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復讐に染まった少女は輪廻の旅の果てに……  作者: ただの小林
3周目 第3話 雷魔潜む魔術都市
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第3話 雷魔潜む魔術都市㉛

「はあ、はあ、はあ……」


 魔力には余裕がある。

 しかし、想像以上に体力を消費した。

 大技を二回も撃てばそうなるだろう。


(一日二回は無理かな……)


 力を使い果たしたサクラは、抵抗することなくそのまま地面に向かって落下する。

 寸でのところで力の抜けきった身体が止まる。

 見ると、鎖が腹部に絡まっており、背には光の楯が敷かれている。


「サクラ!」

「サクー」


 近づくビリン、一つの身体となっているモネとネロ。

 二人のおかげでそのまま地面に落下することがなかったのは幸いだ。


「大丈夫、サク?」

「二人? とも――」


 やはり見間違いではなかった。

 その姿は一人となったモネとネロだ――悪魔ではなく人間そのもの。


「あー、なんか強く思ってたらできたー」

「なんかって……」


 おそらく先の悪魔化した際に、今と同様二人から一人になったことが関係しているのだろう。

 一種の融合であるのだろう。

 聖剣で悪魔因子を取り除いた結果元の二人の状態に戻したが、今回はどうなのだろうかとサクラは思っていたが、次の瞬間その身体が光り輝き、瞬時に二つの身体に戻った。


「任意で戻れるの?」

「うん」

「……また一人になることも出来るよ」


 だとすると戦闘面で考えた場合はプラスとなり得るかもしれない。

 あくまで戦闘面での話――。


「大丈夫なの?」

「全然」

「うん……おもしろい」


 身体的にも問題はなさそうだ。

 そのような会話の直後、サクラたちがいる場所から少し離れた場所から何かの墜落音が聞こえてきた。

 サクラが放った一撃を受けたグランだ。

 力が入らない身体に鞭を入れて立ち上がろうとするサクラだが、それより前にグランの元に一人の男がすでに立っていた。


「グラン先生……」


 同僚であるのと同時に最愛の娘をグランに殺されたエルドラル。

 地面に倒れるグランを見つめるその表情は怒りでも悲しみでも憐れんでいるでもない、何とも言えない表情だった。


「はは……殺すなら今しかないですよ……まあ、もう死んでるようなものですが」


 完全な悪魔と化したグランは、その急速な変化故に、人間の姿には戻れず悪魔の姿そのままとなっている。

 そして、その代償なのか、サクラが放ったグランドカリバーの影響なのかは不明だが、足元から徐々に砂状に変化していき崩れ始めている。


「確かにあなたは最低極まりないことをしました。しかし、たとえそれがあなたの計画の一つであったとしてもこの学校に残した功績までは否定しきれません」

「……」


 エルドラルの言う通り、グランの行動がすべて今に繋がる計画の一つであったにせよ、すべてが悪い方へ向いていたかと問われたらそうではない。

 彼の研究によって明かされた真実など良い方へ向いたというケースもある。

 だからこそすべてを否定することは出来ない。


「あなたの過去はわかりません。どうしてこの人生(みち)を選択したのかはわかりません。ただ、ほんの少しでも何かが変わっていたらこの今もなかったのかもしれませんね」

「そうですね……私からは想像できません、けどねぇ……エルドラル先生、この町には私がばら撒いた悪魔因子はもうありません。すべて私が吸収したのでね」

「……」

「信じろという方が無理な話ですかね……そして私の研究室……そこにあの子たちの遺伝子や魔力の質を戻す薬があります……といっても、彼女の強い血の影響なんでしょうかねほぼほぼ戻りかけているので意味はないでしょうが……戻すのは止めることくらいはできますね」

「……そうですか」


 グランのことだから、計画の際の実験で不測の事態に備えて作成したのだろう。

 実験を確実なものにしたいという性格で、実験に関して偽ったというのもない。

 今回の件にしても、今までの発言や実験内容を振り返っても偽りや矛盾というものはなかった。

 その薬に関してはある程度信用しても良いだろう――。


「……サクラさん」

「なに」


 ビリンの肩を借りながら、モネとネロ、メニシアと共に倒れるグランの元へ着く。


「あなたは確かに強い。多分まだ底を見せていないのでしょうね……ですが、それでもあなたの目的である彼女には勝てないでしょうね」

「……」


 全く同じことをファルカスでイエユリにも言われた。

 その時はまだ倒すためのピースが足りないということらしいが――。


「今の僕たちのままだと勝てないとか――」

「わかって、いましたか――では、一つアドバイスを……彼女は破壊。ですが、根源は癒しです……そこをどうにかしないと、あなたの目的は決して達成されない……」

「それがどのくらい重要な情報かは知らないけどペラペラ喋っていいの?」

「もう死にますからね……それに別に私は彼女の部下でも何でもないですしね……そろそろ時間ですか」


 言葉の通り、グランの身体はすでに胸部付近まで砂と化している。


「はあ……ほんと、最悪でしたね。まあ、言ったところでどうにもなりませんが――」


 そう言い残して、身体は完全に砂と化した。

 少しの風が、その砂を空中へと運び、散る――。


「終わりましたね」

「そうだな――ふう」

「お疲れさまでした皆さま。そして、大変申し訳ございませんでした」


 言葉と同時に深々と頭を下げるエルドラル。


「いや、先生が謝ることないだろ」

「そ、そうですよ。むしろ私たちより――」


 メニシアの視線の先には、エルドラル。

 そして、エルドラルの娘サラーナ――つまりエルドラルの孫でもあるモネとネロが映る。


「そう言っていただけるのはありがたいです。ですが、私たち魔術学校関係者がもっと早くに彼の素顔を見ぬけていたら――」

「はいはいストップ」


 途中でサクラが間に入る。


「このまま自分たちのことを下げたら切りがないよ。二人が言う通り、先生もモネもネロも悪くない。だからこの話はお終い。この後のことの方が大事だし、話し合わないと」


 過去のことを振り返るのは今ではない。

 大事なのは今回の事件の後始末――そう、未来についてだ――。




 イリナ魔術学校の教員兼研究者という表の顔を持ち、謎の組織「冥府の誘い」七司教が一人という裏の顔を持つグランが引き起こした「パンデモニウム計画」の顛末が都市全体に知れ渡り、大きな衝撃をもたらした。

 グランの表の側面というのは、相当人格者であり、それは都市全体でも有名であったとのこと。

 いじられ、愛されるキャラクターとして知られていた故の衝撃。

 中にはいまだに信じられないという声も多い。

 時報やゴシップ記事などでもその真相を確かめようとする動きがあり、魔術学校の陰謀、グランをおとしめようとしているのではないか、他にも明らかな作られた偽りの真相真実を書くところもある。

 そういった記事、ニュースが多く流れる中、グランの件は本当なのだろうと思っている人もいる。

 理由の一つとして、人が悪魔化したというのを学校の敷地外からこの目で見たという人がいるからだ。

 他にも遠目からでもわかる学校内の激しい戦闘音、嫌でも見える魔法や攻撃――決定打と言えるのは悪魔因子だろう。

 グラン曰く、魔術都市ほぼ全員に悪魔因子をばら撒いた。

 幸いなことに悪魔化した範囲は学校内であって、外部の人は無事だったようだ。

 ただ、悪魔化のタイミングに吐き気を催すなどの体調不良を訴える声が少なからず存在していたらしい。

 さらに、グランが全ての悪魔因子を吸収した際、その悪魔因子が抜かれる際の感覚が今までに味わったことのない感覚であり、それを年に住まう全員がそれを感じた。

 それらもあって今回の事件は信ぴょう性を増してきており、時間、日が経つにつれて魔術学校に関する嘘などのゴシップ内容の記事が少なくなっていた。

 加えるなら、魔術学校サイドの真摯で誠実な対応も影響しているだろう。

 事件直後、エルドラルは動ける教員を招集して緊急会議を開き、そこで今後の対応について話し合った。

 ここでの共通認識は、学校内外の人々のケアだ。

 学校外の人々には、事件説明や不信感の解消など様々。

 学校内の人々、特に悪魔化した人々の心のケア、これが一番重要である。

 今回のような事件のケースは初めて――それどころか歴史上において初めての出来事でもある。

 手探り状態にはなるが、準備が完了したのと同時に保健教員のもと、被害者を中心にケアなどに取り組み始めた。

 それが、二日前のこと――。


「これだいじょうぶかな~?」

「……(コクコク)」

「一応何度も調べたけど悪魔因子の反応はなかったよ――」


 サクラと双子がいるのはグランの研究室。

 死の直前、グランが口にした「双子の魔力の質を戻す薬」――。

 その薬は、服用することでモネとネロの弄られた魔力の質や遺伝子を戻すというもの。

 ただ、グランとの戦いの序盤で本人が言っていたが、サラーナの特別な魔力や血を受け継ぐモネとネロの魔力の質は弄ったり改変してもそれが定着することはなかった。

 それだけサラーナの魔力や血が特別であり、強く双子に受け継がれていた。


「零区で初めて会った時と今の二人の魔力の質は正直物凄く驚くレベルで変わってる。多分悪魔化した時か悪魔化が解けた時のどっちかがきっかけとなって急激に変化――いや、戻ろうとしている。実際にこの薬の魔力と二人の魔力はほとんど一緒って言っていいくらい酷似している。酷似って言ってもそもそも本来の二人の魔力から作られた薬だから同じはずか」

「へー」

「……そうなの?」

「うん。そういえばその髪の色も地毛なの?」


 モネとネロの髪の色は美しき白銀。

 だが、グランの魔力の質や遺伝子の操作によってそれ以外にも変わってしまっている可能性も考えた。


「ううん、小さい頃からこの色だよ」

「エルドラルのおじいちゃんも言ってた」


 事件後、二人とエルドラルが話すタイミングがあったようで――。





「本当に何故、初めて会ったタイミングで気付かなかったのでしょうかね。ここまで髪の色が同じなのに」

「そんなに似てるんだ」

「はい。グラン先生の行いがあるとはいえ――」

「泣かないで、おじいちゃん」


 若干涙ぐむエルドラルをネロが慰める。


「ありがとうございますネロさん」

「ううん……あと、呼び捨てで良いよ」

「そうだよ。だって、私たちのおじいちゃんなんだもん!」


 その言葉、その笑顔を見て、我慢の壁が崩れた。

 エルドラルは二人を抱きしめる――。


「え、おじいちゃん?」

「……ん?」

「……っ、ありがとう、本当に……ありがとう……ごめんなさい」


 二人の肩が湿る。

 サラーナの死。そして、娘の忘れ形見との予想外の再開に大きく涙を流す。


「はは、おじいちゃんは泣き虫だ」

「……うん。でも、僕たちも――」

「「ありがとう」」





「――そっか……良い人だね(・・・・・)

「? ……うん!」


 何か含みあるような言い方に少し気にはなったが、それ以上に気にすることはなかった。


「じゃあ、これを飲むか飲まないかだけど」

「サクちゃんはどっちがいい?」

「そうだね……」


 薬を飲んでも飲まなくてもそこまでかわらないだろうというのがサクラの見解だ。

 モネとネロの流れる血や魔力が強く影響して、変化が急速に元に戻ろうとしている。

 実際に二人の魔力は出会った時より大きく変化しており、薬に含まれている魔力に近しい状態まで戻っている。

 もし薬を服用したら、誤差の範囲かもしれないがより早く元に戻るかもしれない。

 ただ、元に戻る速度から意味がない可能性もある。

 逆にグランの話を疑うのなら最悪の可能性だってある。


「ネロはどうする?」

「僕は……飲まないかな。飲んでも飲まなくても変わらないなら」

「だよね、それに飲んでまた苦しいのは嫌だもん」

「じゃあ廃棄でいっか」

「「うん」」


 薬は服用しないで話はまとまった。

 用が無くなった薬を、悪用されないように塵一つ残さずサクラが魔法で焼却した。


「あくまで僕の見解だけど、二人の魔力の質が完全に戻るのは早くて数日後だと思うよ」

「だったら楽しみかも」

「本当の自分に戻れるんだ」


 思いのほか明るい感じで振る舞い、そこに影を一切感じない。

 本心なのだろう――ホッと安心したサクラであった。

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