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復讐に染まった少女は輪廻の旅の果てに……  作者: ただの小林
3周目 第3話 雷魔潜む魔術都市
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第3話 雷魔潜む魔術都市㉒

 飛行魔法を使い、ある程度のショートカットをしたサクラは、先程の雷を警戒してすぐに着陸し、自身にエンチャントをかけ速度を増したその足で現場へ即座に駆ける。

 一分もかからずに雷が落ちたであろう学校の中心地である噴水広場に到着した。

 そこには、薄汚れた黒いローブを身につけ、さらにフードで頭を隠している人物が立っている。

 本来ならこの場には目立ちすぎる相応しくないその着衣だが、現在の異様な空気が違和感を消している。

 場同様にその人が放つ魔力の異様さに警戒したサクラは刀を構え、最大級の集中力を持って神経を研ぎ澄ます。

 そして、サクラにはその人の魔力に既視感を覚えていた――。


「やっぱり――グランとか言ったっけ? あなた」

「正解です――さすが魔女ですね」


 振り返るグランの顔には、先ほど見た親しみを覚える笑みとは真逆の狂気じみた笑み――それ以上の衝撃は、男子学生同様に悪魔化しているということ――それも、半身ではなく顔全体。

 全体的にローブでほぼ肌は隠れているが、手など見える肌すべて人肌の色ではなく、血の気が引いた真っ青とした色――今まで見た個体ほどではないにしろ、それは紛れもなく悪魔そのものと言っていいだろう。


「一応聞くけど、元々悪魔、ではないよね」

「人間ですよ、生粋の――」


 右の人差し指をサクラに向け、その直前に小さな魔法陣が出現――。


「良いですね~、悪魔の身体……魔術しか使えない身体がゴミ以下のようだ!」


 一本から枝分かれした雷撃がサクラを襲う。

 サクラは後方に軽く跳躍――「――氷弾」と魔法で生成された氷の弾丸を放つ。

 グランは一歩も動くことなく、襲い来る氷弾に臆することなく雷の障壁を展開し、氷弾は砕け散る。

 刹那、すでにグランの懐に潜り込んでおり刀を振り上げる――それを予測していたグランは、自身に仕込んでいた雷の罠を起動、サクラに雷撃が直撃した。


「――ッ!」


 だが、刀を地面に突き刺し雷撃をそのまま逃がし、大きなダメージとなることはなかった。

 その行動をとった反動を利用し、刀を重心にグランの横腹部に回し蹴りを与える。

 まさかの二撃目に対処が出来なかったグランには重い一撃で、そのまま噴水に蹴り飛ばされる。

 大きく上がった水しぶきがその威力を物語っている。

 サクラは、魔法や剣術のみならず、それらが使えない時の対処法として体術も仕込まれていた。


「いやはや、体術も使えるのですね……想定しておくべきでしたか」


 噴水から出てきたグランは、水を多く吸い込んだローブを脱ぎ捨てた。


「……」

「おや、驚いて声も出ませんか」


 上半身開けたその身体は疑いようがない悪魔そのもの。

 右手には小袋を所持しており、そこに手を突っ込み小さい何か――先程サクラに渡したクッキーを取り出し、それを口に勢いよく含む。

 瞬間、禍々しい翼が大きく開かれた。


「……完全に堕ちたか」

「堕ちた……すばらしく格好良い言葉ですが、少し相応しくありません――進化と言っていただきたい!」


 彼の背後一面に複数の魔法陣が出現し、そこから無数の雷撃がサクラに襲い掛かる。

 サクラは一つ一つの雷撃を的確に躱し、躱しきれないのは刀で弾く。


「――ッ、めんどい」


 止まない雷撃――その時――。


「これは――エイジスの」


 ビリンの大楯エイジスの遠隔シールドがサクラの前方に構え、雷撃を防ぐ。

 さらにその上を複数の短剣が通過し、出現している魔法陣を消滅させる。


「サクラさーん!」

「――みんな」

「悪い、待たせた」

「大丈夫。むしろ助かったよ、あの攻撃を対処するか考えてたところだから」

「あれは――グラン先生ですか!?」


 エルドラルの視界の先には男子学生とは違い全身悪魔と化したグランが映った。


「やっぱりあのクッキー、対象を悪魔にするようだよ。今までの魔力と合致してる」

「じゃあ黒幕はやっぱり……」

「……グラン先生、どうして」

「どうして……ですか……おかしなことを言いますね~教頭先生」


 その笑みはさらに狂気を孕み、君が悪い。


「どうしても何も、私の専門分野は実験――今も昔も変わっていないですよ。それに私がここに来たのもすべてはこの為ですよ……最初から何も……何も変わっていないですよ、キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――」


 高らかで狂気じみた汚い笑い声が、学校全体を包むように広がる。


「――ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ……それに、この十四年、実験の過程で面白い副産物を多く見つけまして……ねぇ」


 その瞳が指すのはエルドラルの後ろに控えるモネとネロだった。


「教頭先生……懐かしい話をしましょうか」

「懐かしい話――?」

「ええ、この学校の教師にして唯一の魔女、「月の魔女」の異名を持ち、そしてあなたの娘さんでもあるサラーナ先生について」

「――なに?」


 エルドラルの表情には戸惑いと怒りが入り混じっていた。

 サクラたちが見たのは初めて――いや、下手をしたらこの学校でこのような表情をするエルドラルを見た者はいないかもしれない。


「サラーナ先生がなぜ亡くなったかお分かりですよねぇ」

「……難産により最終的には亡くなったと聞いておりますが――まさ、か……」

「はい、あれを殺したのは私(・・・・・・・・)です」


 刹那――氷河ともいえる程の巨大な氷がグランの背後を突如貫く。


「――え」

「一体何が――」

「――ここまで速い魔術操作(・・・・)、初めて見たかも」


 氷の正体は、エルドラルが発動した魔術だった。

 エルドラルはいつの間にか、娘である魔女――サラーナの形見の魔法杖を装備しており、その魔法杖を媒介にし二つの巨大な氷の魔術を放つ。

 発射される速度は凄まじく、気づかぬ前にグランの背後を取り、その瞬間に二つの氷がぶつかり跳ね返った氷の一つがグランの背後を襲ったという形だ。

 ここまで計算された攻撃は、高い熟練度だけではなく、自身のポテンシャルにも左右される――零区で共闘したサクラもその実力を買っていたが、あの時はまだ本気ではなかったと痛感させられる。


「ふう……痛いですねぇ」


 身体と裏腹に、その声色は至って普通――むしろ先程よりも声に覇気を感じる。

 すると、氷は瞬時に溶けていき、同時に開いた風穴も塞がっていく。


「やはりこの程度は聞きませんか」

「言ったじゃないですか、話しましょうよって」

「あなたと話す理由はありません――」

「知りたくないんですか~、殺した理由を――」

「……」


 実際、グランがサラーナを殺害した理由を知りたくないと言われたら嘘になる。

 だが、いまだ頭の整理が落ち着いていないというのが理由だ――。


「正直、殺す理由はなかったのですが、彼女がいてはその二人(・・・・)を回収できなかったので……仕方がなかったのですよ~」

「一体、この子たちに何があるというのですか――!? まさか……」

「はい、そのまさかです。あの子らはサラーナ先生の正真正銘のお子さんであり、あなたの正真正銘のお孫さんになりますよ」

「……まじか」


 ここに来て衝撃の事実。

 ビリンだけではなく、当事者であるエルドラルが一番驚いている。

 血縁関係があるからと言って顔が似ていると言う訳ではないが、それでも似つかない。

 それに、血縁関係にあるものは多少なりとも似ている魔力の質というのも全く似ていない。


「似ていないと思っているでしょう――正解です。なぜなら、私が弄くり倒しましたからね~」

「……外道ですね」

「……」


 サクラはモネとネロの顔を見る。

 見られるといなや、二人はサクラに笑いかける。

 その表情は、この状況下においても幸せを感じてしまう。

 だからこそ――。


「本来だったら魔力の質を変化させるのは神に挑むのと同等――それくらい不可能に近い行い。それを無理やりというのは――」

「相当な痛みを伴うでしょうね、現にあの子らはまあ――最高の表情でしたねぇ」


 典型的なサディスト――いや、それを超えるかもしれないほど、吐き気がする。


「それでも彼女の血は濃い――見込んだ通り。完全に変化させることは不可能に終わりました。現に元の魔力に戻ろうとしておりますからね――なぜかその速度が上がっている(・・・・・・・・・)のが気になりますがね――」


 含みがある言い方が気になるが、それらを無視するようにグランは話を続ける。


「次なるあなた方の疑問……どれも同じですからまとめてお答えいたしますか。まず、停電の正体は零区の主と化していた魔獣ライアントに対する実験の副作用的なものです」

「……クッキーか」

「ご明察――魔獣ライアントに魔力を投与することによって雷属性の魔力を得とくしました」


 エルドラルが過去に対戦した個体の特徴から、今の話に納得がいった。

 点と点が繋がっていき、同時にある一つの疑問が生まれる。

 しかし、それを口にする前にグランがその疑問を即座に解消する。


「サクラさん、今、こう考えましたよね……ライアントに起こった進化による強化も一連の流れの中なのか――そうです、こちらも同様――むしろ本命です」

「なるほど、進化ではなくあの子やあなたと同じ悪魔化した姿と言う訳か」


 言われると納得がいった。

 特にエルドラルは前回の個体との戦闘を経験しているからこそより納得がいく。

 だが、ここで一つの疑問がさらに生まれる。


「私はビリンさんといたのでわかりませんが、その魔獣は完全に悪魔化した(・・・・・・・・)ということで良いんですよね?」

「うん、僕が見た感じはそうだけど――エルドラルは?」

「同様です」


 疑問に関する欠けたピースが埋まり、確信に至ったその疑問をメニシアはグランにぶつける――。


「今の話から零区の魔獣が完全に悪魔化したのなら、なぜあの学生は完全な悪魔化に至らなかったのでしょうか――」 


 悪魔化に至ったという共通点はあるものの、それが完全なものか、不完全なものかという違いがあった。

 至るまでの過程に問題があるのか、種族によって異なるのか、その結果に対しての要因は色々と考えられるのかもしれない――しかし、グランの口から思いもよらない答えが返って来た――。


「いやはや、そこなんですよね~。……何故、彼の悪魔化は半身止まり(・・・・・)だったのか――」

「その口振りですと、想定外のように聞こえますよ、グラン先生」

「その通りですよ教頭先生――さらに言うならあの場にいた全員(・・)が悪魔化しなかったことも不思議でならなかったんですよね~」


 さらっと衝撃的な事実が明かされた――。


「なっ――」

「全員が悪魔化? そもそもグラン先生のクッキーを頂いておりませんが」

「別にクッキーのみが悪魔化に至る手段という訳ではありません。クッキーに特別な細工をして彼に触れた者、そしてその者に触れた者――と、連鎖的に悪魔化していくようにしました――ですが、それは何故か茨という形でその過程が停滞しましたがね」

「茨――あの蔓状の魔力のことか」


 少なくともビリン、メニシア、エルドラル、サクラの四人があの場においてグランの言うところの茨に魔力・生命力を吸収されていた。

 それが悪魔化に至る過程なのだろう――そう仕向けたグラン本人も驚いているようだが。


「まあそこは良いですよ、実験にはトラブルが付きものですからね……では、皆さまには良いことをお教えいたしましょう――あのクッキーを食べるだけで悪魔化に至れるのか、答えはノーです。あくまで種を植え付けているにすぎません……水やらを与えないと発芽しないのと同様にあるトリガーの元、悪魔化へと至れるのです」

「……トリガー、ですか」

「そいつは、一体……」


 グランはこちらに指を向ける。

 それが指さすものは……。


「あなた方ですよ、モネ、ネロ!」

「「……え?」」

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