺傷能力が高まった銃弾は、防ぐだけでも痛みを伴う。
キルライナの魔力が尽きない限り続く攻撃――早く対処しないと自分の身が持たない。
「さすがにあの時よりは強くなってるよなぁ……ふぅ」
一息吐いて、ゆっくりと眼を閉じる。
そして、次の静かな発声とともに呪われた瞳が開眼する。
「――呪眼、発動」




