最終話 破壊⑧
桜――自身の名の由来をモチーフにして作ったサクラのオリジナル魔法。
エンチャント同様に自身の強化する身体能力上昇系の魔法。
上昇値はエンチャントの比ではなく、数百倍と爆発的に上昇する。
欠点は、桜の花が何れ散るように、効果も永続的ではないこと。
一定時間が経過すると、上昇された能力は次第に下降していき、最終的には反動で体を動かすこと自体容易でなくなる。
ただし、これもあくまで一時的で、散った桜の花が再び満開の花を咲かせるように再び身体能力が上昇、それも一度目よりもさらに強化される。
これがサクラのオリジナル魔法である「桜」の効果。
それを反転させたのが「闇桜」――。
自身に呪いを付与し、触れた相手に感染させる。
感染した相手は全身の各所に呪いが行き、そこを中心に壊死……要は行動不能状態に追いやられる。
これが闇桜の効果のメインで、サクラが修羅・一閃の炎を自身に凝縮させ、破壊獣マヤに呪いと共に炎も移したというのはあくまでおまけにすぎない。
そして、サクラは破壊獣マヤと共に自爆、爆散しただが――。
「……生きてる……か……」
身体ごと爆散したはずのサクラがボロボロの状態とは言え、五体満足無事な状態で仰向けに倒れていた。
いや、直前に斬られた右腕は回復していない。
桜の一定時間経過とともに強化、弱体化という特性を闇桜にも生かした。
一定時間が経過するとサクラ自身を呪いを付与する前の状態に戻す。
ただ、これはあくまで呪いの話で、自爆まで効果の対象に含まれるのはサクラ自身想定外だった。
「……聖剣……魔力……」
斬られていない左手側付近にあった聖剣に触れる。
蓄えれていた魔力を吸収し、最低限動けるまでに回復することが出来た。
「傷は治せても疲労までは……癒しの魔法だったら疲労もケアできたんだろうけど」
ただ、傷を完全に治すことが出来なかった。
魔力自体全然余裕はあるのだが、心身の疲労が勝り、それが魔法の使用を妨害している。
さらに右腕を斬り落とされ、魔法を使用するにもバランスを欠いてしまい安定して使用することが出来ないのも理由だ。
「……死体はない。爆発離散した……でも領域魔法は解けてない……それに……」
サクラはそれがある方向に視線を移動させ、移動する。
「クオン……ごめん……」
そこには倒れているクオンがいた。
ピクリとも動いていない。
察してしまったのだ……。
サクラの眼には大粒の涙が溜まり、耐え切れずすぐに流れてしまう。
「僕が不甲斐ないばかりに……ごめん……ごめんね……」
ただただ流れる涙に溢れる感情……あの日以来の味わう感覚に対応できず、そのまま吐き出していく――。
――ピキッ――。
「――!?」
溢れる涙や感情が落ち着き始めた頃、突如として何かがひび割れるような音が聞こえた。
空を見上げると、天井が崩れるように剝がれていき、青空が漆黒の天井へと変わろうとしている。
ここは領域魔法の領域内。魔法使用者が死ねば必然的に魔法が解除される。
「やっと出られるのか――」
空が、一面に広がる草原が崩壊していき、元居た玉座の間に戻ろうした……。
「――!?」
領域魔法が完全に崩壊し、玉座の間に戻った直後に入った視界には……刀で心臓を貫かれているビリンとその刀を握る破壊の魔女がそこにいた――。
「ビリン――!」
「ほら……あげる――」
刀で貫かれているビリンをまるでごみを捨てるかのようにサクラのいる方へと放る。
「――ッ」
受け止めた……というよりサクラがクッション代わりになるような形でサクラと衝突した。
その時にビリンに触れたのだが――。
「……死んでる」
肌が冷たかった――瞳からも生気が感じられなかった。
呼吸もない――死んだのだ。
「その娘だけではないよ……後ろ、ご覧――」
嫌な予感がした。
どうか杞憂であってくれと思ったが、運命は残酷だった――。
「メニシア……モネ……ネロ……」
そこには、複数の槍によって串刺しにされているメニシアに、大量の血だまりの中心に倒れるモネとネロがいた。
三人ともビリン同様に既に死んでいるというのがすぐにわかる。
「なん……で……」
「領域魔法――別れの監獄でお前たちを分断した……私と戦ったんだろう、サクラ……それはこの子たちもそうさ……その相手は私ではなく破壊の限りを尽くす私が作り出した獣だけどね」
「獣……」
「でもねサクラ。お前は特別さ――私が直々に相手をした……と言っても、あれは私であって私ではない……分身だと思っておくれ」
その事実を聞いて絶望する。
完全に死ぬ覚悟で挑み、実際に一度は死んだ――そうまでして倒した相手が実は偽物であったこと。
そしてクオン……自分の知らないところでメニシア、ビリン、モネ、ネロが殺されたこと……短い付き合いにしろここまで旅を共にした仲間たちだ。負った心の傷はあの時と同等だ。
「……ぁ……」
力が抜け、膝をつき視線を落とす。
「……これで終わりかぇ……フフ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――」
不愉快な高笑いが空間に反響する。
「――おや、陽……か――」
ふと窓に視線を移すと、陽が昇ろうとしていた。
「……まずいねぇ……終わりにするか」
早足でサクラの目の前まで行くと、右手に刀を召喚する。
そして、躊躇いなくサクラの心臓を突き刺す。
「――ッ……」
動く気配すらない。
完全に心が折れており、無意識に死を受け入れていたのかもしれない。
「これが本当にさようなら……だ……ばいばい――」
心臓突き刺す刀の刀身が漆黒の輝きを放ち、その瞬間サクラの心臓部から爆発のような音が聞こえ、口から大量の血が吐き流れる。
刀を抜くと力無く倒れ、その身体からは、爆発の影響からか小煙が立つ。
こうして、無情にもサクラの人生はあっけなくその幕を閉じることになった――。
まただ――。
何度も、何度も……何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も――。
……そうか、僕は……神様に見捨てられたんだ……見捨てなければあんなこと起きなかったはずだ。
……終わりたいよ……こんなつらいこと……僕だって……求めちゃ駄目なの?
……幸せを……。
……最後にしたいよ……こんなこと……助けてよ……クオン……。
「……ハァ、ハァ、ハァ――」
実の娘を殺した破壊の魔女は、再び苦しみを覚え胸を抑える。
「ぁ……ぁぁぁああああああ――ッ」
陽が昇るにつれて苦しみの強さが増していき、完全に玉座の間を照らす頃には破壊の魔女は強く悶え苦しむ。
同時に内から漆黒の瘴気が漏れ始め、漆黒の瘴気が破壊の魔女を覆う。
だが、太陽の光がまるで漆黒の瘴気を払おうとしているかのように破壊の魔女を照らし、次第にその瘴気は晴れる。
姿を現したのは、漆黒とは真逆の純白のドレスを身に纏う一人の女性だった。
「ハァハァハァ……ぁ、ぁぁ……」
その女性は、足を、声を震わせ、倒れるサクラに寄り添う。
膝を折り、倒れるサクラを抱きしめる。
その目には大粒の涙が溜まっていた。
「ごめん、なさい……ごめんなさい……ごめんね」
ただただ、心からの謝罪が小さい声だが、広く響き渡る。
「……っ……なんで……なんで……私じゃないの……この子は……関係、ないのに……!」
悲痛な涙と叫びは誰も聞いていない。
また……一人……娘を助けることが出来なかった。
娘を復讐の呪いから解放させることが出来なかった――。
涙を流す女性の背後には、先の戦いで死んだ一匹の白猫が倒れていた。
その白猫が、人知れず微弱な白い輝きを放っていることは、背を向ける女性は気が付いていない。
輝きは、ある瞬間に一気に強さを増して、一瞬にしてすべてを飲み込んだ――。
これが最後のチャンスかもしれない……だから……だから――。




