第4話 呪われた天使①
時が経つにつれ、砂嵐は次第に勢いを失い、サクラたちがアリストの町を発ってから数時間が経過したら完全に止んだ。
「意外ですね、こんなにわかりやすく止むことなんて」
「ないことはないけど確かに珍しいかもね……まあ。だいたい僕たちが寝てるような時間帯に治まることの方が多いからね」
「そのおかげで歩きやすくなったじゃねーか」
「魔力の消費もある程度抑えられるよ~」
「……(コクコク)」
「でも魔法は止めないで。急に消えるということはその逆もあり得るから――」
雨雲や竜巻、雷などの自然現象を発動させることが出来る魔法だが、あくまでそれは疑似的な範囲に留まる。
自然発生した現象をコントロールすることなど不可能だ。
これが、サクラが気を緩めない理由。
「結構歩いたけどさ、ガランダールまでどのくらいなんだ?」
「僕一人とかだったら夜までには着くけどそれはある程度の無理があってのことだから――」
「そう考えると一泊くらいするのですか?」
「そうなるかもね。幸い、砂嵐も止んだからね」
「でもサク、いま急に来るかもって言ったじゃん」
「……(コクコク)」
「確かに言ったけどそれは小さい砂嵐ね。大きいのは流石にインターバルがあるらしいよ」
アリストの町を発つ直前、アリストのギルド長から教えてもらったこと――。
小さい砂嵐は急に発生することはあるが、サクラたちが足止めを喰らった巨大砂嵐ほどではないにしろそれなりの大きな砂嵐は次の発生までにインターバルが生じるとのこと。
これがこの砂漠を観測してきた人たちによる報告だ。
「まあ、今回みたいなのは見たことがないらしいから用心することに越したことはない……そのための水と風の魔法の膜だから」
「これのおかげで砂埃とか付かないですし、視界不良にもなりませんからね――」
他愛のない話を続けていると、そのうち日が暮れて、雲一つない無数の星が広がる夜空に姿を変えた。
昼間の砂漠は、砂嵐だけではなく厳しい暑さにも要注意だ。
サクラと双子の魔法の膜により暑さは軽減されていたが、夜になるとそれが逆になる。
急激に冷えてくるので、温度調節が難しくなる――。
本日はとある地点で足を止め、その場所を本日の身体を休める場所とした。
「昼間の暑さが嘘みたいですね」
「まさかこの焚火がありがたいとはさすがに思わねーな」
「シアもビリンも砂漠は初めてなの?」
「私は初めてですね。そもそもサクラさんと旅をするまでエリアスの町を長く離れたことがないですから……」
「遠征で何回か来たことはあるけど砂漠で日を跨ぐことはなかったな……基本奥まで来ないし」
「サクちゃんは……しょっちゅう来てる?」
「そんなに来てない……二回くらいかな?」
「そのどれも一日で砂漠を抜けたんだっけか?」
「うん――」
この後も特別重要な会話と言うものはなく、ここまでの道中と同様に他愛のない話続けていき、切りのいいところで皆、眠りにつきその日は終えた――。
日が昇ると同時に目を覚まし、朝食を取り、ある程度準備をした後、砂漠都市ガランダールに向けて再度出発する。
青空が広がり、暑い日差しが照り付けているが、昨日と違い砂嵐一つなく、ガランダールまでの道中を進みやすい環境となっている。
「一雨降ったのかってくらい視界が澄んでるな……」
「そうですけど、ただただ暑いですよ……サクラさんたちの魔法がなかったら死んでいたのではないですか、これ」
「前来た時も暑かったけどここまで暑かったかな……それにしても、シュウラはよく行こうとしたよね」
アリストの町で出会った不殺の暗殺者シュウラ。
中断したとはいえサクラと互角の戦闘を繰り広げた実力者だが、サクラたちと出会ったその日に同じ目的地であるガランダールへと発った。
「対策してるように見えなかったもんね」
「……(コクコク)」
「まあ、今度ガランダールであった時に聞けば良いんじゃない? まだいたらの話だけど――」
「なあ、他の砂漠がどうかは知らないけど、この砂漠って魔獣とかいないのか?」
ビリンの言う通り、ここまで魔獣はおろか、動物すら見かけない。
「いないことはないよ……さっきも言ったけど前回来た時と比べると暑い気がするからどっかしらで隠れてるんじゃない? でもそれは普通の動物とかの話ね。こっちもいないことはないとは思うけど多分魔獣とか入るんじゃない?」
「……夜中襲われなかったのって……もしかして奇跡?」
「奇跡かもしれないし、そもそも魔獣がいないかもしれない……前回も前々回も見てないからね。それかいたとして僕たち同様に寝ていたか――」
普通の動物と違って魔獣は、いまだわからないことが多い。
だからこそ確証もって言葉にすることが出来ない。
いるかどうかもわからないことを含めて砂漠という環境は、意外にも未開の地なのだ――。
「ねえねえサク~」
「なに」
モネがサクラの袖を軽く引っ張る。
「……あれ、なに?」
モネの代わりにネロが、「あれ」という場所を指さした。
その場所は遠く離れており、形がハッキリとわからない。
ただ言えることは……。
「洞窟……いや、建物か?」
「さあ? 僕が前来た時にはそういったものは見たことないけど……そもそも周りを見ていないのもあるけど……行ってみる?」
実際、アリストのギルド長からはサクラたちが見ている洞窟のようなものがあるなどと言う話は聞いていない。
未開の地と呼ばれるくらいなのだから、発見していないような場所もあるだろう。
「……サクラさん。まさか――」
「いや……興味が無いと言ったら噓になるけど、単純に発見されていない場所を見つけたらから確認の意味もあって――」
「私も気になる!」
「……(コクコク)」
双子も興味を示しているようだ。
「どうせガランダールまでの道中なんだ。言ってみようじゃねーか」
「ビリンさんも……まあ……行ってみるだけなら」
「ありがと、メニシア」
「ビリンさんの言う通り道中ですしね……それに――」
「……?」
メニシアがサクラの顔を見る。
その顔を見てやはり思う。
初めて会った時よりも表情が全然違うということ……。
モネとネロが見つけたその場所の目の前までやって来た一行――。
「洞窟というよりは……遺跡? ですかね――」
「うん、その表現の方がしっくりくるかも」
洞窟のような建物のようなそれは、間近で見ると遺跡そのものだった。
何故ここに遺跡が存在しているのか、一体いつからあったのか……誰にもわからない。
砂漠が安全地帯ではないがゆえにのことだ。
「とびら……閉まってるね」
「解除方法みたいなのは……なさそうだな」
閉ざされた遺跡らしき建物には、閉ざされた入り口を解放するような仕掛けが見当たらなかった。
一通り見ても同じ結果……。
「お手上げだね。遺跡みたいなものがあるとだけギルドに伝えればいいかな」
「そうですね……ここにある以外に何も報告するようなことなどないですし……」
「じゃ、行こっか……砂漠都市ガランダールに――」
当初の目的地である砂漠都市ガランダールは、サクラたちが今いる遺跡のある地点から、遠くではあるものの見えるところまで来ていた。




