間話 不殺の暗殺者①
魔術都市イリナを発ってから数日が経過した。
サクラたちがいるのはアリストという小さな町。
この町の目と鼻の先には、砂漠が広がっている。
サクラたちの目的地は、その砂漠の先にある砂漠都市ガランダール。
そこへ向かうには砂漠を通るのが必須となるので、アリストに留まり、砂漠を超えるための準備をするため、数日滞在する予定なのだが――。
「しばらく通行止め?」
「大変申し訳ないのですが……」
アリストの冒険者ギルド。
小さい町の冒険者ギルドは関所の役割を兼ねているところが多く、アリストも例に漏れない。
ただ、関所と言っても行き来を取り締まると言う訳ではなく、砂漠を超える際の注意喚起などを主にしているというくらいで、あとは普通に冒険者ギルドとして存在している。
「二日ほど前から酷い砂嵐が発生しまして、しかも長年いる私ですら見たことがない酷さでしてね、さすがにこの中を通す訳にはいかないという支部長の判断が下りましたので、ご不便をおかけいたしますがしばらくは通行止めとさせてもらっています」
「ちなみにどれくらいで止むんだ?」
「普通でしたら翌日にでも。しかし、このような規模は先程も申しましたが初めてなので翌日だと強くいうことが出来ません」
「……未定と言う訳か」
「大変申し訳ございません」
「別に良いよ。じゃあ改めて宿に向かおうか」
ギルドを出て、一行は宿に向かい、宿泊の手続きを進める。
そもそもなぜ、砂漠都市ガランダールに向かうのか――。
魔術都市イリナを発ってから数時間後――。
「次の目的地は砂漠都市ガランダール」
「どういうところなんですか?」
「名前の通りだよ、砂漠に囲まれた砂漠の中の都市。砂漠に囲まれていると言っても砂漠の端にあるから都市の一部は砂漠ではないけどね」
「お前の目的に引っ掛かる何かがあんのか」
「うん。モネとネロの教材を図書館で探している時にたまたま見つけたんだけど――」
その本は一冊の本。
見つけたのは本当に偶然だ。
クオンがこちらと指していたので、指していた方を見るとそれは歴史の本だった。
正直モネとネロの座学にはあまり関係ないと思ったが、ある程度教えても損はないだろうし、なんとなく気になったので、教材用の本と共に歴史の本も借りて、その日寝る前に読んだ。
内容は確かに歴史書だ。
ただ、半分歴史書で半分お伽話と言うような内容なのだが――。
「――お伽話の方に登場するのが魔王なんだよ。それにその配下も出て来るんだよ、七人も」
「七人? ……あ?」
「ビリンがどう思ってるかは知らないけど、この七人で真っ先に僕が思ったのは――」
「冥府の誘い、七司教ですか」
「うん」
メニシアが言った通り、サクラがリンクしたのは冥府の誘いの七司教だった。
もちろんこのお伽話と七司教が関係していると言う訳ではない。
このお伽話は、何百年も前に作られた話に手を加えたもので、現に七司教の一人であるグランは何百年も生きていない。
ただ、サクラは引っ掛かっている点があった。
「僕とメニシアが戦ったアビルは封印されていた悪魔、魔鏡をその封印から解き放ち、そして自身の身体に取り込んだ。まあ自滅に終わったけどね。二人目のイエユリ――というよりは憑りついていた霊体はあまり悪魔に関連した目的ではなかったけど、三人目のグランは人々を悪魔にしようとしていた」
「最終的にはアビル同様、少し違いますが自信を悪魔化してそして倒された……」
「魔王は悪魔の王……強引かもしれないけどこれまで戦った七司教三人のうち二人は悪魔に関連していた」
「関係ないことはないかもしれないがお前の目的を考えたらそれなりのヒントを得たってことか?」
「本当に遠いヒントかもしれないけどね。お伽話に登場する魔王と七人の配下。まず人数が共通しているということ。そして七人全員が悪魔と言う訳ではない。この点は僕たちが戦ってきた七司教と共通している。もちろん七司教全員と対峙した訳ではないからお伽話とまんま同じと言う訳ではないけどね。でも、七司教と七人の配下を同じと考えた場合、そのお伽話に出てきた重要な町が――」
「砂漠都市ガランダールと言う訳か」
肯定するように頷くサクラ。
ただ、あくまでお伽話の内容にすぎないということ。
外れの可能性も十分に考えられる。
「それにもう一つ僕が気になったことがあってね、魔王と七司教のほかにもう一人魔王側に重要な人物がいてね……それは魔女なんだ」
「魔女……ですか」
「うん、その魔女が七人のうちの一人なのかそうでないかは記されていないけど、間違いなく人類にとっては敵対していた」
「つまりサクラがガランダールを目的地に設定した決定的な理由がそれか」
「そうだね」
ここだけサクラの語気が強まったような気がした。
だが、サクラの旅は正解が見つからないような旅だ。
少しでも情報があれば確認する。
メニシアと出会う前からクオンと共に旅をし、やって来たことだ。
「まあ目的地がどうあれ、私たちはお前に付いて行くって決めたからな」
「別にお願いした覚えは一切ないけどね」
「クオンがいるとはいえ、このまま一人だと確実に早死にしますよね。そうならないようにするための私たちだと思ってください」
「……それだけ心配してんだよ」
「そうです」
「……うん」
「……人数が増えるとこうも疲れるものなんだね」
「にゃ~」
クオンを抱きながらベンチに座るサクラ。
アリストを出てすぐ隣に広場があり、そこのベンチに腰を掛ける。
モネとネロが加わったことでより一層賑やかになったパーティーだが、正直こうなるなんて微塵も思ていなかった。
エリアスでメニシアと出会ってから歯車が狂いだした。
ただ、その狂いは別に嫌という感情を芽生えさせていない。
サクラ自身そこに驚きを隠せないというのが本音だ。
人に対してまだ心を開けているのが師匠唯一。
クオンの反応もあって結果一緒に旅をするようになり、仲間も増えた……。
「ねえクオン、僕って変わったのかな……」
「?」
自分でもわからないこの感情。
素振りをするなりで紛らわしたいがそのような気分でもない。
「……宿に戻ろうかな。みんな別行動でまだ戻ってないだろうし」
ベンチから立ち上がろうとするサクラ。
「おや、もしかしてあの時の娘ですかな」
横から老人の声。
そちらを向くと、ビリンと出会う前、ファルカスに向かう途中で出会った老人がいた。
「あの時の……」
「その節はありがとう、厄介ごとを任せてもらって」
「別に良いよ、僕もそうだし連れにとっていい経験にもなったし」
「経験……それはよかった、と言ってよいのか」
「あなたはどうしてここに?」
「それがですね――」
この老人も砂漠の先に用があるようだ。
ただ、矢先に砂嵐で足止めをされており、サクラたち同様に待機していると言う訳だ。
「お互い災難だね」
「ええ。それにしても、またお仲間が増えたのですね」
「嫌々だけどね」
直球な答えに老人は少し笑みを浮かべる。
「――やはり、その像はどこにでもあるのですかね」
老人が指す像、サクラが座っていたベンチの背後の先にある一体の女神像。
「何か知ってるの?」
「いえ、わしは長く生きている割に歴史には疎くてですね。旅をしているというのもありますが」
「ふーん」
あまり一般的ではないのかもしれない。
イリナ魔術学校にあった像もそうだ。
エルドラル曰く、この女神像の存在を知らなかったようで、そもそも学校内にこのようなものがあることすら知らなかった。
正体不明の女神像。
歴史において認知されていないのか、老人やエルドラルが疎いのか。
はたまた女神像自体に歴史が浅い、もしくは無く、誰かが出現させた何かなのか。
少しは気になるが、サクラの旅の目的とは関係ないことなので、深く関わることはないだろう。
「ではわしは散策の途中なので――」
そう言って老人は女神像のさらに先の雑木林へ入ろうとする。
「大丈夫なの?」
「平気ですよ、こんなのはいつものことなので」
「……あっそ」
老人は、躊躇くことなく雑木林を進んで行き、奥地へ消えていった。
「……変なの――」
鋭い視線、瞬時に感じた悪寒。
それはまるで……死――。
「――ッ」
聖剣は宿に置いて来た。刀も抜刀する瞬間もない。
サクラの取った選択肢は、袖に隠している暗器――小刀で防ぐこと。
その行動は正解で、襲い掛かった攻撃を防ぐことが出来た。
「……ナックル? それに――」
攻撃の正体は、ナックルによる格闘攻撃による一撃。
一見殺傷能力はなさそうに見える。
別にそれを隠している様子もない。
武器にも、そのナックルの使用者にも魔力を感じないし、隠蔽している素振りもない。
「誰?」
「――ハッ!」
拳の次は拳と反対側の脚による蹴り。
拳は小刀と鍔ぜり合っている状況。
だが、サクラは特に驚くと言った心の乱れはなく、冷静に受け止めることで対応し、そのまま瞬時に逆に蹴りの一撃をお見舞いする。
一撃が入った襲撃者は即体勢を立て直し、少し後退して行きを整える。
「別にあなたに興味も何も無いから名乗らなくてもいいけどさ、見ず知らずの人に対していきなり暴力はさすがにないんじゃないかな」
「……そうだな。確かに無礼だった……だから俺の流れる血は嫌なんだ」
「いや、自問自答しないでよ。暴力の理由を聞いているんだけど……まさか、今言ったあなたに流れる血が理由とか言わないよね」
「半分その通りだ。もう半分はお前が強者だと認識したからだ――ッ!」
迷いなく突進してきた襲撃者の男。
(速い……けど――)
男の持つ速度には驚きはしたものの、今度は時間が十分にある。
「六道神流――五の太刀……餓鬼・雷切」
一瞬の出来事だった。
既に男の視界にはサクラの影すらもなく、静寂に包まれていた。
「どこにいっ――ッ!?」
突如として全身から力が抜け、地に膝をつく。
「何だこれは……身体も痺れてきて――」
「この攻撃は人を斬るためでも殺す為でもない」
男の背後から声が聞こえる――サクラの声だ。
振り向くと、刀身に雷のような光を纏わせた刀を握るサクラが立っていた。
「……不殺の攻撃と言う訳か」
「そうだね、ある意味僕らしく、僕らしくない技だ」
「斬った対象を麻痺状態にさせるといったところか……」
「うん。斬った対象には刀傷は一切つかない。だが、斬った箇所を中心に麻痺という名の痺れが襲う。殺すというより……そうだな、拷問に近い技かもね」
「麻痺を解く条件は?」
「教えたところであなたには解けないだろうからいいよ、教えても……単純な話だよ。もう一度同じ個所を斬れば良いだけだから」
「そうかい……だったら……ハッ!!!!!!」
強い発声と共に男は立ち上がる。
「へえ、これを解くんだ」




