第3話 雷魔潜む魔術都市㉜
サクラたちがグランの研究室を訪れてからさらに数日が経過した。
いまだ事件による混乱は残っているものの、少しずつ前を向きだした人々は、元の生活に戻ろうとしていた。
その一つが魔術学校の授業の再開。
悪魔化した生徒が予想以上に回復が速かったこと。
そして、全員とは言わないが、悪魔化した際の精神的ダメージが少なかったこと。
もちろんグランの裏切りというのは相当な衝撃とショックがあったのは事実だが、それはそれと分けて考える生徒が多かったらしい。
ただ、事件前のようには完全には戻っていない。
前述のようなことがあり、すべての授業が再開されたと言う訳ではない。
これは被害者も同じこと。
多くの人が回復したとはいえ、未だに回復していない者もいる。
そういった人々への配慮により、すべての授業の完全再開を見送り、同時に成績の付け方も臨機応変に対応しているという状況だ。
サクラや双子、ビリンやメニシアも事件後の復興など尽力した。
それから、エルドラルの判断もあり残りは学校側が引き受けることになり、サクラたちは撤収した。
しかし、魔術都市イリナを発つ以降の計画を未だ立てていないのでしばらくは滞在することになる。
それを聞いたエルドラルは、改めて魔術や魔力といったことに対する授業を含めた勉強をしないかと提案された。
どうせ時間があるということで、ビリンとメニシアは喜んでその提案を受け入れた。
サクラと双子は、別行動を取るとのこと。
双子が魔力を持ち、さらにサクラや二人の母親であるサラーナと同じ魔法を使える魔法使いということもあり、それらを含めてサクラが色々と教えるそうだ。
「――と言っても、二人は魔法は使える身体ではあるけど、使える魔法があるかないかはまた別の話」
「うん、ないよ」
「……(コクコク)」
「やっぱりか」
エルドラルの配慮で、使用していない教室で双子に魔法について教えている。
先の戦闘で双子が使用したのは、鎖のみで魔法は一度も使用していなかった。
魔力操作が出来るのはわかったが、今の話から使える魔法を持ち合わせていないというのが見える。
「正直なところたくさん戦ってどんどん新しい魔法が使えるようになるって訳じゃないんだよね」
「でもサクっていっぱい魔法使えるよね?」
「綺麗だったり怖かったり」
「うーん、どこから説明したらよいか」
頭を悩ませるサクラだが、そもそも人に何かを教えるということをこの人生一度もなく、そういう性格でもない。
むしろ本来は人を遠ざけるような性格でもある。
メニシアに半ば強引な形で共に旅をするようになる前はクオンと共にしか行動していなかった。
ギルドからの勧誘も断り続けるくらいには人を嫌う――いや、信用しきれないサクラにとっては自分自身戸惑いがある。
多分、双子がサクラと似た境遇だからこその今なのだろう。
「――簡単に言えばイメージかな?」
「「イメージ?」」
「そう、イメージをしてそのイメージしたものを魔力を通して変換して、そして魔法として外に現れるって感じかな」
「イメージ……」
「……」
黙り込む二人。
ほんの少しの静寂に包まれる教室だが――。
「多分無駄じゃないかな」
「なんで~?」
「だって二人とも初めてやるでしょ? 何回戦っても増えないけど、逆にその前のイメージの過程を何度もやらないと魔法を使うどころか魔力の流れの感覚もつかめない」
「サクちゃんも時間かかったの?」
「えーっと……割とすぐ」
「だったら私たちも出来るって」
「うん」
そして二人はまた黙り込み、再度静寂に包まれる。
「……」
二人は羨ましがっていたが、当のサクラが魔法を使えるようになったのは「復讐」という強い思いがあったからだ。
魔法について教えてくれたサクラの「師匠」は、相当に驚いていたのを見ると、魔法を使えるようになるまでには差はあるにせよ、それなりに時間がかかるものらしい。
「別に今日中に魔法を使えるようになれっていう訳じゃないし、ここで魔法をぶっ放す訳にはいかないからイメージの練習はまた今度」
「えー」
「じゃーなにするの?」
「ここは学校だからね。学校らしく座学でもしようじゃないか――」
それからさらに二週間が経過した。
いまだ日常が完全に戻った訳ではないが、近づいては来ている。
ここまで急速に復興しているのは、学校側の迅速な対応に加え、サクラたちの支援もあった。
普段はそれぞれのやることをやっているが、一定の時間を確保して学校内外の復興支援をしている。
結果、想定より速いペースで元に戻りつつある。
そして――。
「どうやら次への目的地が決まったようですね」
「まあ、ざっくりとだけどね」
教頭室でお茶をするサクラとエルドラル。
ここまでの経過を互いに伝えあっていたが、途中からエルドラルの娘サラーナの話になり、それから世間話に発展していった。
話を聞いていく中で、思うことがあったり、気になることがあったりなど、色々と考えた結果、ざっくりとではあるが次への目的地が決まり、他のメンバーにもそのことは何となくではあるが伝えている。
「短い期間ではありましたが寂しくなりますね」
「短い割には濃すぎたけどね」
「はは、そうですね……」
確かに濃かった。
サクラ自身こうなるなんて来た当初思いもしなかった。
ただ、この出来事がなかったらエルドラルやモネとネロとも出会うことがなかったかもしれない。
出会いだけではない。
多くの事を学ぶ機会を逃していたかもしれない。
聖剣などを含めた神器がその一つだ。
「モネとネロもいることだし、すぐには無理だろうけどまたここに立ち寄るよ」
「私は魔法使いではなく長寿ではないので出来るなら早くが良いですね」
「善処するよ――」
数日後――。
早朝の魔術都市イリナの南側――三区の内外部の出入りが盛んな門の外――。
「みなさん、忘れ物はありませんか?」
「はい、大丈夫です」
「ああ」
「モネとネロは?」
「「なーい」」
一行が旅経つ――エルドラルはそれのお見送りに来た。
「この旅は本当にありがとうございました」
「いいってことだよ、私たちもいろいろ勉強になったしな」
「そうです、こちらこそ感謝したいくらいですよ」
「私たちも色々勉強できたしねー」
「うん」
「……」
本当に色々なことがあった。
それこそ簡単に生死を彷徨うなことも。
だが、同等かそれ以上のものを魔術都市イリナの滞在で収穫し、この地に来た本来の目的である「学び」というのも達成できた。
「……そうだね、僕も魔法使い――魔女としてある意味成長できたかもしれないね」
メニシアやビリンだけではない。
サクラも大きく成長を遂げた……そう自身も思っている。
「では、最後になりますが、モネとネロに渡したいものが……」
「「?」」
そう言うと、エルドラルは後ろに置いていた少し大きく長いケースに手を伸ばす。
ケースを開け、取り出したものを一行に見せる。
「それって」
「はい、サラーナの魔法杖です」
真に綺麗な木材で上部には青く月光のように美しく光る球体型の水晶が飾られている魔法杖。
エルドラルの言う通り、娘のサラーナが使用していた魔法杖であり、現在はエルドラル自身が使用している得物。
「……いいの?」
「はい。さすがに二つには分けられませんが、あのモードになればそう問題は無いでしょう。それに私より魔法を使用できる二人の方がより持ち味を生かせるはずです」
「まあ、僕たちまだ使えないけど」
「ネロー、言わないでよー。もう少しなんだから」
「そうだね、僕から見てもこのまま練習すれば使えるようになるよ」
和気あいあいとするこの風景。
だが、長くは続かない――そろそろ旅立ちの時だからだ。
「サクラさん、メニシアさん、ビリンさん。どうか、孫をよろしくお願いします。そして、皆さまの旅の無事を願っております」
「はい」「おう」「うん」
こうして、エルドラルが見送るその視線を背にサクラたちは魔術都市イリナを後にする。




