最終話 破壊④
サクラが放った最強クラスの魔法の乱舞で破壊の魔女は遂に倒れた。
「はぁ、はぁ……ふぅ」
一息ついて呼吸を整える。
どんなにサクラが魔力を持っていても、ここまでの大技の連発はさすがに疲労は隠せない。
「サク~」
モネロがサクラに近づき、視線を合わせるように姿勢を落とす。
「大丈夫?」
「うん」
「さすがにあんだけのことしたんだ、魔力はどうなんだ?」
ビリンとメニシアもサクラのもとに駆け付ける。
「大丈夫だよ。魔力自体はまだ半分以上あるから」
「す、すごいですね」
以前、サクラの魔力量について話を聞いていたのだが、あれだけの魔法を何発も放ったのにも関わらずまだ半分も魔力が残っていることに驚きを隠せなかった。
「あれ、死んでんのか?」
「……わからない、魔力は感じないけど、手ごたえもなかった」
破壊の魔女は、サクラの強力な一撃を立て続けに数発受け続け、黒焦げとなり倒れている。
サクラの言う通り、魔力を感じず動く気配もない。
死んでいると言われたら誰でも信じてしまうだろう。
「……? なんだ……」
ふと、サクラは微細な違和感を覚える。
すると、その違和感が具現化したかのように、翡翠の光の粒子が漂い始める――倒れる破壊の魔女を中心に。
「……まさか」
違和感はすぐに嫌な予感に変わり、そして的中した。
「なんだよこの光は」
「なんか、寒気が……」
「……うん、寒いよぉ」
「みんな、気を付けて――」
増え続ける光の粒子。
それらは次々と破壊の魔女に集まり、そして取り込まれる。
すると、黒焦げの破壊の魔女が翡翠色の輝きを放つ。
輝きの強さが増し、同時に黒焦げも消え去っていき、最終的には何事もなかったかのように立ち上がる。
その姿は傷一つない状態――要は振出しに戻ったのだ。
「ふふふ、ごきげんよう。そして、さようなら――」
破壊の魔女は、魔法杖を召喚し、それに手にする。
すぐに大きな魔法陣を展開し、魔法を放つ。
尋常ではないその速度にサクラたちは対応することが出来ずまともに受けてしまい、多方向にそれぞれ吹き飛ばされる。
「――ッ……!?」
サクラの目の前には破壊の魔女がいた。
「それ、私が使っていた魔法杖だねぇ」
言い終えると、至近距離による爆撃をサクラに放ちさらに後方に飛ばす。
「――ッ」
付いて来るように破壊の魔女は再びサクラの目の前に現れる。
「まさかお前が使うとは……憎き人の得物を使うとはどんな心境なんだろうねぇ」
またしても爆撃を放ち、さらに後方に飛ばされる。
……それの繰り返しだった。
「サクラ――」
「少しうるさいね」
ビリンに魔法杖を向けて、爆撃を瞬時に放ち、ビリンも吹き飛ばす。
「サク……」
「サクラさん……」
モネロもメニシアも最初の一撃で戦闘不能に近い状態に追いやられた。
「……」
声が出なかった。
たった数撃の攻撃で死ぬ死なないの瀬戸際に立たされた。
「正直誰が何を使おうが私にはどうでも良いことだ。それは、私の実の娘でどんな過去を過ごして来てもだ」
「……ッ」
戦意は喪失していない。
何とか立ち上がろうとするが、その度に一撃を貰う。
このままでは命が持たない――。
「……はあ、つまらないねぇ。私に復讐するという割にはこの程度……それにお友だちごっこときた……本当に甘いねぇ」
「……」
「……終わりにしようか」
サクラに魔法杖を向ける。
先端に魔法陣が出現し、今すぐにでも魔法が撃ちだされようとしている状態だ。
「ばいばい……私の可愛い娘よ――」
無慈悲にも魔法はサクラの心臓目掛けて放たれる――。
「……なに?」
「あれは……」
「白い……光の膜……障壁か?」
破壊の魔女がサクラに放った魔法は、白い光の障壁によって防がれた。
「なん、で……」
「クーだ!」
サクラの目の前には、クオンが守る様にそこにいた。
全身が光の障壁と同じように白く輝いている。
「ただの猫かと思っていたけど……お前は誰だ?」
「ニャァァァァァァ!」
遠吠えに近い鳴き声を強く発する。
全身に纏う光がさらに強さを増していき、一種の目くらましのような状態になった。
「――ッ、だから何だ!」
目くらましといった小細工が通じる相手ではない。
それはこの場の誰もが思うこと。
さらに、破壊を駆使する破壊の魔女が障壁を破ることなど造作もない。
固有魔法で障壁の破壊を試みるが――。
「な――」
目くらましは一瞬だった。
光が消えた頃には、そこにいたはずのものが一切消えいていた。
「――! まさか――」
とっさに振り向くが遅かった。
確かにそこにはいた。
それ以上に自身の胸部に強い違和感を覚える。
「――!?」
違和感の箇所から今まで以上に血が流れている。
そう、心臓を貫かれたのだ。
「お前……」
「これでさっきの借りは返せたかな?」
魔法杖を手にサクラが放った一撃。
油断をしていた訳ではない。
しかし、あそこにサクラがいることが不思議でならなかった。
さらに、仮に動けたとしても魔法を放つほどの余裕などないはず。
「な、ぜ……」
「正直僕も驚いているよ。クオンにこんな芸当が出来るなんて」
「にゃ~」
「マジでただの猫じゃなかったのかよ」
「すごいよクー」
「本当ですね」
サクラの周りにはすでに一行が集結していた。
しかも、服装はボロボロのままだが、負ったはずのダメージすら回復している。
だとしたらサクラが魔法を放てたことに関しては納得がいく。
「なる、ほどね……その猫が、一番やっかい、だった……わけ、か」
そもそもわかるはずがない。
サクラもそうだが、誰もがクオンがこのような力を持っていたなどと予想が出来るはずがなかった。
それこそ魔力すら感じられないからだ。
隠している様子もない。
ただそれだけではなかった。
破壊の魔女にはもう一つ疑問があったのだが、すぐに一つの可能性に至った――。
「……エンチャント、なのかぇ」
油断などしていなかったが、この中で破壊の魔女の心臓を撃ちぬける者は一人たりともいないと思っていた。
急所となり得る場所には、すべてを破壊する魔法の膜を張り巡らせている。
仮に心臓への攻撃が来ても、魔法の膜によって攻撃の対象物をすべて破壊する。
それはサクラが先程放った魔法を例外ではない――。
「ただの、エンチャン、トが、膜を突破できる――!?」
よく見ると、サクラたち一行は白い光に覆われていた。
それは、クオンが現在も全身から放たれる輝きと同じ色だ。
「やっぱり、その猫、か……お前は、いったい」
「確かにこのエンチャントはクオンによるもの。ただ、それだけじゃない……ほら」
サクラが破壊の魔女に指をさす。
さした方向を見ると、そこには短剣「封魔ノ命」によって刻まれた紋章だった。
「あなたは紋章を今まで放置していました。いつでも破壊できるし、破壊したところで意味が無いから放置していたのか。もしくは、そもそも破壊することが出来なかったのか。どちらにしてもその紋章がある限りあなたの魔力はある程度制限される――それはあなたを守る破壊の膜も例外ではないはずです」
「それに加えてだ、短剣も含めた神器の共通能力である魔の弱体化。神器の数が多ければ能力の効果も大きくなる――これでお前膜ってやつもより弱ってんじゃないのか?」
「……」
これだと心臓を貫かれた理由も合点がいく。
紋章を刻まれて以降、魔力をメインとして使用していなかったのでわからなかったのだが、今ならはっきりとわかる。
確かに破壊の魔女は弱体化していた。
だが、本当にそれだけなのだろうか……。
「クオンが何で使えるのか、いったい何者なのかはわからないけど、結局のところクオンのエンチャントと神器の能力が重なったことで出来た芸当なんじゃない?」
「……加速と、貫通力を、あげた……な」
「――ご明察、足りるかどうかわからなかったからね」
言葉通り、エンチャントと神器の能力だけでは足りない可能性があると判断したサクラは、破壊の魔女に放った魔法「氷弾」に加速力と貫通力を引き上げるエンチャントを施した。
それにより確実性を加えた結果が今に至る。
「……はあ、なるほどねぇ……もう、いっか――」




