間話 不殺の暗殺者③
「こいつは――」
雑木林を進んだ先には、周りが木々に囲まれた開けた場所に出てきた。
そこにいたのは、無数の触手をなびかせる花型の怪物――魔物の一種だろうか。
大きさは人間の三倍行くかどうかだろう。
その花型の魔物がなびかせる無数の触手の数本が、叫び声の主を捕らえていた。
「やっぱり――」
「あれは、老人?」
「サクラさん、あの人って」
「洞窟の件のおじいさん。さっき会って散策するって言って雑木林に入ったんだけど」
「まずは救出が先だ、サクラ」
「……わかった」
刀を構え、老人を捕らえる触手を斬る――しかし、他の無数の触手がそれを遮る。
「うっとうしいな」
「サクちゃん離れて!」
「――!?」
声の通り即座に左に横ステップする。
瞬く間に水の糾弾が連発される。
「一人になれるのか」
「そうだよリンちゃん――その名はモード・モネロ」
モネとネロが一人になった姿。
外見はモネとネロを足して割ったような感じだが、元々二人は瓜二つということもあって一人になったところで違和感というものは全くと言っていいほど存在しなかった。
モード・モネロというのは二人で考えた――二人の名前を単純に合体させただけという単純な名付け。
モネロが装備しているのは、祖父から授かり、実の母親の形見である魔法杖アクアルナ。
特注であり、良い素材が使用されているので、魔法の制度や安定感が高く。モネロのような見習いには丁度良い得物だ。
魔法杖アクアルナは一本しかないので、モード・モネロの時くらいしか使用機会ははないのだが、まさかこんなに早く使用するとは正直思わなかった。
「それだけじゃないよ――いっちゃえ、「神の戒め」!」
「神の戒め」の名と共に放たれる無数の鎖が花形の魔物を襲う。
この名前はエルドラルが名付けたようだ。
神話に出て来る鎖と同様の名前を付けただけとのことだが、その名に相応しい能力は皆が知る所だ。
魔物故に花型の魔物には強く影響を受けており、自由に触手を動かすことが出来ない。
「サクちゃん!」
「六道神流、三の太刀――修羅・一閃」
全てを斬り裂く一閃が老人を縛る触手を一斉に斬る。
落ちる老人を難なく受け止め着地する。
「大丈夫?」
「あ、あ……あれ……」
「……? あれって」
老人が指さす方を向く。
鎖に縛られている花型の魔物。
巨大な花の中心部分に急速につぼみが出現し、一気に花開く。
「ぅ……」
「気持ち悪いです」
花開いた時に、大量の粘膜が滴れ、絡みつき粘々としている。
開かれた花も異形のような気色が悪い。
この世で最もと言っていいほどに気持ちが悪い。
だが、安心できる材料などどこにもなかった。
そう――この瞬間に行動しなかったサクラたちの敗北が確定した瞬間だった。
開花から数秒経たずに魔法陣が出現した。
「――しまった」
それにすぐ気づいたサクラだったが、遅すぎた。
気付いた時には地面にも魔法陣が描かれていた。
「これって――」
何もかもが瞬間の出来事だった。
地面に魔法陣が出現したのと同時に、魔法陣の範囲を地面から光が天に登るようにサクラたちを飲み込んだ――。
「ハァ、ハァ、ハァ……ッ、遅かったか」
シュウラが雑木林を抜けて開けた場所に着く直前に謎の光が突如として現れ数秒で消失した。
その場所に着いた時、シュウラの眼下に広がっていたのは、人一人もいない静寂に包まれた光景――。




