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復讐に染まった少女は輪廻の旅の果てに……  作者: ただの小林
3周目 最終話 破壊
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最終話 破壊①

「ん……」


 意識が戻ったサクラ。

 開いた直後のぼやけた視界も少しずつ戻っていく。


「ここは……」


 視界に映るのは薄暗いシンプルな部屋。

 テーブルと椅子のワンセットには花が添えられている花瓶が一つ、ポツンとテーブルに置かれているだけの部屋。

 いや……それだけではなかった。

 起き上がったサクラはこれまでの経緯を思い返す。


「……やっぱりあれは召喚魔法か」


 直前の記憶は雑木林の開けた空間。

 そこで花型の魔物と戦っていた。

 しかし、職種で捕まっていた老人を助けた直後に召喚魔法を発動した。

 結果的にサクラはどこかの地に召喚された、ということになる。

 ただ――。


「魔物が魔法――ましてや召喚魔法なんて聞いたことがない」


 魔物や魔獣が魔法を使えないというわけではない。

 以前サクラが倒した魔物の中に魔法を使う存在もいた。

 ただ、それはシンプルな魔法に限る。

 何故なら魔物や魔獣には魔力をコントロールするほどの知能や器用さを持っていない。

 ゆえに複雑な魔法を使用することがそもそもできない。

 召喚魔法は難易度が高い魔法の一つで、魔物や魔獣が使えるはずがない。


「……召喚魔法を発動(・・・・・・・)させるためだけに(・・・・・・・・)生みだされた魔物(・・・・・・・・)だったらその可能性はあるのかな。……考えても仕方ないか、時が戻るわけでもないし」


 改めて部屋を一通り確認する。

 部屋に鍵が掛かっていると言う訳でもないので、特に監禁されているというわけでもない。

 あるのはテーブルと椅子、サクラが寝ていたベッド。

 そして、テーブルに置かれている花瓶に伏せられている写真立て。


「何だろ……どこかで見たこと(・・・・・・・・)あるような(・・・・・)


 間違いなくサクラはこの部屋に来たのは初めてだ。

 しかし、何故か既視感があった。

 そして、今までにないくらいに嫌な予感がする。

 この場には何もないはずなのに大きく感じてしまう――死を。

 その思いを胸に伏せられている写真立てに手を伸ばす。


「……これって」


 驚きを隠せなかった。

 写真立てに入っている一枚の写真。

 そこに写っているのは幼い子どもに両親らしき二人の大人。

 二人もそうだが、幼い子どもには見覚えがあった。

 何故なら、幼少期のサクラそのものだったからだ。


「何で……こんなものが……」


 わからない。

 いったいこの場所は何なのか。

 いったいこの場所はどこなのか。

 先程から高まる嫌な予感と関係しているのか。


「部屋を出てみればわかるか――」

「にゃー」

「――!? ってクオンか」


 周りに意識を向けていなかったので思わず驚いてしまったが、背後にクオンがいた。


「驚かせないでよ」

「にゃー」


 少し申し訳なさそうな表情。

 同時にサクラはホッとしている。

 クオンがいたということ。

 そしてこの場所にはいないが、みんな近くにいるのではないか。

 

「行こうかクオン。みんなと合流しないとだしね」

「にゃー」


 写真立ても気になるが、今は仲間と合流することが優先だ。

 再度伏せて、部屋を後にする。




 部屋を出ると、正面には窓のない壁。

 右手も壁。

 どうやらサクラがいた部屋は最端の部屋のようだ。

 左手は先が見えないほど長い廊下が広がっている。


「手がかりもないし、歩くか」


 歩く……ただひたすら歩く。

 魔法か何かで先に進んでいないのかというレベルで変わり映えのしない光景。

 ただ魔力は感じない。

 単純に長いだけなのか……と思ったらそういう訳ではなかった。


「……」


 とある地点でサクラは止まった。

 歩くたびにすれ違ういくつかの部屋に窓のない壁。

 何の変哲もなく変わり映えのない光景に水を差すように、サクラが止まった地点の壁側に違和感を覚えた。


「……ハァ。――燃えろ」


 視線の先の壁に向かって放つ炎の魔法。

 そこには燃える壁……ではなく、透明の何か(・・・・・)だけが燃えており、しばらくしてそれは正体を現し、壁から剥がれ地に落ち絶命した。


「幻覚を見せる魔物――魔力や気配を隠すのは上手いけどそれは弱者に限る。強者が前を通ると、緊張して一瞬だけ気が緩む瞬間が訪れる。それを見逃すのは強者ではなく、その皮を被った弱者だ」


 言い終えると幻覚の廊下が消えた。

 壁だけの廊下とは正反対にたくさんの窓がある長い廊下。

 と言っても幻覚で見せられていた廊下と違って壁の先がハッキリと確認できる。

 そこまで大きい建物と言うわけではなかった。

 いや、幻覚のせいで感覚が狂っているが、実際は大貴族の屋敷の大きさ程だろう。


「あ、サクだ」

「……サクちゃん」


 サクラのいる所から一番近い部屋からモネとネロが出てきた。


「二人とも……」

「クーもいる」

「よかった~」


 二人ともサクラに飛びついてきた。

 相当怖かったのか、二人とも強く抱きしめてくる。


「二人とも痛いよ……で、二人はどうしてここに?」

「気づいたらここで寝ていたの」

「起きた時よくわからない寒気がしたからすぐにこの部屋に入った」

「怖いもの知らずだね」


 何も知らない、罠かもしれないこの状況で謎の建物の部屋に入る勇気、度胸がある子たちだ。


「でもサクがいれば安心だね」

「……(コクコク)」

「まあ、合流できたことは良いことだし……あとはメニシアとビリンだけど」


 今までの経緯を考えれば二人ともこの建物内にはいる可能性は高いだろう。

 問題はどこにいるかという話になる。


「散策するつもりだけど……付いて来る?」

「当たり前だよ」

「――! そうだ」


 ネロは自分たちがいた部屋に戻る。

 戻ってきた時にネロが持っていたのは鞘に収まった一本の大剣――。


「それって僕の聖剣じゃん」


 確かアリストの宿に置いていったはず。


「サクが暴れてるってクーが教えてくれた時に一応持って来た」

「暴れたって……」


 反論できない。

 でも、正直助かった。

 改めて聖剣を背に掛ける。


「行こうか二人とも」

「おー」

「クーを抱いていい?」

「はい」


 抱いていたクオンをネロに渡し、苦しめないようにぎゅっと抱きしめる。


「あったかい――」




 散策するにもあまりにも情報が無さ過ぎる。

 むやみやたらに突っ込んで行くと早死にしてしまう。

 ただ、情報が無さ過ぎるのはサクラにとっては日常茶飯事だ。

 それに、早死にと言ってもそれは冒険者になりたての初心者や調子に乗って過信し過ぎている弱者くらいだ。

 サクラもいるし、モネもネロもサクラやビリンからあれこれと教わっているので過信しないように心掛けているので、能力も相まって早死にという心配もないだろう。

 しばらく歩くと大階段のある地点に到着する。


「――静かに」

「?」

「……どうしたの」


 サクラの判断で立ち止まり、周囲を要警戒する。


「何か聞こえる……戦闘音かな」

「聞こえるの?」

「うん……よーく耳を澄ませたらね」

「ホントだ、小さいけど……鳴き声? 咆哮?」


 幻覚を見せた魔物がいると考えれば、今聞こえる音も魔物が発する声と考えられるだろうが、声だけではない。

 サクラが言った通り、武器らしき金具音のような音も聞こえてくるので戦闘中なのか。


「言ってみる?」

「そうだね……慎重に、僕が先行するから少し間を置いてから二人も続いて」

「「うん」」

「クオンは後ろで待ってて」

「にゃー」


 大階段を下りていくと戦闘音が大きくなっていく。

 先が見えてくると少し大きめの扉が見えてくる。


「じゃあ――行くよ」 

 

 作戦通り、サクラが先行する。

 刀を構え、加速していき、勢いよく扉を開ける。 


 そこにいたのは異形の大きな魔物に、それと戦うメニシアだった。

 見た感じ少しの傷があるとはいえ善戦しているようだ。

 しかし、メニシアの今の実力に彼が得物として使用している短剣「封魔ノ命」で動きを鈍らせているが決定打に欠けるのが現状故、メニシアが不利なことに変わりない。


「メニシア伏せて――!」

「え、サクラさん!?」


 突然の呼びかけに驚きはしたが、瞬時にサクラの考えを理解し、即座に伏せた。


「修羅・一閃――爆!」


 刀身に凝縮された赤黒き炎を解放し、異形の魔物に放つ。

 弾丸のように放たれた無数の炎は、魔物に着弾したのと同時に爆弾のようには爆発していく。


「――ぅ」

「抱えるよ」


 爆風に紛れてサクラは急いでメニシアを回収し、扉の方まで戻る。

 戻ってすぐに魔法で傷を癒す。


「大丈夫?」

「はい、助かりました――ってうわっ」


 扉の向こうから二本の鎖が真っ直ぐ魔物の方へと進み、そのまま縛り上げる。

 さらに鎖の数は増え、それらは次々と魔物を縛っていく。


「モネ、ネロ――」

「シアちゃん大丈夫?」

「……もう安心だよ」

「はい……ありがとうございます」

「メニシア、あの魔物の特徴は――」

「見た目に反して物理的なパワー型の魔物かと」

「なるほどね……だとしたら双子の鎖もメニシアの短剣もある意味ストレートに効果を発揮するか」


 召喚系の魔法や幻覚系の魔法など今までの魔物と同様のタイプだといくらか対策を講じる必要があるのだが、純粋な物理タイプなら対策はしやすい。


「短剣の効果ってまだあるの?」

「何回か傷を負わせているので効果自体は十分に残っています」

「なるほどね……成長したね」

「――! ありがとうございます」


 成長した――メニシアにとって最高にうれしい一言だ。


「とどめは僕が――モネとネロはそのまま鎖で縛って」

「「うん」」

「聖剣開放――」


 刀を納め、聖剣に持ち替えて解放する――。




「ふぅ」


 魔物にとどめをさしたサクラは、魔物の死体の上に座り込む。

 死体は徐々に光の粒子となり、聖剣に少しずつ吸収されていく。


「お疲れ様です」

「お疲れサクちゃん」

「……(コクコク)」

「一撃で終わらせるつもりだったんだけど、まさか鎖を強引に引きちぎるとは思わなかったよ――」


 動きを封じられていた魔物は、メニシアの短剣の「毒」によりより行動を制限されている中で、メニシアのパワー型というように毒をも制する力の急激な上昇により強引に引きちぎった。

 その勢いのまま、サクラに殴り掛かるが、あまりにも直球過ぎたその攻撃は容易に避けることが出来た。

 避けたのと同時に魔物の攻撃していない方の腕を斬り落とし、そのまま首も斬り落とす。

 ただ、恐怖だったのは首を斬り落としても動き続けたことだ。

 地面に落ちようとする自身の首を事もあろうかサクラに目掛けて思い切り蹴り飛ばした。

 驚きはしたが、冷静にボールとなった首を聖剣で打ち返し、魔物の身体に直撃し、魔物はそのまま力尽き倒れた――。


「首を斬り落としても死んだとは思っていなかったのかな……バカ?」

「魔物にバカも何もないのでは……」

「でもシアが無事でよかったよ」

「……うんうん」

「そうすると残りはビリンだけだけど――」


 話すことはそこまで多くないが、サクラはこれまでの経緯、そしてここにいる理由と原因について軽く伝える。


「召喚魔法……」

「確証がある訳ではないけど……いや、もしかして転移魔法の線も」

「転移魔法ですか?」


 召喚魔法と転移魔法は似ているようで違う。

 召喚魔法は、要は対象者を呼び寄せると言った方が簡単かもしれない。

 転移魔法は、その名の通り場所と場所を瞬時に移動する魔法。


「まあ、どちらにしても僕たちがここにいるという時点でどんな魔法でも関係ないけどね」

「肝心のビリンさんは見かけてませんし」

「シアは私たちが来たところの反対の方にいたんだよね」

「そうですね」


 サクラたちが来た扉の反対側に、全く同じ扉がありメニシアはそこから来たという。

 道中の構造も、メニシアから話す感じでは扉同様全く同じようだ。

 サクラがここまで来る道中にはモネとネロしかいなかったので、てっきり今の話的にメニシアのいたフロアにいるものだとばかり思っていた。


「単独で先に進んだのか、はたまた別の場所に飛ばされたのか」

「ビリンさんの実力ならいつもはそこまで心配する必要はないのですけど……」

「そうだね、いつもなら……いつもなら」


 サクラにはどうしても拭いきれない感覚が目覚めてからずっと付きまとっていた。

 嫌な予感だ。

 それに、この感覚は初めての筈なのに、初めてではない(・・・・・・・)ような感覚。

 これがあるせいで、メニシアの言う心配という感情が現れる。


「……探すって言ってもどうするの?」

「僕たちが今いるこの広間、僕たちとメニシアがそれぞれ来た方角の左右にはそれぞれ大階段と大扉がある。でも――」


 サクラが大扉の方に行くと途中で立ち止まってしまう。


「サクちゃん進まないの」

「……進めないということですか」

「うん……氷弾」


 そう呟くと氷の弾丸を大扉に向けて発射するが、すぐに氷弾は粉々に崩れ、同時に薄い光の壁が現れ、大扉への接近を拒んでいることがわかる。


「さすがのビリンもこれを突破してその先に行くのは不可能だと思う。そうなると進んだのは逆方向の大階段の先だと思う」


 先程サクラたちが下って来た大階段とは違って、長く続く階段。

 幻覚とは違う、ただ純粋に長いだけの階段。


「この先を進まないことにはこの建物からの脱出は始まらない」

「なんかめんどくさい」

「……(コクコク)」

「わかる」

「ハァ……行きましょうよ、三人とも」


 最初から進む道が決められているのなら進むしかない。

 罠だとしてもそれを乗り越えれば良いだけのことだし、乗り越えられないメンバーではない。

 腹を括って一行は、ビリンが進んだであろう大階段の先を目指して行く。

 長く、長く続くその階段。

 果てしないように見えたがそう思えて来る直前に終わりが見え、それと同時に離れた先からでもわかる程の大扉が見える。


「さっき見たやつより大きいね」

「あの先にビリンさんがいるのか、それともそのさらに奥にいるのか」

「わからないけどここまで来たら進もうか」

「……(コク)」


「……」


 大階段を上る道中、進むにつれて大きくなる「嫌な予感」。

 そして大扉の前に到着するとそれは最大となっており、冷や汗が止まらない。

 上半身の衣類の下が汗で少し濡れているのがわかるくらいに流れている。


「サクラさん大丈夫ですか」

「大丈夫……行こうか。ただ、嫌な予感がするから気を引き締めて、いつでも戦闘態勢に入れるように」

「はい」「「うん」」


 大扉を開けたその先には、今までの嫌な予感の正体が判明し、同時に杞憂であってほしかったと今でも、あの瞬間(・・・・)までも思っている――。

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