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復讐に染まった少女は輪廻の旅の果てに……  作者: ただの小林
3周目 最終話 破壊
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最終話 破壊⑤

 破壊の魔女の心臓箇所から流れ落ちて生まれた血だまりが、先程同様に沸騰し始めた。

 それも、より強く――。


「まさか――」

「心臓を貫いても死なないのか……」

「――不死とかではないですよね」

「……」


 正直今の攻撃でも倒れないと言うなら本当に不死の可能性が出てきた。


「ふふふふふ――ここまで追い詰められたのは初めてだよ」


 沸騰している血だまりが翡翠色に輝くと、次第に破壊の魔女が負ったすべての傷が消えていき、貫かれた心臓箇所の風穴も塞がっていく。

 さらに彼女自身も翡翠色の光に覆われると、今まで身に纏っていた不気味なほどの漆黒の着物が、同色のドレス姿となって一行の前に姿を見せる。

 こちらの姿の方が「破壊の魔女」をより彷彿とさせる――。


「――気を付けて、さっきより全然強いよ」

「よくわかっているじゃないか――サクラ(・・・)

「――!」


 違和感に気が付いたサクラ、そしてビリンが動く。

 大楯エイジスによる巨大な光の楯を展開し、それに全耐性を底上げする耐久力のエンチャントをする。

 その判断は正解だった。

 どこからともなく発動された強力な光線が光の楯とぶつかり合う。


「この程度を防ぐことも出来なかったらどうしようかと思ったけど……心配無用だったかねぇ」


 指を鳴らし、瞬時に光線を消滅させる。

 同時光の楯も――。


「――!?」

「驚くこともないだろう? さっきも言ったが私は破壊だ――造作もないことだ」

「だったらお前に与えた傷が回復した理由はなんだ」


 サクラが問いかけるが、そもそも何故、破壊の魔女が生きているのか。

 心臓を貫いても動ける理由はいったい何なのか――。


「ああ……簡単な話さ……私が破壊と同時に「癒し(・・)」も固有魔法として扱えるからさ」

「……はあ? そんなわけあるか」


 サクラが否定するのにも訳がある。

 それが固有魔法の一つの特性にあるからだ――。


「どういうことですか?」

「固有魔法はその人オリジナルの魔法。だから一人に対して一つしかない。それは固有魔法が強いから。二つ以上は効果が反発し合い、暴走する恐れがあり――」

「結果的に死ぬ――そもそも固有魔法を二つ以上持ち合わせている者など今まで見たことがない……私を除いてだけどねぇ」


 聞いてもなお、どこか違和感を拭いきれないサクラ。

 その様子を見た破壊の魔女は、少し馬鹿にしたような笑みを浮かべた後、あっさりと種明かしをする。


「その鋭さ、やっぱりあの人(・・・)に似ているねぇ……サクラが今感じている違和感、間違いじゃないよ。私も例外ではない……私の固有魔法も一つ(・・)だ」

「じゃあ何で二種類あるんだよ」

「……! 反転か……」

「ご明察」


 反転――。

 その名の通り効果を逆にするということだが――。


「固有魔法の二つ以上持ちもそうだが、反転も不可能なはずだ」

「……固有魔法の能力は言い換えると自分の人生とも言えるから、サクの言う反転って自分の人生を否定するようなものだよね」

「うん――」

「よく理解しているねぇ。サクラも大した知識だと思ったが、その子たちはサクラが色々と教えたのかぇ」

「そんなことは関係ない。なぜ固有魔法の効果を反転させることが出来るんだ」

「つれないねぇ……私は魔王を討ち取ることが出来るほどの天才だ……これが理由にならない?」


 サクラが幼少の頃、まだ破壊の魔女がサクラの母親だった頃のこと。

 とある日にサクラが生まれる前の話をしたことがあった。

 その時に勇者と魔王討伐の話を聞いた。

 母親も勇者一行の一人で、持つ魔力量は膨大で、使える魔法の種類のその豊富さが彼女を「天才」と言わしめる所以。


「簡単な話、本来の「癒し」を強引に破壊へと切り替えた――要は力技ということさ」


 癒しと破壊は対極に位置する。

 故に反転させるという破壊の魔女曰く力技が可能になったのではないかと推測するが、どちらの効果も使用できるということは、ただ反転させるだけではなく、状況によって効果を反転させる――切り替えられるということになる。


「――これらが二つの能力を持ち、さらに傷をすべて癒せたという理由……十分だろ」

「そうだね……本当に反吐が出る」


 聖剣を再度構える。


「クオンのエンチャント――多分すべての能力を底上げすると見て言い。加えて神器の持つ能力によるある程度の弱体化。これもまだ続いているはず……少々強引に攻めるよ。それに……いや――」


 何かを言いかけるが、その言葉をいったん飲み込んで、サクラが仕掛ける。


「本当に特攻が好きだねぇ」

「前にも同じこと言われたよ」


 エンチャントの効果により、先程より早く間合いを詰めることが出来た。

 そのまま聖剣を振り上げるが、障壁を出現させてそれを防ぐ。

 同時に魔法を発射するが、サクラはその場で跳躍し避けるのに成功。

 だが、魔法を発動させたのは破壊の魔女だけではない。


「――! 無駄だよ」


 そう吐き捨てると、襲い来る水流弾を目前で蒸発させる。

 無数の水流弾は止まることなく撃たれていくが、紛れるように一本の槍が飛んでくる。


「――ッ」


 蒸発させるのとは違い、破壊出来ないと瞬時に判断した破壊の魔女は一歩後退する。


「さすがに見破るか」

「……なるほど、坊やの短剣の効果かぇ?」

「そうですね。ビリンさんの槍に封魔ノ命の効果を乗せました」

「そして私の槍をジャスティス・アローとしてお前にぶつけたって訳だが、避けられたら意味ないな」


 すでに二か所、封魔ノ命に付けられた紋章がある。

 一つだけならともかく二つもあるので、その分魔力使用の制限がある。

 威力も落ちているが、本来だったら魔力量で補うのだが、魔力の使用が制限されている以上どこかで限界が訪れる。

 それが何個の紋章で訪れるのかはわからない。

 だからこそ、これ以上あの神器から攻撃を貰う訳にはいかなかった。

 同時にモネロの鎖「神の戒め」にも捕まるわけにはいかない。

 それこそ、紋章がある故に行動まで制限されてしまう。

 おまけに魔力も食われてしまうのだから、正直破壊の魔女は厄介極まりないと感じている。


「確かにお前はさらに本気を出したのかもしれない。けど、本当のところはどうなのさ。二つも紋章を刻まれている上にさっきの攻撃も避けた……案外ピンチとでも思ってるんじゃないの?」

「そうだね……確かにサクラの言う通りさ。正直なところ、あと一つ神器が無ければなとは思うさ。紋章も破壊出来ないしねぇ――だが、あまり関係ないことさ。すぐに終わらせればよいだけのことなのだから――」


 瞬時に玉座があった場所に移動する。

 すると、彼女の目の前に大きな魔法陣が展開する。

 さらに、玉座の間の扉と両サイドにも展開される――サクラたちは魔法陣に囲まれたような状態に陥った。


「見せてあげるよ、破壊の深淵を――」


 四方の魔法陣は、輝きを増し、それらは揺らぎを発生させる。


「グランの時のような強力な攻撃が来るよ――」

「あれと一緒にされては困るねぇ……私のこの攻撃の方が、数倍は強いよ――」


 時間はある。

 ビリンは即座に最大限の防御結界を展開し、サクラもエンチャントでより強固にした。


「無駄さ、すべてを破壊――いや、無に帰す……破壊の書、終節――零」


 次の瞬間、四方に展開されていた魔法陣は一瞬にして消えた。

 同時に漆黒の光が、破壊の魔女が見下ろす玉座の間が、四方に展開されていた魔法陣までの範囲を飲み込み、そして、何もかもない無の状態へと変貌を遂げてしまった――。




 何もかもなくなってしまった一面に降りる破壊の魔女。


「この魔法は破壊の書の中で最も強力であり、最も破壊に相応しくない代物さ――なぜなら破壊しないから。ただただ無にする。傷一つ付けることがない――いや、許されない……甘ったれた魔法」


 その表情はどこか悲しげだった。

 

「実の娘を手にかける……なんてまあ、残酷で残忍で――楽しいものなのか」


 次第に狂気を含んだ笑みを浮かべ、玉座の間一帯に響き渡る程の笑い声を発する。


「――ッ、こんな時に」


 突然胸を抑え始める破壊の魔女――。


「実の娘を殺した罰でも下ったんじゃないのか!」


 背後から聞けるはずのない声が聞こえてくる。


「サクラ、なぜ――!?」

「自分の胸にでも聞いてみろ――!」


 エンチャントにより重さを上げた聖剣を勢いよく振り下ろす。

 即座に障壁を出現させ、攻防が激突する。

 しかし、重みを増した聖剣にとって障壁は何の壁にもならず、すぐに斬り壊す。

 だが、破壊の魔女にとっては十分な時間であり、障壁が耐えているその瞬間にすでに後退しており、聖剣の勢いに巻き込まれることはなかった。


「……下がりましたね」

「――!?」


 背に強い違和感が走る。

 振り返るとそこにはメニシアがいた。


「貴様――」


 魔法を放つが、メニシアは強く引っ張られる形で避けることが出来た。

 メニシアの腰には鎖が縛られており、モネロがそれを引っ張ったと言う訳だ。


「……より強くなった……か」


 これで三度目。

 封魔ノ命の一太刀を受けて、さらに紋章が刻まれる。

 さらに魔力の制限が強まり、放った魔法も仕留めるほどには程遠かった。


「それに……なぜお前たちは、生きているの……かぇ?」


 破壊の魔女の魔法は確実に決まっていた。

 紋章の効果があったとしても、確実に無に帰す――破壊するには十分だったはず。


「確かに危なかった。でもこの子のおかげで助かったんだよ」

「にゃー」

「……やはり、その猫かぇ」


 サクラが抱きかかえるクオン。

 魔法は確実にあたっていた。

 未だ謎を抱えるこの猫が、破壊の魔女の魔法を付与されているエンチャントによってサクラたちへの発動を無効にし、さらに魔法の発動範囲外へと瞬間移動させた。

 これが無傷で奇襲できた理由――。


「本当に、不思議だねぇ……まるで女神様のようだぁ(・・・・・・・・)……」

「そうだね、勝利の女神ってやつだ……お前をここで殺せる」

「本当に殺せるとでも?」

「封魔ノ命で三つも刻まれてるだろ――」

「紋章が一つ増えるたびにその効果は倍以上になり、それが三つ――どんなにあなたが魔力を持っていたとしても、今は相当な苦しみを感じるのではないでしょうか」

「さすが、使い手だ……わかるもんだねぇ」


 封じるだけではない。

 封魔ノ命自体、魔を冠するものに対しては毒のようなもの。

 神器の特性上、使い手のみならず、使い手が認識したもののみにしか効果が発生しないというのも、ある意味破壊の魔女にとっては厄介な材料といえる。

 さらに、神器の数も四つなので、その分の効果の上昇があるので余計に厄介だ。


「ここまで苦戦したのは、いつ振りかねぇ――」

「それも今日で最後だ――」


 限界を迎えたのか、ついに膝をつく。

 聖剣を破壊の魔女の首筋に添える。


「お前に唯一感謝することがあるとすれば、僕を産んでくれたくらいだろうね――」


 言葉と同時に手は動き、無抵抗の破壊の魔女の首を斬り落とす――。


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