第3話 雷魔潜む魔術都市㉓
「モネと、ネロが……」
「悪魔化のトリガー、だと――!?」
「……ち、ちがう……私たち、そんな……」
「――(フルフル)」
メニシアとビリンはそれぞれ驚愕を隠せない。
モネとネロ、それぞれが否定をする。
仮にグランの言葉が真実だとして、モネとネロが悪魔化のトリガーと言えるような行動を取っておらず、サクラたちはそれを見ていない。
「わかるはずないでしょうね……だって、いるだけで良いんですから」
「だとしたら確かにわからないか――」
「では何故、あの子たちなのか、という話になりますが――まさか、サラーナの……」
「ええ、サラーナ先生の魔力に血はちょっと特別でしてね~……と言っても、あくまで私の実験に置いての話であって、一般的には至って普通なんですけどね」
グランの実験においてたまたまサラーナという存在の持つ魔力と流れる血が、相性が良過ぎた。だから狙われた。しかし――。
「でも別に最初から殺すつもりは無かったんですよ~。ちょっと分けてほしいと頼んだら、勘がとても鋭いのか、一切協力に応じない――最終的には私の計画すら見抜いてしまった――」
「――だから殺したのですか」
「その通りです」
人一人殺しているにもかかわらず、その表情には笑みがこぼれている。
……狂人そのもの――いや、もう人とも呼べないし、実際に人の姿を失っている。
「殺したうえで、魔力と血液を頂きました。ついでに死亡時の隠ぺいも――それは楽でしたが」
グランとは対称的にエルドラルの表情は、冷静さを保ってはいるものの、その瞳には怒りと復讐が入り混じっていた。
「ですが、私はラッキーでした。何故なら、サラーナ先生が直前に出産した子どもたち――モネとネロが宿す魔力がサラーナ先生と同等――いや、それ以上に極上だったから!……だから私は双子を連れ去りました、不慮の事故という形にさらに隠ぺいしてね――っと、短気は良くないですよ、サクラさん」
言い終える直前にサクラがグランに斬りかかった。
寸ででグランは受け止めた
「人に関心のないさすがの僕もそれは不愉快だよ――特に大事な人の死はねっ!」
鍔迫り合いの状態からサクラは腹部に重い蹴りを与え、グランはそのまま受ける。
そのまま後方に飛ばされるが、すぐに体勢を立て直す。
「そうでしたそうでした――あなたも同じ立場ですものね――」
「――聖剣開放」
刀を鞘に納め、聖剣を中段に構え、その力を解放する――。
「あいつ、解放したのか?」
「ビリンさんは、サクラさんの持つあの大剣について何かご存じで?」
「いや、メニシアの方がよっぽど詳しいだろうけど――」
「私もそこまでは……三回しかサクラさんが使用しているところを見たことがないですし」
ふと、メニシアは違和感を覚えた。
(あれ……三回? 私が見たのはエリアスの森とビリンさんとの戦いと……あとは、何でしたっけ)
だが、今は戦闘中。そのことに気を取られるわけにはいかない。
「私がわかるのは、あの大剣が勇者が使用していたとされる聖剣であることと、その聖剣で魔王を討ち取ったというくらいです」
「聖剣!?」
エルドラルが驚くのも無理はないだろう。
先の戦いについてある程度認知しているエルドラルは、もちろん聖剣については存在は知っていた。
だからこそ、聖剣の今の持ち主がサクラということにとても驚いている。
何故なら、聖剣を使いこなせた存在は、エルドラルが見てきた中では勇者ただ一人。
同時に聖剣は伝説において使用者を選ぶ――実際にそうであった。
それらについて認識しているからこその驚きだ。
「私との戦闘以外では聖剣を使っているところを見たことがなかったが、妙な違和感があったから能力か何か隠しているのかと思ったんだが――」
「ビリンさんの認識は正しいです。彼女が扱う聖剣の本質は魔を斬ること――魔を冠するものに対して無慈悲なほどに高い攻撃力を発揮するという単純なものですが――」
エルドラルが確実なことが言えないのは、先の聖剣の特殊性もあって詳細なことは他の人達同様にわからないのだ。
「まあ、とにかく私はサクラの援護をする。エルドラルは――」
「私も加勢します」
「メニシアは――双子のそばにいてやってくれ」
「わかりました」
グランの発言をきっかけに、モネとネロは小刻みに体を震わせている。
二人が悪い訳ではないのはこの場にいる誰もがわかっている。
ビリンとエルドラルが加勢に向かい、その場に残された三人とクオン。
「クーちゃん……」
「……シア~」
今にも泣きだしそうな二人だが、涙を流すまいと堪えている。
「二人は悪くありません。悪いのはあの男です。自分の責めないでください」
二人を抱き寄せ、優しい声色で伝える。
そこで決壊し、涙が溢れ出た――今まで触れてこなかった優しさがその勢いを増加させたのだ。
「……ッ!」
突如、苦しみだしたモネがメニシアから少し離れた。
「モネ? ……ッ、いたい――ッ」
少し遅れてネロも同様な事が起きた。
「モネ……ネロ……?」
突然のことに戸惑いを見せるメニシアだが、考える余裕もなくそれは起きてしまった
「「――うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
二人が悲鳴のような叫びを出したのと同時に禍々しい光が二人を飲み込んだ。
「シャァァァッ!」
「――これは、一体」
大きな混乱がメニシアの思考回路を停止させる
それだけに止まらず、それらを上回るほどの衝撃がメニシアに襲い掛かった――。
「――うそ」
二人を飲み込んだ光が宙に浮き、そのまま融合し、一つの存在へと成った。
「――なるほど、厄介極まりないッ」
聖剣による斬撃を避け続けているものの、反撃になかなか転じることが出来ないでいる。
その理由は、斬撃を受けた右手を見れば一目瞭然、すでに使い物にならないのだ。
一撃を受けてわかった――あれはまともに受けてはだめだ。
たったの一撃だけで死を意識した。
ほんの少し掠っただけなのにだ。
グランの持つ聖剣の認識は、エルドラルと同様か少し上程度。
通常時でも魔に対する威力は高い。
それを解放した際に関しては流石に知らなかったのだが、一撃を受けたことでそれは通常時と比較できないほどに威力を増していた。
単純な威力上昇だったら良いのだが、それ以外に何かあるのではないかという研究者魂が警戒している。
でなければ魔王が倒される理由が見つからない――。
「ちょこまかと――」
刀と違い、重量のある聖剣によりある程度動きが制限されているこの状況。
唯一の隙であり、トラップを仕掛け、誘い込むには十分だった。
「本当に単純な人だ、あなたは!」
ある地点を通過した瞬間、大きくサクラから離れ、左手を天にかざす。
サクラがその地点に立ち入るか否かの刹那、その上空に魔法陣が出現。
さらに真下に前後左右と、サクラを囲むように魔法陣が出現する。
「――ふッ」
かざした手を振り下ろすのと同時に魔法陣から雷がサクラを目掛けて放たれる。
同時に魔法陣のさらに後方から、謎の衝撃がサクラを襲い、雷がサクラを襲う直前に魔法陣の外へと突き飛ばす。
「――ッ」
飛ばされたサクラはそのまま芝の上に、受け身を取れずに転がり落ちる。
「サクラ!」
「……痛い、けどありがとう」
「さすがにあの攻撃はただじゃすまないだろ」
「それも四方八方とね」
「――遠隔シールド展開」
大楯エイジスを模した光の楯が出現し、各々に付加する。
「私も攻勢に参加する、エルドラルは後方で待機をしつつ要所で支援、メニシアは――」
「わかってる、攻撃は僕中心で問題ない?」
「ああ!」
二人は同時に地を蹴り攻撃に出る。
サクラが先行し一撃を与え、ビリンはサクラの攻勢を楯で援護しつつ、要所のところを槍で攻める。
二人の攻撃を防ぎつつ反撃の機会を窺うが、先程以上に防戦一方の状態だ。
だが、手が無いと言う訳ではない。
「――バ~ン」
指鉄砲の構えを取ったグラン、発声と共に人差し指の先端に魔力が集束、瞬時に発射される。
攻撃自体は、遠隔シールドによって防がれたのだが――。
「――ひび」
「一点集中による貫通力の増加か」
「ご明察、ですが堅いですね~」
今の攻撃はグランの使用できる技の中で最も殺傷能力が高く、本来だったら貫通していてもおかしくはなかった。
「僕がエンチャントを掛けてなかったらヤバかったかな」
「そうだな、ある程度に威力は落ちていたはずだ」
手を緩めているわけではない。攻め手も一人増えているのにもかかわらず、先程より守りの動きが良く、さらに隙が無くなってしまった。
再び両者の間合いが広がり、睨み合いが始まる。
「……悪魔化しただけはあるね」
「サクラは前にメニシアと一緒にやり合ってるんだよな」
「あの時は元々の身体の所有者から乗っ取ったばかりっていうのと短剣の効果が残っていたというのが重なったから何とかなったってだけだよ。せめて一撃さえ入れば――」
現に先程サクラの攻撃をかすめた右手が未だに回復していない。
聖剣にしろ短剣にしろ悪魔にとっては毒にしかならない。
それはグランが一番よく知っている――。
(あの少年の短剣だけだったら何とでもなりますが、まさか聖剣まであるとは……事前に知っていれば悪魔になどならなかった……なんて言いたいところですが)
左手を顔の高さに上げ、指を鳴らす。
「……何したんだ、あいつ」
「魔力に何か変化があった訳でもない。でも、嫌な予感がする」
現状、何も変化は起きていないが、気を緩めて良いという理由にはならない。
むしろより警戒心を強めた。
「あなた方の聖剣に本体の楯、そして短剣は非常に厄介です。……ですが」
またしても不敵な笑みを浮かべるグラン。
すると、サクラたちの後方から物凄い勢いで何かが通り過ぎて行った。
「な――」
反応するのが遅すぎた。
振り返ろうとした瞬間、鎖がサクラを絡め、そのまま後方に勢いのまま引っ張られる。
「サクラ――」
「――ッ」
引っ張られたサクラは、鎖の主の目の前で寸止めされた――横腹を貫かれる形で……。




