第4話 呪われた天使⑤
少し長い上り坂、それを上り切った先には広がる大草原。
その奥には、巨大な城とそれを囲むように存在する都市――ここが天上大陸。
全てにおいて天使のような神々しさを放つ不思議な地――。
「……は~」
「……きれいだね」
「そうですね……でも綺麗という言葉では片付けられないかもしれません」
その光景に魅了されたモネとネロにメニシア。
無理もない。
それだけの光景なのだから。
旅の便りがあったなら、間違いなく上位……いや、一位を獲得するであろう。
「否定はしねーな」
「……天国みたいだね」
「物騒なこと言うなよ……強ち間違ってないのかもな」
「でもここが天国だったとしたらそれはそれで良いんじゃないんですか? とても綺麗なところですし……」
「わからないよ……外見は天国でも実のところ真逆の地獄かもしれないよ」
「物騒なこと言わないでくださいよサクラさん……」
実のところサクラもこの光景に魅力を感じていた。
だが、目的は観光旅行ではない。
ガランダールのギルド長からは天上大陸にサクラが知りたい情報を持つ天使がいるとだけしか聞いていない。
実際に天上大陸に上陸して、件の天使がいるのは明らかに視界の奥に見える都市以外考えられなかった。
他のものは光景に魅了されつつ、比較的のんびりとその年を目指して歩く。
綺麗な光景に魔獣は似つかわしくない。
現に鳥や小動物などは見かけるが、魔獣と呼べる存在は見かけない。
モネとネロは警戒心が解けているようで、道中で小動物と遭遇する度に遊んでいるので思いのほか進まずにいる。
「……これで何回目なの」
「まあ、別に良いんじゃないですか? あの子たちの過去を考えたら……」
「それもそうだね――」
「……でもな、サクラも言う割にはクオン以外にもくっついているぞ」
サクラの頭上にはクオンが乗っており、下にいくにつれてクオン以外の猫数匹が甘えるようにしてくっついていた。
「……悪くはないかな」
「ふふ――」
モネとネロだけではない。
詳しいことはまだ聞いていないが、サクラもその過去は壮絶だ……。
だからこそメニシアはその光景を見て嬉しく思っている……ずっと続けば良いのに……と――。
「でもこの調子だと一向に都市に到着しませんよね……」
「夜までに着けば良いんじゃない?」
「それだと宿に泊まれなくなるかもしれないぞ……つーかここ、宿泊場所とかあるのか……?」
「さあ?」
「……急ぎましょうか。モネ、ネロ、行きます――」
「――マヤ?」
声のする方向へ振り向くと天使がいた。
女性……ここにいる――いや、世界中の誰もが思う――絶世の美女とはまさに彼女のことを指すのだろうと……ただ一人を除いて。
「――マヤ?」
「え……綺麗です」
「ホントだー」
「……(コクコク)」
「女の私でも惚れ惚れしちまいそうだ――」
「マヤだー!」
天使は唐突に叫ぶと、一気にサクラに詰め寄りそのまま抱きしめるのだった。
「――ッ!?」
「サクラさん!?」
「マヤだー元気してた? でもおかしいなー、マヤってもうちょっと大人びていたような……最後に会ったの十年以上前だもんねー。いや~変わらず可愛いなぁ、えへへへへ――」
「ちょっ、離れ――」
人は見た目に寄らないというが……この天使も該当しているのだろうか――メニシアとビリンが考えていることだ。
一方モネとネロは天使のこの行動を面白そうにして見ている……無邪気な子たちである。
「それに~もう少し髪も長かったような……あれ? マヤじゃなくてヒロ……ヒロか~ヒロも十年以上ぶりだね~もともと可愛かったけどもっと可愛くなっ――」
「――いい加減にしろ!!!」
声を荒げたサクラが、魔力による衝撃波で天使による拘束を無理やり解いた。
「おっと――」
「お前……今なんて言った……」
明らかに怒り心頭中のサクラにメニシアたちは呆然としていた。
だが、何もかもお構いなしにサクラは躊躇いもなく刀を抜き、天使にその刃を向ける。
そして、猶予もなく斬りにかかる――。
「サ、サクラさん!?」
「――ッ、間に合わねぇ――」
「ネロ!」
「うん――」
ビリンは天使を守る様に光の盾を展開、モネとネロは鎖でサクラを拘束しようとするが、どちらも明らかに間に合わない――。
「……おっと~」
状況に反して天使は先程のハイテンションと変わり、おっとりとしている……すると、背中の小さな翼が急激に巨大化、片翼が天使を守る様にして覆った。
刀と羽が衝突――とても羽とは思えない甲高い音が周りに響き渡る。
「――!?」
「なんか怒らせたかな~マヤ……? ヒロ……あれ~?」
「――ッ……お前は誰だ……なぜその名前を……!」
サクラが後退し、間合いを取る二人。
……まただ。
マヤにヒロ……この二つの名前に反応するサクラ。
先程よりも怒りの感情が明確化している……今にでも本気で殺しかねないほどの殺意すらも感じる。
「……あなた――」
翼を元の大きさに戻した天使は、迷いなくサクラに再び近づき、顔を近づける。
「おま――」
「やっぱり――」
天使は、先程と同じようにサクラを抱きしめる――ただ違うのはどこか優しさを感じるところだろうか――。
「間違えるなんてごめんね……こんなに大きくなって……サクラ――」




