第4話 呪われた天使⑦
その日は、砂漠越えの疲れを考慮して、天上大陸の草原で出会った勇者一行の一人であるサワンマイラ――サワンの家に世話になることになった。
モネとネロ、クオンがすでに眠りについてしまったのでどちらにせよ世話になったことだろう。
一日をサワンの家で過ごした翌日――。
「なんかすっごく頭がスッキリしてるよ~」
「うん……なんか気持ちのいい朝を迎えたって感じ……」
「モネもネロも結構長く寝ていたからね。夜ご飯食べ終わった後もすぐに寝てたし」
「そういうサクラさんもご飯を食べた後しばらくして寝てたじゃないですか」
「眠かったしね……ビリンは?」
サワンの家の広間にはビリンとサワン以外のメンバーがすでに揃っていた。
クオンは昨日サクラたちが座っていたソファでいまだ眠りについている。
「まだ寝てるんじゃない? サク、起こしに行こうよ~」
「――悪い、待たせたな」
入り口の方からまさかの声が聞こえてきた。
ビリンとサワンだ。
「二人とも、どこか行ってたの?」
「少し体を動かしに走りに出ていただけだ。帰る道中でサワンと合流してな」
「私も似たような感じ、日課の散歩に出かけててね……よいしょっと――」
サワンが身につけていた手提げ袋から何かを取り出そうとしている。
「じゃーん、散歩の途中で買ってきたの。新鮮な果物――今日の朝ごはんだよ!」
果物だけではない。
何本かの飲み物も含まれている。
町に移動せずに朝食を取れるのは正直助かると言ったところだ。
「みんな座ってて、今他にも用意するから――」
朝食の時間、別段特に何かあったということはなく、普通に和やかな雰囲気のまま朝食は進み、終えた。
改めてサクラたち一行は、天上大陸唯一にして五大都市の一つに数えられる最大の都市へと向かうのだった――。
一方その頃、天上大陸入り口付近の草原では――。
「ここに裏切り者がいるってか……つーかいるよな、そりゃあ」
「なんたって天使だもんね……そりゃいるさ」
二人の男女が天上大陸に足を踏み入れた。
男は黒いワイシャツに少しボロついた黒いコートを、女は黒いワンピースに白いジャケットをそれぞれ羽織っている。
「俺たちを裏切っただけに収まんねーで、俺たちの愛しい愛しい魔王様を殺しやがるんだから――」
「そうだね……愛しい愛しい魔王様を殺すなんて……」
「「許すわけねーよな」」
二人を表す言葉――そう、愛したものを失った人そのもの――。
サクラたちが向かう天上大陸の都市エデン。これはあくまで都市部の名称であり、五大都市としてカウントされているのは天上大陸そのものであり、多くの人が持つ認識である。
そして、天使が住まう地ということもあり、都市に入るとすぐにその姿を多く確認できる。
「綺麗な人いっぱいだね、ネロ」
「……うん。何か神様みたい」
「一説には天族は神の使いとか言われてるらしいしな」
「うーん、半分あたっているけど……まあいいさ、そんなこと気にしないで」
「……あれは……?」
「どうしたのシア~」
メニシアが不思議そうに都市の中心部を凝視している。
その理由はすぐにわかった。
「……人間だね、あれ」
サクラも同様のことを思っていた。
皆、天上大陸には天族しかいないとばかり思っていた……いや、正確には他の都市同様に観光客くらいはいるだろうとは思っていたのだが――。
「天上大陸には天使以外の種族も住んでるの?」
「そうだよ~、サクラも住みたくなったり?」
「別に……でも驚きはした」
サクラたちに映るその光景は、天上大陸に住まい、溶け込んでいる人間族の姿。
ただ、驚くべきことはそれだけではなかった。
「ふふふ、これだけじゃないよ。進んで行けばわかるさ」
「?」
サワンに案内される形でエデンを散策する。
今回の目的は、特に何かあるというわけではない。
ただ、サワンが純粋にサクラたちを自分が住む都市を案内したいという理由だ。
しばらく滞在するつもりだったサクラは、一日くらい潰れても良いだろうという気持ちでサワンの誘いに乗った。
と言っても、特に観光地的な場所は存在しない。
なぜなら天上大陸そのものが観光地のような働きをしているからだ。
そういった理由から単純にエデンという都市を案内しているサワン。
衣食住を扱う店から、飲食店、娯楽施設など、別段普通のどこにでもあるような施設。
だが、天上大陸という特性からなのか、どれも特別に感じてしまう。
そして、言うまでもなく広いので、とても一日で案内しきれるはずもない。
加えてメニシアやビリンが興味を示して買い物を始めたりもするのでより遅くなる。
気付くと昼食の時間帯になっていた。
「……買いすぎだよ」
「ごめんなさい、つい興奮してしまって」
「私も、すまねえ……」
「まあ別に良いけど。でも本当に広いね、まだ半分も見てないでしょ」
「そうだよ。四分の一……いや、五分の一くらいかな?」
「広いね~」
「うん……サクちゃん、お腹空いた」
「じゃあ食べに行こう! 行きつけのお店があるんだよ~」
そう言ってモネとネロの手を掴んだサワンはそのまま急ぎ足で、その行きつけのお店へと向かう。
「……少しゆっくり行こうよ」
「でも良いじゃないですか楽しそうですし」
「……ハァ」
「サクラは嬉しくないのか?」
「嬉しいというよりは……うん、僕もお腹空いたしいこうか」
サワンたちの後を追いかけるように取り残されたサクラたちもその後を追いかけるのであった。




