最終話 破壊②
大扉を開けた先は、広々とした部屋。
奥に行くにつれて数段の階段があり、囲まれるように置かれている一席のきらびやかな椅子――いわゆる玉座と呼ばれるものが置かれている。
玉座の間と呼ばれる部屋と見て言いだろう。
その玉座の間は、壁一面に玉座同様のきらびやかな装飾が施されており、照らす月明かりも相まって別の美しさを醸し出す――それを気味が悪いとでも言うべきか……。
月明かりが照らす子の玉座の間は、なにも無ければ芸術品として扱われても違和感はないだろう……なにも無ければの話だ。
そう、邪魔をする二つの異物がこの玉座の間に存在している――。
「……ビリン」
大扉を開けたすぐ目の前には膝をつくビリン。
激しい一戦を既にしているのかというほどの傷つき具合。
さらにその奥――玉座に座る一人の人物。
サクラと同様の着物を纏っているが、違う点は黒系統の色で統一されているということ。
その姿は遠目から見ただけでも不気味に感じてしまうほどだ――。
「――!」
「おや、今日はずいぶんと客が多いもんだねぇ」
玉座の間に響き渡る女性の声。
普通の声の筈なのに、聞いただけで鳥肌が立つ。
強制的に覚えさせられてしまう緊張感。
そして見え隠れする意識……それは死という言葉が上手く当てはまる。
「お前は……」
「ようこそ魔王城――という名ばかりの魔女の館へ」
「……」
「へえ……よく抑えたものだ」
玉座に座る女――魔女の認識だと、サクラはすぐにでも斬りかかる物だとばかり思っていた。
それをサクラは強い意志をもって抑え込んでいる。
「お前のことだ、そこら中に罠でも仕掛けてるのかと思ったんだよ」
「疑い深い子だねぇ……まあ、正解に免じて――」
魔女は指を鳴らす。
その瞬間、玉座の間の中心から玉座を囲む階段までの間に爆撃が連射される。
「――っ」
「サクラもそうだし、そこの娘もそうだ。よくわかったもんだ」
「サクラ、あいつとはどういう関係なんだ」
「……」
「私がお前の連れだということも最初から知っていたようだし。それに――」
「僕と似ているとでも」
「確かにどこかサクラさんに似ているような……」
「魔力もどことなくサクに似てるよ」
「うんうん」
「……そうだね」
サクラはビリンに触れると、魔法ですぐに傷を癒し、前に出て聖剣を構える。
「こんなタイミングは正直想定外だけど、あれが僕の目的の女――忌々しいが、あれは僕の母親のようだ」
みんな驚きはしたものの、そこまでではなかった。
何となく察したからだ。
サクラから今までに感じたことがないくらいに殺気を放っていること。
今にでも殺したいという意志を強引に押し殺していること。
すぐにでも攻撃を仕掛けたら、即座に殺されることを分かっているかのようだ。
「そう、私はサクラの実の母……今では破壊の魔女と呼ばれている……見知り置きを」
破壊の魔女――。
モネとネロの母親サラーナの異名である月の魔女とは正反対の怖い響き。
彼女から発せられる魔力の感じからも伝わってくる。
「サ、サクちゃん……怖いよ」
「小さい子までいるのか……「生温いねぇ」」
その言葉と同時にサクラが動き、聖剣をネロの目の前に持っていく。
同時に何かが聖剣と衝突する。
「よくわかったもんだ」
「言葉の頭を発した瞬間に微細な魔力の流れを感じたからだ」
「なるほど、そこまで成長しているのかぇ。嬉しい……母親みょうりに尽きるものだ――」
「お前が母親を語るなあぁぁぁぁぁぁ!」
一瞬のことだった。
気付いたら聖剣が地に落ち、目の前にいたはずのサクラが消えていた。
サクラが視界に映ったのは破壊の魔女の背後、玉座の後ろだった。
「おや」
次の瞬間玉座は細々と切り刻まれ、その形を失う。
それを分かっていた破壊の魔女はすでに立ち上がっていたが――。
「毒――いや、ただの麻痺……?」
「五の太刀――餓鬼・雷切」
刀身に雷をまとわせ、相手を斬る。
その刀に殺傷能力はなく、斬った箇所を中心にそこから麻痺状態にし、相手を痺れさせ行動を制限させる技。
だが――。
「その程度で終わりと言う訳ではないよねぇ」
サクラに目を向けることなく、背からノーモーションで魔法を放つ。
「そんなわけ――修羅・一閃」
難なく避けた後、「修羅・一閃」で首を斬り落とす勢いで破壊の魔女に攻撃を仕掛けるが――。
「なっ――」
「この程度――もう一度言うけど、その程度で終わりということではないよねぇ」
空気をも斬り裂く鋭い一閃を素手で刀身を受け止める。
炎を凝縮した刀身の温度は火傷では済まされな程の高さの筈なのにそれを素手で止めていることに驚きを隠せないサクラ。
「では、こちらの番だ――」
「――ッ」
突如サクラの目の前で爆発が起きる。
「サクラ!」
「でもあれじゃ魔女の人も無事じゃないよね」
「……ううん、あれ」
爆風による黒煙が去ると同時に、全体的にボロボロで、着物が焼焦げて晒が半分見えるほどにはだけたサクラと全くの無傷の状態で立っている破壊の魔女が現れた。
「ハァ、ハァ……」
「その程度とは……魔法で爆発を相殺したか……」
次にビリンたちの方を見る。
「――ッ、エイジス!」
ビリンが大楯を展開。
そこからさらに巨大な光の楯が現れ、同時に先程同様の爆風が衝突する。
「三人とも戦闘態勢だ!」
ランスを召喚し、再度大楯を構える。
「はい!」
「「モード、モネロ」」
メニシアは短剣を構え、双子は一つに――モネロとして敵を迎え撃つ。
先に動いたのはモネロ。
魔法杖アクアルナを構え、水属性の魔法を放ち続ける。
「ほう、面白い魔力だ――でも」
襲い来る水の魔法をまたも爆風を生みだし相殺。
それに止まらず同時に攻撃も仕掛ける。
「想定済み!」
言葉通りに鎖が、破壊の魔女の攻撃を真っ直ぐと撃ち抜き、そのまま拘束する。
「これは……」
ただの鎖でないことを瞬時に見抜いたが、時すでに遅し――その縛りは彼女の魔力を食うことで強まっていく。
「面白い鎖だねぇ……さすが神器だ」
「だったらこれもどうでしょうか」
声のする方――上空を見上げると光の楯を土台にしているメニシアがいた。
この瞬間を無駄にしないように、躊躇なく短剣を放つ。
「……」
特に抵抗することなく、破壊の魔女は迫りくる短剣をそのまま受け止め、短剣は心臓付近に刺さる。
「抵抗もしませんでしたか――刻!」
短剣が刺さった箇所に紋章が浮かぶ。
ある程度の大きさまで紋章が広がると――。
「――滅!」
発声と同時に短剣は光の粒子となって徐々に消滅していく。
「――ッ」
その瞬間破壊の魔女は吐血し、膝から崩れ落ちる。
「……鎖といいその短剣といい……本当に、やっかい、だね――」
「――ジャスティス・アロー!」
言葉を遮るように真上から数本の光の槍が破壊の魔女の背後を襲い、地に打ち付けた。
破壊の魔女を中心に血だまりが広がっていく。
普通だったらこれで死んだも当然なのだろうが、攻撃を止めるは一切ない。
「六道神流、二の太刀――闘風ノ打撃!」
暴風をまとった刀で倒れる破壊の魔女に強烈な一撃を叩き込む。
その衝撃は辺り一帯を容易に吹き飛ばすほど――。




