間話 不殺の暗殺者~選択~②
「正直驚いてるよ、雷切の麻痺を自力で解いたのがあなたで二人目だから」
「先着がいるのか」
「いや、最初の人は確実に解除できる人だから実質あなたが初めて見たいなものだよ、褒めてあげる」
「そうかい。じゃあ、俺も自信を持ってお前を倒す!」
再び迷いのない突進。
「……」
再び刀を構えるサクラだが――。
「雷切とやらが再び当たると思うなよ」
さらに一段と加速し、今度は男がサクラの間合いから姿を消す。
「――ッ、こいつ」
「遅えよ」
今度はナックルの一撃がサクラに直撃し、地に膝をつける。
「また何か小細工か? 俺の一撃を喰らって血反吐すら吐かねえとはな」
「……」
(危なかった……)
とっさに発動した防御のエンチャントに加え、一撃が来るであろう箇所に集中的に展開した防御の魔法。
これによりダメージと一撃の重さはある程度軽減できたが――。
「ハァ……ハァ……麻痺を自力で解いたのもそうだけど、ここ何年戦ってきたどの相手よりも間違いなくあなたは最強に位置する」
「そりゃどうも」
「今度はこっちが質問するけど……何で最初から殺し・・・・・・にこなかった・・・・・・」
「へえ……そこに気付くのか。ということは俺の正体も?」
「確証はない。が、あなたと似たような雰囲気を持つ人と戦ったことがあるというくらいだよ」
「殺したのか?」
「殺したというより勝手に自滅したよ。多分どこぞの悪党が雇って僕を殺そうとしたんでしょうね。寝ている隙を狙っての暗殺……肝心の対象者が寝ていなかったからね。足滑らせて落ちて死んだよ」
「間抜けな同僚もいたもんだ……」
内心男は焦っていた。
プロ・・が足を滑らせたからといってそれで死ぬのなら今頃多数の死者が出てるし、何より訓練時にその段階で死んでいるはずだ。
だからと言ってサクラの言葉に嘘偽りがあるようには感じない。
だが、その足を滑らせた同業者には同情しかなかった。
何故ならこの男も喧嘩を売った相手を間違えたと後悔をしている。
尋常ではない圧力。
今にでも足が崩れる。
それでも、あの忌々しい時間と比べたら男にとっては屁でもなかった。
「俺は後悔してるよ。喧嘩を売る相手を間違えたと思ってしまった内心の後悔だ。改めて名乗るし、正解発表だ。俺はシュウラ。そんでもってお前が考えた通りだ、俺は暗殺者……元が付くけどな」
「元……?」
暗殺者だというのなら、今の短い戦闘でなんとなくだが凄腕なのだと伝わった……のだが――。
「暗殺者という割には真っ直ぐすぎると思うけど。気配も消せてないし」
「確かに俺は暗殺者という割には真っ直ぐすぎる。自覚もあるさ……なんせ暗殺なんてもんは人生で一番嫌いなもんだからな」
「なるほどね……つまり元というのは」
「暗殺者としての最初で最後の任務にして最大の大罪……そう、家族……俺の同族殺しをもって暗殺者という肩書を捨てたんだ」
シュウラの実力は間違いなくサクラが出会った者の中で最強クラスの存在。
そのシュウラの師と言うべき存在であり家族を殺した。
実力は間違いなくシュウラと同程度と見て言いと考えた場合、自分以上の者を暗殺とはいえ殺したことになる……。
「厄介極まりない……だったら、少しは本気を出すよ」
サクラもまた、シュウラの思いを受け自身にやる気を促す。
「本気出してなかったのか」
「あなたもでしょ」
「やっぱりバレてるか」
お互いが様子見の状態だった先程とは違う。
今度は死んでもおかしくないほどの死闘というに相応しい本気のぶつかり合い。
「暗殺嫌いが見せる究極的な本気の殺し――死んでも後悔するなよな!」
「六道神流――終の太刀――」
「――そこまでだ!」
本気のぶつかり合いに水を差す一言、そして光の楯が間を割る。
「誰だ!」
「ビリン……それにみんなも」
二人に近づくのはビリンにメニシア、双子たちサクラの仲間。
「……なるほど、クオンが呼びに行ったのか」
「にゃー」
ネロに抱えられているクオン。
戦闘が始まる直前から姿を消していたとは思っていたが、ビリンたちを呼びに行っていたとは――。
鬼の形相でサクラに急速に近づき、透かさず頭に拳骨を落とす。
「うぅ……痛い」
「町のすぐ隣で本気を出す馬鹿がいるか! サクラの本気がこのくらいなのかは知らないけど町を含めて辺りを壊滅させる気か!」
「……ごめん」
「そこの小僧もだ!」
「――ッ」
鬼気迫るその形相にシュウラも怯まざる負えない。
「どこぞの馬鹿かは知らないが、町を破壊して大陸全体から指名手配されたいのか――」
「なんで俺が――」
「あぁ?」
「すみませんでした」
ここで反論したら別の意味でやられかねない。
サクラもそうだが、ビリンに対しても強者の雰囲気を感じて大人しく謝罪する。
「わかればいいんだ、わかれば……つーか何でこうなったんだよ」
「知らない、あの人に聞いて」
そもそもサクラもある意味被害者と言える。
別に戦いたくて戦った訳ではなかった……段々と調子に乗って行ったのは認めるが。
「何のためにサクラに喧嘩売ったんだ」
「単純な話だ、サクラとかいう女が強そうだった……それだけの話だ」
話を聞く限りでは、シュウラは強者との戦いに飢えているとのことで、サクラに戦いを挑んだのもその一つ。
この性格は、殺した一族からも戦闘狂という呼び名が浸透しており、同時に暗殺者に一番向いており、一番向いていないとまで言われていた。
「だがまあ、そいつは間違いなく強い。今まで戦ってきたどの相手よりも。歴史や逸話、伝説でよく聞くような人物よりもな」
「それはどうも」
「それに、邪魔が入る前に発動しようとしていた技――最強の技の一つなんだろうけど……それでもまだ本気じゃなかっただろ」
「さあね」
「それが本当だったらお前、一人でグランを倒せたんじゃないか?」
「いや、無理だよ。魔力に余裕はあっても体力に余裕がなかったから」
「……」
シュウラは後悔していないと言ったものの、あのまま続けていたら間違いなく殺されていたのはシュウラの方だ。
今のサクラの発言を聞いた感じだと、殺しまでは行かないだろうが、どっちみち殺されたのと変わりないだろう。
(やはり世の中は広い――これほどの強者とまだ相まみえることが出来たんだ……)
「俺はまだ強くなれる」
「――?」
「覚えたぜ、サクラ。俺はまだ強くなれることを再認識することが出来たんだ――次こそお前を倒す!」
「えー嫌だよ」
「うわああああああああああああああ――」
突如として響き渡る叫び声。
「何だ?」
「皆さん、木々の奥からです」
「奥? ……あの人か」
叫び声に心当たりのあるサクラが、聞こえてきた雑木林の奥へと走る……が――。
「――!?」
すぐに立ち止まるサクラ。
突如、全く記憶に無いたくさんの光景が映像としてサクラの脳裏に流れ込む。
「なに……今の……?」
「サクラ……今のはいったいなんだ?」
「ビリンもか……」
脳裏に流れ込んだ光景はサクラだけではなかった。ビリンも……それだけではなくメニシアやモネとネロにも流れ込んできた。
「お前ら……いったい何を見たんだ――?」
どうやらシュウラだけはその光景を見ていないようだ。
サクラたち旅の一行にのみ……そして最後に皆が死んでいた。
この先を進んだことによって訪れた最悪の結末。
もちろんこれが未来の出来事であるという保証はない。
ただ、あまりにも生々しかったのだ。
まるで本当に起きるのではなかという……。
「サクラさん……これって前の時と似てませんか」
「ファルカスに来る前の時のあれか……」
ビリンと出会う前――ファルカスに立ち寄る前に探索した洞窟での出来事。
あの時も今回のような光景が脳裏に流れたことにより、洞窟の奥に進むことはなかった。
しかし、洞窟ではここまではっきりと描写されていなかった。
あくまでこの先に進むなという忠告と言うような感じで、加えてクオンが強く引き留めたということもある。
「にゃぁ……」
「大丈夫だよクオン、行かないから……それに――」
しゃがみ込み、クオンの頭をひと撫でした後、すぐに立ち上がると、魔法杖を手に取り構える。
「集中しないと全くわからなかったけど……あの林から、本当に微細だけど魔力を感じる」
「それって――」
「うん、あの雑木林は作られたもの……いや、正確には――」
「――幻影か」
シュウラが会話に入ってくる。
「そうだね。それも、相当な技術力を持った何者か……」
感じる魔力量を微細に抑え、本物と錯覚するほどの幻影……このような芸当を出来る人物に関してサクラは一人しか思い当らないのだが――。
「あの人は絶対ないだろうし……」
「あの人って誰のことですか?」
「僕の師匠……だけどあの人がこんなことをする理由も必要も無い……そもそも家から滅多にでない人だから」
もし映し出された光景通りに事が進むのだとしたら、なおさらサクラの師匠がこのようなことをする理由がサクラには見当たらなかった。
「信じてるんだな、お前の師匠に」
「別に……それに感じる魔力的にもあの人とは全く別物だし、魔力を感じる方が不自然だしね」
「お前が化け物だったらその師匠も化け物って訳なのか……俺はつくづく恐れ知らずだったわけか――」
「僕をあの人と一緒にしないで……って、言ってる場合じゃないね……どうする、あれ」
そう言ってサクラが指をさす雑木林の幻影。
これほどまでの技術を誇る者だ、遠距離からの技の発動も考えられる。
場合によっては魔力を隠している可能性も……実に厄介だ。
「ですが、術者を探している余裕はないですよ……」
「そうだよ、さっきの悲鳴の人がどうなってるかわからないし」
「……(コクコク)」
「……だったら、消すか――この雑木林を」
雑木林の幻影を展開した術者の思惑など知らない。
サクラの記憶だと、以前アリストの町を訪れた際もこの雑木林はあった。
その頃から術が展開されているのなら、どれだけの魔力を持ち、そして消費しているのか。
これでは魔法使い並み、もしくはそれ以上の魔力量を誇っていることになる。
逆に最近の可能性もあるが……。
「――消すよ、雑木林を――」
「消すって正気か……って、実際に戦ったから間違いないんだろうな」
「……術式、解除――」
魔法杖を雑木林に向けると、杖の先端の水晶が光を放つと、サクラを中心に地面から聖なる光の粒子が宙へと昇り始めた。
同時に微弱な風も吹き始めると、すぐにそれは強風と化す。
「――ッ……おい、サクラ――!」
「強すぎるよ~」
「ぁぅぁぅ……」
「……」
強風の発生は、瞬時に雑木林を飲み込む。
そしてサクラは、強風を飲み込んだ雑木林ごと離散させる。
「……な――」
「す、すごいです……」
「……これで見晴らしは良くなったよ」
「……はは……つくづく命知らずだと思い知らせるな……だけど――」
目の前の光景は、塵一つないまっさらな空間、そしてサクラたちから離れた位置に二つの影がポツンと目立つ形でその場に存在していた。
「あれは……魔物? それに、あのおじいさんも……」
「……捕まってますね」
遠目からだとはっきりとはわからないが、魔物――植物型の魔物ではないかと推測した。
「どうするんだ、サクラ――」
「どうするもこうするも、助ける以外の選択肢はないでしょ……放置したらメニシアに怒られそうだし」
「私も怒るぞ」
「……はぁ……でも、あれを見た後だと近寄りづらいな……」
あの時見た映像だと、植物型の魔物を倒した直後に、魔物が魔法らしき術を発動し、あの結末へと繋がってしまった。
「お前ら……本当にいったい何を見たんだ?」
この場で見ていないのはシュウラが唯一だ。
「僕たちがこの後魔物と関わった結果、最終的に全滅――死んだっていう胸糞悪いものだよ」
「――!?」
「だからおじいさんを助けたいけど、その結果があそこに繋がるんだったら足が止まってしまう……自殺願望者じゃないからね……だけど困った――」
「――た、たすけてぇぇぇぇぇぇ――」
遠くから助けを求める声が響き渡る。
助けたいのはやまやまだが、遠距離から老人を傷つけずに助け出す方法を見つけ出すことに難航していた。
遠距離から魔法等の技を発動できるのは、サクラかビリンのジャスティス・アローくらい。
しかし、どれも救出という割にその威力は強すぎ、一歩間違えれば老人を殺しかねない。
老人に当てることなく、出来れば一撃で魔物を葬りたい……それが第一の目標であり、死という結末を回避できる最善の道の可能性である――。




