第4話 呪われた天使⑫
傷が癒え、完調したキルライナに、キルライナの身体に付与されていた雷切の力を喰らい、パワーアップしたシャル……ここからが第二ラウンド――本番の始まりだ。
「いくつか気になることはあるけど――」
サクラはそう言ってサワンをチラ見する。
「……やっぱり気になるよね」
「でも、サワンからじゃなくても聞けそうだしね――」
刀を再度構える。
「……ねえ、サクラ」
「なに……」
「サクラが身につけているそのブレスレットなんだけど――」
「ブレスレット?」
言われて、刀を持つ手の方に視線を落とす。
そこには、旅立ちの頃から……いや、あの時以来肌身離さず身につけているブレスレット。
なぜこのブレスレットなのかという疑問を抱きつつ、この状況において何の意味もなく言う性格ではないことは、短い期間ではあるが知ったつもりだ。
その前提と疑問を抱きつつ、サワンにブレスレットを渡すため、手を伸ばそうとするが――。
「させるかよ――」
一つの銃声と共に妨害される。
しかし、サクラたちの目の前に現れたのは銃声を発した主ではなく、細剣使いの女だった。
「油断は禁物……そんなわけないよね!」
細剣を容赦なく突きの連続――一突きごとに刀で防いでいるが、明らかに速度が上がっている。
「驚いたぁ? 驚くよねぇ……だって君のあの技、能力上昇系じゃないもんねっ」
最後の一突きに力がこもっており、サクラも対処できず思わず下がってしまう。
「サクラ――」
「お前の相手は俺だ、裏切り者がよ!」
魔力の銃弾がサクラへの支援を妨害する。
「うっとうしなあ……お望み通り、相手をしてあげるから」
サクラVSシャル、サワンVSキルライナという大戦構図が生まれた――。
サクラたちが本格的な戦闘に突入する直前――。
「この気配……」
天上大陸にある森林……開けた場所に巨大な岩が半分埋め込まれている形でそれはあり、その上に一人の男が腰を下ろしていた。
男は、不敵な笑みを浮かべたまま岩から飛び降り、身体を伸ばす。
「面白いことになってるなぁ……サクラ――」
刀と細剣の応酬――広がる草原に鳴り響く剣と剣がぶつかり合う甲高い音。
雷切の効果を細剣を通して自身の力へと変化したシャルは、速度だけではなく、一撃ごとのパワーも上昇している。
「ハハハ――この程度じゃないでしょ、サクラちゃ~ん」
「……」
防戦一方……ということでもない。
サクラは、シャルという現在敵対している女性を見極めているのだ……本当にこの程度の実力なのかと――。
「もう~だんまりなんだから~……これならどう?」
細剣を引き、一瞬の間が生まれると、細剣の刀身が光り輝く。
「魔力……」
「フフ……一閃突き」
引いた細剣を思い切りサクラに向けて思い切り前に突き出す。
同時に刀身を纏う光――魔力がビーム状に発射された。
「!?」
手を動かすのは明らかに間に合わない。
速度は閃光のごとく一瞬……先程の突きのように刀で防ぐことは不可能。
サクラの選択は魔法による障壁……しかし――。
「う~ん、間に合っちゃったか」
「……間に合ってないよ」
言葉通り、サクラの右肩はシャルの攻撃を掠めている。
布部分は切れており、血も流れ始めた。
「心臓を狙ったつもりだったけど、その障壁が展開と同時に逸れたのかな?」
「……はあ」
一つため息をつき、魔法の障壁を解き、自身が身につける着物に手をかける。
「……何してんの、あんた」
シャルが驚くその光景……それもそのはず。
目の前のサクラが、着物に手をかけたと思ったら、半着だけを脱ぎ捨てたのだ。
「汚れるだけならいいんだけど……」
「だからと言って、脱ぐ必要はなくない?」
目の前の少女は、袴はそのままに、上半身はさらしだけの状態。
さらに刀を構え直したその姿に、一切の隙など無かった。
ほんの少しの沈黙……最初に破ったのは、サクラの詠唱だった。
「エンチャント……俊敏――」
「!?」
唱え終えるのと同時にシャルの視界からサクラが消える。
シャルが振り返るとすでにサクラは斬り下ろす体勢に入っていたが、雷切を自身の力へと変換した速度が何とか細剣で防ぐという対応が出来た。
「なに……そのスピード……」
「まだまだ続くよ――」
言葉の通り、再びサクラが視界から消えると再び背後に襲い掛かる。
先程同様に何とか対応は出来たが、それの繰り返し。
続く攻撃の雨がシャルを防戦一方へと追い込み、先程とは真逆の展開になっている。
「……ッ」
(何なのこの小娘は――)
シャル自身の実力は、サワンと同等であるという自覚を持っている。
ゆえに後れを取ること自体そうそうないく、それはサワンと対峙しているキルライナもそうだ。
しかし、目の前の少女は明らかに強い。
まるで、あの女と戦っているかのようだ……だが、ここで一つの疑問が生まれる。
「……この魔力……まさか」
「余裕だね」
どの一撃よりも重い斬撃がシャルを襲う。
何とか細剣で攻撃を流すことが出来たが、細剣に蓄積されるダメージが限界を迎えようとしており、シャル自身早めに決着を付けないといけないと考え始めた。
「そっくりそのまま返すけど……この程度じゃないでしょ」
「……ハハ、これがブーメランってやつかぁ……舐めた口きいてんじゃねぇぞ小娘がよ!!!」
怒声とともにシャルの秘めた魔力が解放される。
次の瞬間、細剣を自身の心臓に突き刺した。
「……細剣を飲み込んでいる?」
突き刺した細剣は、心臓に飲み込まれるようにして吸収されていく。
「ハァ、ハァ、これだよ……この快感がハハハハハハハハハ――」
快楽に溺れているような表情を見せる……とても心臓に細剣を突き刺した者の表情ではない。
細剣を完全に取り込むと、快楽に溺れたその表情は絶頂に達した。
同時に、解放された魔力が爆発的に上昇し、魔力が光り輝き、シャルを包み込む。
サクラが感じた通り、先程とは明らかに違う。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……気持ち良過ぎ……」
包み込む魔力がシャルに吸収されると、驚愕の姿を見せる。
表情は快楽に溺れきっており、身体も特に変わりはない……ある点を除いて……。
「……」
「ハァ、ハァ……ぁ、そうか……この姿に驚いているのかぁ……」
そう言って、右手だったものを顔に近づけ、頬ずりする。
「右手……いや、四肢の細剣化……」
信じられない光景……いや、これ以上の光景をサクラは見てきているのでそれなりに耐性があると思っていたが、初めて見るそれはさすがに驚く。
四肢の細剣化……その名の通り両手両足が先程取り込まれた細剣と同じ形となっており、さらに地に足――いや、細剣は着地しておらず、浮遊している。
「この姿になるのは本当に久しぶりだよぉ」
頬ずりしていた右手側の細剣をサクラに向ける。
「ありがとぉ……お礼に快楽漬けにしてあげるよ、サクラちゃ~ん」
「……」
サクラは刀を中段に構え、一呼吸置く。
「六道神流――」




