間話 不殺の暗殺者~選択~③
「正直あのおじいさんに何の思入れもない――だから巻き込んだ所でどうとも思わない」
「おいサク――」
「でもそれだと今のビリンのようにみんな怒るでしょ……だから――」
再度魔法杖を魔物に照準を合わせるように向ける――。
「あの触手を斬り落とす――その後すぐに魔物を倒す」
サクラが導き出した結論。
魔物を倒したということが魔法のトリガーになるということなら、範囲外からの攻撃で尚且つ早期決着をつけた方が巻き込まれるリスクはないと考えた。
もちろん範囲がどの程度かはわからないし、転移の術を使ってくるという保証もない。
だが、発動されたとしても知識もあり、距離もあるので対策のしようはある。
しかし、問題は触手から切り離された老人だ。
助けたは良いが、その後直ぐに放たれる攻撃に巻き込まれてしまう。
距離の問題もあり、老人を助け、守りつつ魔物を倒す攻撃を放つという同時の行動が難しくなる。
そこでサクラがとる行動は――。
「僕はおじいさんを助ける……だからシュウラ、あなたが魔物を倒して」
「……はあ!?」
突然の指名で驚きを隠せないシュウラ。
「なんで俺なんだよ! お前の仲間とかに頼めよ――」
「メニシアはそもそも遠距離攻撃を持たない。モネとネロも同様――いや、鎖があるけどあの魔物を倒せるほどではない。ビリンも無い訳ではないけど魔物の大きさ的に一撃で倒すのは難しいし……」
「そうだな……私のジャスティス・アローだとあそこまでの距離だと届きはするが威力はさすがに……至近距離だったら話は別だがな」
「残りは僕になるけど、この距離だからおじいさんを助けながら魔物を一撃で倒せる攻撃を放てる自信がない……というより加減が出来ない。だからシュウラに頼んでる……出来るでしょ?」
「……ッ……はぁ……確かに出来るけどな……」
あっさり吐いた。
ビリンに止められた際にシュウラが放とうとしていた技。
構えやエネルギーの流れから遠距離系統の攻撃ではないかと推測していたのだが、当たりだった。
「ここまで勘づいているなら隠したってしょうがない。遠距離と言っても俺のは一つしかない……俺自身最強の技ただ一つだけ――」
「そう、だったら頼める?」
「……断ったところで俺の意見なんか聞かないだろ」
「そんなこないよ……稀に」
「……じいさんを巻き込まないようにしつつ魔物を一撃で倒す。威力をコントロールする必要もあるが、お前がさきに魔法を放て。でないとじいさんが死ぬぞ――」
「わかってる……いくよ」
魔法杖を構え、魔力を込める。
老人を縛る触手のみに命中させるように繊細に魔力をコントロールする。
同時にシュウラもエネルギーを両手に集める。
「風の刃よ……小さく踊れ――エアロスライサー」
魔力が溜まりきった魔法杖の水晶から小さな風の刃が無数に放たれた。
綺麗な軌道を流れるように老人を縛る触手に集束し、次々に切っていく。
触手から解放された老人は重力に逆らうことなくそのまま地面に落とされそうになり――。
「風の刃を変換――風雲へ――」
目的を果たした風の刃は、サクラの合図と同時に一つの風に集束、雲のごとくとなった風はそのまま老人を救出し、サクラたちの元へと運んだ。
「いまだよ――」
「――ああ」
シュウラは膝を曲げ姿勢を落とすと、同時に両腕を少し後ろに引く。
両手に集束されているエネルギーは最高潮に達した時――。
「――大地の波動」
そのエネルギーはシュウラの手から最大威力として放たれた――。
老人が近くにいるということもあり、本来より威力は抑えられているとはいえ、シュウラから放たれたエネルギー波は、大地を抉るように魔物に発射される。
暗殺嫌いが見せる究極的な本気の殺し――あの時口にしていた言葉。
これが彼の一族に伝わる技なのか、完全な彼オリジナルの技なのかはわからないが、技が放たれる光景は確かに暗殺と言うにはあまりにも似つかわしくない技だ。
そして、技のエネルギーからは自然のような――生命と言えるだろうか、こちらも暗殺とは似つかわしくないものを感じる。
暗殺嫌いの彼らしい技とでも言えるだろう。
放たれた「大地の波動」は、触手を切られた魔物に着弾すると、風穴を開け、同時に爆発離散した――。
「……全体の派手さと言い、感じられるエネルギーの雰囲気と言い、確かに暗殺とは程通り技だね」
「……あれで威力を抑えているのか……」
「すごい」
「……うん」
その光景に唖然とする一同。
ただ、メニシアだけは冷静であり――。
「これ、ビリンさんが止めなかったら大変な事態に陥っていたのではないですか?」
「「……あ」」
ビリンと、当事者であるサクラは声を揃えて口に出す。
「サクラ……」
「あそこまでだとはさすがに思わないでしょ。それにビリンが止めたのはまだシュウラがエネルギーを溜め始める前のことだったし、さすがの僕もあそこまでだったら考えるよ」
失敬なという表情を見せるが、彼女の性格や今までの言動や行動を見てきたビリンは、嘘ではないとわかりつつ未だに疑いの目をかけていた。
「でも確かにすごい技だよ。威力を抑えて魔物を塵一つ残さないくらいに木端微塵にしたんだから――」
「――そりゃありがとな」
当人がサクラたちの元に戻る。
「言われた通りにしたぞ、満足か?」
「うん……それに――」
サクラは、持っている魔法杖を少し引くように動かすと、老人を乗せた風雲をサクラたちがいる所に移動させた。
「ほぉ~……助かりましたぁ……」
「なるべく気を付けたけど怪我してない?」
「はい、大丈夫です。まさかあんな化け物がいるとは……」
「そうだね――」
老人の言う通り、なぜこのような場所に魔物がいたのか。
それ以前になぜ雑木林の幻影が展開されていたのか。
まるで誰かを罠に嵌めようとしているような……あれを見てからより感じる。
魔物も雑木林の幻影もすべてサクラたちを誘い出し、陥れるための罠だと――。
一連の出来事の後、老人を町の宿まで送り一息入れると、十分な休息となったのか、サクラたちに挨拶をして町を去った。
聞いた話だと行き先はサクラたちが向かう砂漠都市ガランダールとは違う方向だとのこと。
そしてもう一人。シュウラも――。
「もう行くんだね」
「ああ――」
老人が町を去ってから数時間後――陽が傾きかけている時間に、シュウラは町を発とうとしていた。
それはサクラたちと同じ砂漠都市ガランダールへと……。
「砂嵐がまだ治まっていないですが――」
「それを待ってたらいつになるかわからないしな。それにお前らと違って一人だからな、自由に行動できるし、そもそも砂嵐に足を止められる程ヤワじゃない……それはお前もだろう、サクラ」
「まあ……確かにそうだね……」
事実、以前もこの町を訪れた際も砂漠は砂嵐が猛威を振るっていた。
しかし、当時のサクラはメニシアたちと出会う前でクオンとの一人一匹の旅だったので、ギルド職員の制止も聞かずに、ある程度の準備を終え次第すぐに砂嵐舞う砂漠に立ち入った。
「なんか……ぶっ飛んでんな」
「誉め言葉として受け取っておくよ」
「……間接的に俺も何か言われてるような気がするが……まあいい。お前らがどのタイミングでこの町を出るのかは知らないが、ガランダールでまた会えるかもな」
「その時はもう一戦やる?」
「いや……いい。俺の本気でもお前の本気には遠く及ばないだろうしな」
「わからないよ――」
「やるなよ」
「はい」
ビリンの鋭い視線に逆らえなかった。
それにはシュウラも寒気を感じた。
数言の会話を終えた後、シュウラもアリストの町を去る――。
二日後――。
「ある程度弱まったとはいえまだ砂嵐は健在だぞ。それでも行くのか?」
「うん、僕とクオンだけだったらもっと前からこの町を発っているけど今回はそうではないからね……」
だが、ビリンの言う通り砂嵐はまだ治まっていない。
先日より弱まっているとはいえ、危険であることには変わりないのだが――。
「まあ、行けばわかるよ。メニシアたちも待ってることだし……行こ?」
「……お前が寝坊したから私が起こしに来たんだぞ――」
外を出ると砂漠側の町の出入り口の前にメニシアとモネとネロ、クオンがいた。
サクラとビリンが合流するのと同時に、ギルド方面から一人の男が呼びかけ、近づいてきた。
「サ、サクラさま~」
「……なに?」
「せ、先日より砂嵐の規模も弱体化したので一応通行の許可は下りましたが本当に大丈夫ですか?」
弱まっているとはいえ、砂嵐の危険性が完全に無くなった訳ではない。
砂嵐がきっかけで遭難して危うく命を落としかけた冒険者も少なくない。
そのような経緯もあって、ギルド職員は心配の眼差しを向けているのだが――。
「僕一人だけだったら正直疲れるけど……二人とも、準備はいい?」
「「うん」」
呼びかけに答えたモネとネロは、二人で挟むように魔法杖を互いに持ち、魔力を注ぐ。
「「ウォーターバリア……我らを守り給え――」」
詠唱と共に出現した六つの水の盾。
それぞれが対象の六人の元に移動すると、盾の形状が崩れ、スライム状に形を変え、各々の身体に合わせるように纏う。
「風の加護……エンチャント」
続いてサクラは風を生みだし、人数分に分かれ、水の盾の上からさらに覆うようにして各々に纏う。
さらにエンチャントすることで、サクラたちに纏う水と風の盾が安定感を増した。
「……これで砂嵐の中でも歩けるようになった、風も相まって視界不良になることもないしね」
「す、すごいです。噂通りの人だ」
「やっぱ有名なのか、こいつ?」
「え、え~……まあ……」
「どうせ悪い意味だよね? あれがなかったらファルカスのギルドのあの変態に付きまとわれることもなかったわけだし」
「確かにそうですね……あの人は……悪い人ではないですけど……初印象が私も少し引きましたし」
「そんなに嫌だったんだね」
「……サクはともかく、シアも珍しい」
「ま、まあ、それは申し訳ないとしか言えないですが……大丈夫という認識でいいですか?」
「うん」
「で、では……皆さまのご無事を願っております……ご武運を――」
こうして、サクラたち一行も砂漠都市ガランダールを目指し、アリストの町を発つのだった――。




