第4話 呪われた天使⑧
サワンに案内された場所は、周りと比べるといたって普通――言い方を変えると少し古めかしい雰囲気が漂う建物。
いわゆる古民家と呼ばれる建物と言うべきか。
だが、神々しさを放つ都市に飲まれているかと言われたらそうではない。
むしろなぜかこの古めかしさが合っている様にも見える。
「サワ、ここ?」
「そうだよ。ここは私の行きつけのお店! 美味しいよ~」
「……楽しみ」
モネとネロはわかりやすく腹を鳴らす。
楽しみだというのは表情からも伝わる。
「それにね、サクラたちも驚くと思うよ~」
「?」
妙に気になるが、中に入ればわかることだろう。
サワンに案内されるまま建物に入る。
そして、サワンが驚くと思うという発言をした理由がすぐにわかった。
「いらっしゃいませー……あ、サワン……今日も食べに来たの?」
「だって美味しいんだもん」
「「「……」」」
サワンは行きつけの店ということもあり、普段と変わらぬ反応。
モネとネロは空腹ということもあり、周りに目がいっていない。
しかし、冷静な状態であるサクラ、メニシア、ビリンは驚きのあまり動きが止まってしまった。
無理もない。
見た目はサクラたちと同じ人間族……ただ一点、耳を除いて――。
「……エルフ」
「……初めて見たな」
「私は小さい頃に見たことはありますが……」
三者三様の反応を見せるが、それでも共通して驚いていることには変わりない。
「あれ? 三人ともどうしたの……ってそっか、言ったそばから忘れてたよ。ここが私の行きつけのお店。そしてこの人がここの店主で――」
「エルフだよ。よろしくね、みんな」
エルフを名乗る店主――特徴のある尖った細長い耳。
一本一本が細い白髪に、ガラス張りの天井で天然の光が差し込むことによって整った容姿に美しさが増している。
「それじゃあフーちゃん、いつものを六人前よろしく~」
「了解、少し待ってて」
そう言って厨房へと向かう。
「フーちゃん?」
「そう、フウカだからフーちゃん」
「付き合いは長いのですか?」
「う~ん、長いことには長いけど……三桁くらい?」
つまりは最低百年ということになる。
「サワンはどのくらい生きてんだよ」
「さすがに数えてないなー……何百年とは言えるけど……さすがに千年は生きてないな」
「やっぱりおばさ――」
「サークーラー?」
「……何でもない」
地雷を踏みかけた。
天族だけではない。エルフにとっても禁句の単語かもしれないと悟ったサクラ。
「私が小さい頃からの付き合いだから二百年弱くらいだよ」
フウカが人数分の水を持って答える。
「ということは店主は大体そのくらいの年ってわけか」
「そう……あとフウカでいいよ。サワンもそうだけど常連は名前や愛称で呼んだりしてるから。じゃあ料理用意するから少し待ってて」
改めて厨房に戻ったエルフの店主フウカ。
名前や愛称呼び、彼女の人柄がサワンも含めた常連客に愛されている……店内からもそう感じる。
「ちなみにフーちゃんはまだ二百歳超えるくらいなのにエルフの中で屈指に強いんだよ~天才の異名を持つくらいにね」
「そんな人が何でここでお店開いてるの?」
「……さあ? 趣味かな?」
「サワンさんが知らないのですか……」
実際のところ、サワンが言ったこと以上にフウカの経歴は凄い。
その実力はギルドに認知されている程に。
過去にサクラのように勧誘されたこともあるらしいが詳しいことはサワンも知らない。
「そもそもの話だけどさ、フウカも含めて天使以外がこの地にいる――いや、定住している様に見えるんだが、どういうことだ?」
ここに来るまでに天族以外の種族……人間族やフウカのようなエルフもいる。
傍から見たら多種族国家にも見える。
「うーん、何でって言われても困るな~。観光に来て、良さげな場所ってことでエデンに引っ越したとかになるのかな……あ、フウカはそういう意味ではそっちに近いのかな」
フウカが移住したのは百年近く前のこと。
理由はそれこそ住みやすい環境に思えたかららしい。
「ちなみにお店を出した理由は私が理由なんだよ~」
「へえ」
「その理由って……」
「フーちゃんの料理が美味しいからだよ!」
物凄く誇らしげに語るサワン。
「なんでサワンが自慢げなの……はい、サラダだよ」
「ありがとうございま……って、えー!?」
メニシアの視界には両手にサラダ一皿とドレッシングを持ったフウカ。
さらに宙に浮く残りの人数分のサラダが映った。
「一回で持って来るには手っ取り早いよね」
「……魔法って便利だな」
「でしょ」
宙に浮いているのも含めて人数分のサラダが置かれた。
「風魔法の応用みたいなものだよ。待ってて、すぐに次のを持って来るから」
また厨房に戻った。
「ちなみにどれくらい強いの?」
「そうだな……この大陸を守れるくらい?」
その言葉にサクラだけでなく、他のものも驚きを隠せない。
人は見た目ではないなどと言うが、フウカほどその言葉が似あうものはサクラたちは見たことない。
「そんなことより食べよっか――」
そういうのと同時に――。
「お待たせしたね、ステーキだよ」
用意されたのはボリューミーなほど迫力のある厚切りステーキ。
肉とソースが絡み合ったその香ばしさは、食欲をそそるのは言うまでもない。
「「美味しそ~」」
「サワンって割とがっつり食べるの? いつものって言ってたし」
「美味しいものはいつだって食べたいでしょう――」
「それではいただきましょうか――」
見た目に反して、重くない味付けに止まらぬ手。
特にモネとネロは口周りを汚してまで頬張っている。
「モネ、ネロ、美味しいのはわかりますけど――」
メニシアは自前のタオルを取り出してモネとネロの口の汚れをそれぞれ拭き取った。
「ありがとー」
「……(コクコク)」
「――美味しいならよかったよ」
厨房に戻っていたフウカが近くの椅子を持ってサクラたちのいる席にやって来た。
「客って僕たちだけなの?」
「あー……それはね」
「ちょっ、フーちゃん――」
突如慌てだしたサワンだが――。
「朝にね、サワンが君たちのことを話しに来てね……それで今日は貸し切りにしたってわけ」
サワンが朝にビリンと一緒に外から戻って来たのはこういう背景があった。
「う~、言わないでよ~お姉さんとしての威厳が……」
「威厳も何もないでしょ」
「……」
二人のやり取りは、傍から見ていて微笑ましい。
「あのさフウカ――」
「?」
サクラは手に持っていたフォークを置く。
「サワンには軽く流されたけど、フウカは天上大陸出身っていう訳ではないでしょ」
「あー……そうだね、私はここで生まれた訳ではない――」
先程のサワンの言葉通りなら、天上大陸にいる天族以外の種族は、あくまで移住者ということになる。
それは、ここにいるフウカも同じ。
「生まれはここではないけど、私の生の多くはここであることに間違いはない――」
フウカによると、その出身はとあるエルフの村。
しかし、生まれて十数年の後に家出したとのこと。
その間にサワンとは出会っていたらしいのだが――。
「今でも懐かしいよ……あの時のサワンは――」
「お願いフーちゃん……それだけは……」
黒歴史を掘り起こされそうになったのか、サワンは顔を赤らめて真剣に止めに入る。
「……確かに今は関係ないもんね、ごめんねサワン」
「ありがとーフーちゃんー」
「……」
少し気になるサクラだが、本人も知られたくないような感じだから追及は止した。
「それで、家出してしばらくしてからとある地に天上大陸が着陸していてね、それに乗り込んで行こうずっといるってわけ……まあ飲食店も経営しているし、定期的に食材を取りに降りているけどね」
経緯はわかった……しかし――。
「でもその話だと、サワンに誘われたとかじゃねーんだな」
「そうだね……サワンの名誉の為に濁して言うけど――」
フウカは一呼吸を置いて再度口を開く。
「私みたいに家出をしていたんだよ……最近戻って来たばかりだし」
どうやらサワンも家出をしていたようだ。
「最近じゃないよ、二十年くらい前だよぉ」
「別に私たちにとっては変わらないでしょ」
「そうだけどさぁ……」
少しだけしょんぼりしているサワンだが、フウカも含めて何となくその過去を知ることが出来た。
サワンに関しては少し濁されたが――。
「話をしていたらみんな食べ終わったみたいだね」
「ごちそうさまでした!」
「……美味しかった」
「それは良かった――」
フウカは立ち上がり、モネとネロに近づくと、二人の頭を優しく撫でた。
「お金は別に良いよ、サワンの知り合いということもあるけど、天上大陸初上陸という記念ってことで」
「あ、ありがとうございます!」
実のところ、メニシアは内心金銭面でソワソワとしていたのはここだけの話。
「メニシア、別にお金のことは気にしなくていいって言ってるのに……散財は良くないけど」
「そう言っても、計画的に使わないと――」
「大丈夫だよメニシア! ここにいる間は私が払うつもりでいたからお金に関しては気にしないで」
「そういう訳には――ですがありがとうございます、サワンさん」
「この後もエデンを散策するんでしょ?」
「うん、次はあそこかなって」
「あそこ……あー確かに。ある意味観光地的なところだしね」
あそこという場所は気になるが、後々わかることだ。
「じゃあみんな、はしゃぎ過ぎないことだよ」
「はい、ありがとうございました。美味しかったです!」
「また来るよ」
「「明日?」」
「それでもいいけどね……それじゃまた」
食事を終えたサクラたちは、フウカに挨拶を済ませ、店を後にした――。




