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復讐に染まった少女は輪廻の旅の果てに……  作者: ただの小林
3周目 第3話 雷魔潜む魔術都市
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第3話 雷魔潜む魔術都市⑭

 宿を出て、寄り道することなくイリナ魔術学校に向かうサクラたち一行。

 宿からは直行の乗り物があるのだが、人数や乗り物自体に耐性を持たないものが二人ほどいるので、全回三人で行ったとき同様徒歩になった。

 ただ、誰一人それを苦にしているものはいなかった。

 昨日までボロボロの状態だったモネとネロも心配をする必要がないくらいに元気で(ぱっと見大人しい)、逆に心配になってくる。

 それでも、昨日と比べるむしろ安心なのかもしれない。

 双子の表情はというと、次々と眼に映る町の光景がすべてはじめましてのような、そのような感じだ。


「……」


 その表情を見てサクラはどこか思うところがあるのだろう……。


「楽しそうですね、二人とも」

「うん」

「でもそれだけじゃないんだろ」

「うん、あの子たちを見てて思ったんだ、ずっと零区にいたのかなって」

「やっぱ考えることは一緒か」


 モネとネロと出会い、共に過ごした時間は、一夜明けたとはいえまだ十数時間。

 二人はある程度気が楽になってきているとはいえ、肝心なところはまだ切り出せていない。

 あの双子はいったいいつからあの場所にいたのか。

 なぜあの場所にいたのか。

 エルドラルは、長年零区に出入りしたという形跡も反応もなかったという。

 謎しかない双子――だが、今の二人の様子を見ていると、本当に幸せそうで、色々と難しいことを考えていることが馬鹿らしく思え、忘れてしまう。


「おーい、あまり離れんなよなー」

「お母さんだね」

「誰が母親だ、だったらメニシアの方がよっぽど母親だろ」

「私……一応男なのですが」

「確かにメニシアの方がお母さんだね……ね、お母さん」

「もう~、サクラさんまで」


 本格的に「お母さん属性」が追加されそうで、ほんの少しため息が漏れるメニシア。

 だが、どこか嬉しそうな表情もしていた。

 そんな感じで思いのほか和気あいあいとした雰囲気で、まるで遠足のような感じで魔術学校まで歩いて行った。




 時を同じくして、魔術学校内にある食堂における一時……。

「それでね……あ、グランせんせーい!」


 二人ずつの男女のグループのうちの女子学生が一人の男性を呼ぶ。


「おやおや、仲良く食事ですか?」


 グラン先生と呼ばれたその男は、呼んだ女子学生のグループがいる所に行く。

 見た目は髪がボサボサ……というよりはアフロに近い。厚い瓶底メガネで遠くからでもわかるくらい濃い目の下のくま。

 眠そうを通り越して健康状態の酷さを疑いたくなるレベル。


「先生はまた夜更かしか? これじゃ学生に示しがつかないぜ(笑)」

「そうだそうだ~」

「ハハハ、申し訳ないですね~。なにぶん昨日は本当に忙しかったので」

「いつものことじゃないですか」


 学生からは、グランという人物は常に忙しそうにしており、夜更かしの常習犯とのことらしい。

 だが、信頼されていないと言う訳ではない。

 非常に人気で、それは人柄だけではなく彼が担当する授業にも言えることだ。

 彼の授業はとても人気で、多くの学生が受けたがるので抽選になってしまうことも度々あるそうだ。

 そして、サクラたちのような外部の人間が体験授業という形で参加できる授業の一つでもある。

 一応そういう人たちのための枠というものがあるので魔術学校の学生で埋まるということはないらしい。

 そして、グランを呼び止めた四人の学生グループも彼の授業を受けている。


「あ~、ちょうどよかったです」


 ふと、そんなことを言い出して、、グランは自身が着用している白衣のポケットに手を入れる。

 そして紙に包まれた小さい何かを取り出した。


「なんすか、それ」

「これは先日私の客人から貰ったクッキーなのですが、すぐに食べることが出来なくてですね、誰かもらってくれないかと思いまして――」

「じゃあ俺が貰っていい?」

「あ、ずるい……って言いたいところだけど私は甘いもの苦手だからパス」

「私も同じく」

「僕はもうお腹いっぱいなので」


 名乗り出た男子学生以外の三人は各々の理由で辞退した。


「それではどうぞ」

「ありがとな、先生」

「いえいえ、そのクッキーをくれた私の客人は常に来た時に持って来てくれるので一応いつでも言ってくれればあげることは出来ますよ」

「その人は頻繁に来るんですね」

「ええ、私の研究の手伝いとかをして貰っているのでね……おっとそろそろ行かないとですね。それではみなさん、ごきげんよう」

「またなー」


 グランは、学生に手を振りその場を後にする。

 残った学生は、グランが来る前同様に会話を再開――また違う賑わいが始まった。




 食堂を出て、自身の研究室に向かう道中のこと。


「……ふう、やっと消化することが出来ましたよ。私も甘いものがそこまで得意と言う訳ではないので助かりましたね」


 どこか重要なノルマを達成したという安堵するような表情になる。

 そして――。


「まあ、私自身が作ったもの(・・・・・・・・・)、なんですけどね」


 その表情に、先程学生に見せた笑顔とは真逆の狂気じみた小さな笑みを浮かべていた。




「ねえねえ、サクラ」

「なに?」


 途中モネに話しかけられた。

 横には常にネロがくっついており、そのネロはクオンを抱えている。

 ここまでクオンが無抵抗なのも珍しい。余程心地が良いのだろう。


「なんであれに乗らないの?」

「……ああ」


 モネが指したものは、町を走るバス。

 一行は何度もバスとすれ違い、モネとネロは興味津々という感じですれ違うバスを見ていた。


「あれはバス。移動に便利」

「……なんで、乗らないの?」


 そう喋ったのはネロ。

 弱々しい声色だが、決して聞こえないと言う訳ではない。


「メニシアが体調を崩しちゃうからだよ」

「シアちゃんが?」

「うん……シアちゃん?」


 シアちゃんとはメニシアのことだろう。

 二人はだいぶこのメンバーに慣れてきたのだろうか。

 出かける前も、メニシアとビリンにそこまではっきりとした会話と言う訳ではなかったが、仲良さげに会話をしていた。

 サクラの話から、モネはメニシアの元に行く。

 メニシアは、サクラの少し後ろでビリンと世間話をしており、近づくモネに気付く。


「シアちゃんはバスに乗れないの?」

「へ?……ああ、そういうことですか」


 一瞬何のことかと思ったが、サクラの顔を見てすぐに察した。


「ごめんなさいね、私はバスとか乗り物には弱くてですね、体調を崩しちゃうんですよ」

「だいじょうぶ?」

「ええ、乗らなければ何ともありません。私のせいで大変な思いをさせてしまって」

「……ううん、だいじょうぶ。楽しいから良い」

「モネの言う通り」

「ふたりとも、ありがとうございます!」


 モネとネロは再びサクラの方に行き、楽しそうに目的地に行く。


「ああしてみると本当に可愛い子たちだな」

「はい……だからこそ、あの子たちはいったいどういう人生を送ってきたのかが気になりますね」


 最大の謎はそこだ。

 双子はいったいいつからイリナ――零区にいたのか。一体何者でそしてなぜそこにいたのか。

 多くの謎を残しているが、楽しそうな雰囲気の光景を見ると、どうでもよくなってしまう。


「……ってふたりとも、危ないですよ~。サクラさんもちゃんと見ていてくださいよ」

「わかってるよ、メニシアはお母さんか」

「シアちゃんはママ?」

「……ママ?」

「ママじゃないですよ! もう~」


 和気あいあいとした雰囲気……少し前までは想像も出来なかった光景である。

 メニシアと出会い、そして旅をするようになり、ビリンも加わった。

 ある意味サクラの中の歯車が狂ったのだろう……いつ、どこで……メニシアと出会ってからなのか、あるいは……。

 そんなこんなで、時間はというとあっという間に過ぎていき、気づけば魔術学校が目と鼻の先まで来ていた。

 先日同様に正門から敷地内に入るのだが、やはり多くの人が並んでいる……と言っても外部の人間であって、学生はスムーズに入校している。

 学生証を水晶みたいなものにかざした後に先へと進んでいるようで、メニシアとビリンは持っているようだ。

 イリナ滞在期間中は多く立ち入るであろうということもあるからという理由で仮の学生証を渡された。

 ちなみにサクラは持っていない。

 何故なら……学生証を渡されたタイミングサクラが零区に行っていたタイミングだったからだ。

 ただ、今日は顔パスのようで、職員曰くあとでエルドラルが直接渡すとのこと。

 そんな感じでスムーズに学校内に入ることが出来た訳だが、肝心の双子はというと、サクラの認識阻害の魔法を使うことでスルーした。


「……ここの警備意識薄くないか」

「魔術に関しては敏感でも魔法は例外なのではないでしょうか」

「魔法の構造は魔術と違って構造が複雑だからね」

「そんなもんか」

「うん」


 体験授業といったことは特に予定していないので、当初の目的通りエルドラルのいる部屋に向かう。

 あたりまえだが、今日も授業日で多くの学生とすれ違う。

 多くの学生がいるということは一人一人の個性も違う。

 勉強しながら歩く人もいれば、友達であろう人と共に会話をしながら、逆に一人で静かにという人もいる。

 所々にベンチがあり、そこで座って勉強や読書をしている人もいれば昼寝をしている人もいる……昼寝と言うには早すぎるが……。

 エルドラルがいる教頭室というのは四階建ての本校舎の最上階にあるとのこと。

 そもそも、教頭室に限った話ではないが、最上階である四階は基本的には教師が利用する部屋が多く、学生が授業で利用するという部屋は少ない。何かしらの理由がない限りは、生徒が来ることはまずない。

 そんな連絡通路で繋がっている本校舎の隣には食堂を中心とした第二校舎がある。

 食堂は、早朝から開いており、学生や教師といった学校関係者以外にも外部の者も利用することが可能だ。

 ただし、利用できるといっても、そのピークは昼時であり、早朝は寮で寝泊まりしている学生が多い。

 授業が始まる時間までまだまだなので食堂に入る学生も多く、逆にすれ違うように食堂を出る学生はそこまで多くない。

 サクラたちが食堂の入り口を通り過ぎる間近で、四人組の男女の学生が食堂から出てきた。

 早朝であるにもかかわらずテンションが高く、会話も盛り上がっている。


「元気ですね」

「メニシアも年近いだろう」

「ビリンさんもそこまで年離れていないじゃないですか」

「そもそも僕たちって年齢的にも学生であってもおかしくないよね」


 これまでの旅の経験から忘れていたが、サクラの言う通りこのメンバーの年齢は学校に通っていても違和感のない年齢だ。

 この五人が学生として学校生活を謳歌していた世界線もあったのかもしれない。

 そんな年不相応な会話をしながら、四人組の学生とすれ違った。

 本校舎とは逆方向に行こうとしているが、彼らは本日授業がないのか、はたまた別校舎で授業があるのか……まあ、サクラたちにとっては関係のない話なのだが。


「ようやく建物に入れるのか」

「でもエルドラルさんのいるところは一番上の階ですよね」

「降りてきてくれないかな」

「言ったら本当に降りてきそうな性格だから――「ちょっ、大丈夫!!!?」


 会話を遮るような大きな声が後ろから聞こえてきた。

 振り返ると、先程学食から出てきたばかりの四人組の学生であり、そのうちの男子学生が膝をついて伏せていた。


「どうしたんだ?」

「さあ……ってメニシア?」


 気づいたらメニシアは小走りで学生の方へと行く。


「あの、大丈夫ですか?」

「え、えっと、この子が急に胸を抑えるように苦しみだして、そのまま……」


 説明している女子学生は急なことでパニックになっている。

 そしてしゃがみ込んでいる例の男子学生の顔色は血の気が引いており、青白いという表現が当てはまる。

 メニシアを追いかけるようにサクラたちも来る。

 そのまま男子学生に合わせるようにサクラもしゃがみ込み、学生の表情を見る。


「……これって」


 その表情を見たサクラは違和感を感じた。

 体調不良にしては、顔色が悪すぎる。

 死者のように真っ白であり、顔だけではなく全体的に血の気が引いている。

 これでは生者というより、死してなお活動を停止しないアンデッドと表現したほうが近い。

 それに、サクラが感じた違和感は、これではなく、男子学生の魔力だ。

 明らかに正常ではなく、とても乱雑である。

 いくら病人でもここまで乱雑で不安定になることなどまずない。

 だが、現在の彼がはまるで、エリアスの森でメニシアと共に戦った冥府の誘いの一人であるアビルが、封印されていた魔鏡取り込んで自らが悪魔化した時と同じような状況だ。

 そして、その事に気を取られた結果、すぐに反応することが出来ず、ほんの一瞬ほど次の行動が遅くなってしまった。


「メニシア!」

「へ?」


 呼ばれた瞬間、メニシアはサクラに突き飛ばされた。

 しりもちをついたのと同時に、メニシアの顔左横に何かが勢いよく通り過ぎた。

 通り過ぎた何かの飛んでいった方向を見るメニシアだが……。


「サクラ!」

「……!?」


 ビリンの声で再びサクラの方を見る。

 その顔や苦く、ジワリと汗が一滴流れてきた。

 さらに視線を下げると、わき腹あたりの袴が先程と違い、切り裂かれており、素肌が見えている。

 だが、その色は赤く、そのあたり周辺の布に染みて来ている。

 血だ。

 さきほどメニシアの横を通り過ぎたのは、サクラの負った傷を見て斬撃らしき何かだろう。

 だとしたら、その斬撃はどこから来たのか……その答えはすぐにわかった。

 例の男子学生だ。

 顔を下にしてしゃがみ込んでいるのだが、指が上がっており、それを指す方向は、斬撃が飛んでいった方向。

 つまり、彼が放った一撃ということになるのだが、その理由はまたもすぐにわかった。

 男子学生が着いている地面に彼の肩幅程度の魔法陣らしきものが現れ、瞬時に禍々しい光の柱が彼を飲み込む。

 急な出来事で、彼と共にいた学生たちは混乱を通り越して呆然としており、周りにいた人たちも何事かと野次馬に近い状態と化している。


「サクラさん、これって……」

「……そうだね」


 すぐに魔法を使って傷を治したので大事に至らず、身体も特に支障をきたすこともなく、その場に立ち上がる。


「知ってるのか」

「うん、間違いない……悪魔化だよ」


 そう時間をかけずに光の柱はすぐに空中に拡散し、光包まれていた男子学生の姿が現れた。

 その姿は、まだあどけなさが残る男の子ではなく、片翼が現れ、右半身とても人間とは思えないほど刺々しく、禍々しい……それはまるで悪魔そのものだ。

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