第3話 雷魔潜む魔術都市⑬
メニシアが目を覚ました時間帯はまだ日が昇り始めたようなタイミングだった。
体を起こし隣のベッドの方を見る。
いつもだったらサクラが寝ているのだが、今日は違う。
サクラだけではなく、昨日サクラと出会った双子の少年と少女、モネとネロがサクラを挟む形で三人は寝ていた。
モネとネロは徐々に強張った表情もほぐれていったが、それでもまだ心を開ききっていないと感じた。
もちろん、最初からというのも無理な話だ。
いまはマシだとは言え、メニシアと初めて会った時のサクラも似たようなものだった。
それこそ徐々に徐々に仲良くしていきたい。
思いを胸にメニシアは最近日課にしている走り込みに出る。
メニシアが走り込みから帰ってきた時にはみんなすでに起きていた。
「おかえりメニシア、お疲れさん」
「ただいま帰りました、食事に行くのですか?」
「そのつもりだが、メニシアが帰ってきたらいつでも行けるように準備してたんだ」
「それはそれは、ありがとうございます……その前に汗を流してきてもいいですか?」
「かまわないさ、準備と言ってもサクラたちはまだ寝ぼけているようだしな」
そこでサクラたちをよく見ると、確かに眠そうな表情をしている。
汗を流しに行くのも丁度良い。
浴室に行き、汗を流し、しばらくしたらメニシアが戻って来た。
「おまたせしました……って、あれ?」
浴室から出てきたメニシアの目の前には、食事が用意されていた。
部屋自体は結構広く、ここで食事をすること自体可能ではあるが、サクラとの旅で部屋で食事をしたことがなかったので割と驚いている。
「どうしたんですか」
「最初は食堂で食べよっかって思ってたんだけどね、そしたらイリナのギルド総長がやって来てね」
ギルド総長は、四つの支部があるイリナのギルドを治める者。
そして、イリナのギルドのみならず、各地のギルドのトップであるギルド総本部の最高幹部の一人でもある。
なぜ総長が来たのかというと……。
「僕とエルドラル以外にモネとネロのことを知ってるのは、ここにいるメンバー以外だと総長だけなんだよ」
零区の調査の後、こちらに戻る前にエルドラルと共にギルド総長のもとを訪ねた。
モネとネロの存在が重要であると判断したから。
加えて、二人がメニシアとビリン以外で一番信頼できるのがこのギルド総長であるからだ。
ちなみに、なぜ二人のなのかというと、エルドラルとは言わずもがな。
サクラに関しては数年前、師匠の下にまだいた頃に初めて会い、そして手も足も出ずボコボコにされた。
師匠の下、さらに旅に出た後も何度も会い、そして挑み、ほぼ一方的な展開となり、未だに勝てていない。
サクラがモネとネロの件で信頼できると判断したのは、何度も挑んだことにより、その強さは本物であるのを知っているから。
ちなみに、零区の調査の際に関わった支部長には言っていない。
報告した際も、魔法でモネとネロの存在を隠ぺいした。
理由は単純に、嫌な予感がしたからだ。
「……その総長の判断で、部屋で食べることにしたんだよ。その時に持って来てね」
「へえ、サクラさんが勝てない人ですか」
「私も驚いたが、本人を直接見たら納得しちまったよ。なんせ、隙なんてものが全くと言っていいほどに無いんだもんな」
「それにデカい」
その情報だけでメニシアは微妙に冷や汗が出る。
「それに珍しいよな、サクラが信頼できるなんて」
「何度も戦えば誰だってわかるよ、あの一撃ほど真っ直ぐなものはない、正義を体現したような人」
サクラが信頼している理由の一つでもある。
師匠の言葉もあるが、その師匠が最も信頼できる人物。
それだけで十分だった。なぜならその師匠も正義を体現したような人物である……飄々としているのはちょっとあれだが。
「そろそろ食べようよ、お腹空かせている子たちがいるし」
話が盛り上がり忘れていたが、モネとネロは用意された料理を見て無邪気なまなざしを向けている。
よだれが今にでも垂れそうだ。
「そうですね、いただきましょうか」
みんな、それぞれの席につき、各々ご飯を食べ始めるのであった……。
しばらくして、食事を一通り終えた。
特にモネとネロの反応はと言うといちいち可愛い、この一言に尽きる。
本当に今までロクなものを食べてこなかったのだろう。
一口一口とてもおいしそうに食べる。
これらを作った人たちはとても喜ぶに違いない。
そして、朝食を済ませてからのこの後についてだが……。
「一応エルドラルと合流するために学校に行くんだけど、いい?」
「かまわないが、この子らはどうするんだ? 大勢の前だと隠しきれないんじゃないか」
「昨日みたいに魔法で隠そうと思えばいけるけど、エルドラルのいる部屋まで持つかどうかはわからない」
サクラによると、双子を隠した魔法は、存在を一時的に消す魔法。
そして、その消費魔力は、魔法を受ける人数に比例する。
魔力量自体は問題は無いのだが、割と集中力のいる魔法。
今のサクラだと、二人で短時間が限界らしい。
「だから、結構効果を小さくして使えば割と持つと思う」
「小さくってどれくらいなのですか?」
「まあ、影が薄いとか全然目立たないとかそのレベルくらいかな。それだったら魔力消費量も少ない多少集中力を欠けても問題ないはず……加えて」
サクラは、昨日双子が身につけていたローブを身につけさせる。
あの時はボロボロであったが、サクラが魔法で綺麗にした。
そのローブに軽く触れて一言詠唱をする。
すると、身につけていたローブが、イリナ魔術学校の制服を彷彿とさせるデザインになった。
「ここまですれば、この子たちに何の違和感もなく行動できると思うよ」
「ホントすごいな、魔法という奴は」
「まあ、奇跡みたいなものだしね」
その表情は少し悲しそうであった。
だが、すぐに切り替える。
「エルドラルと合流した後にイリナギルドの総長のもとに行くというのが今回の予定かな」
「マジか、停電の調査がここまで大きくなるものなのか」
「停電もあるけど一番はこの子たちについてだから」
零区にいたというのが大きい。
なぜあそこにいたのかということを聞きだすつもりだろうけど、サクラ本人もよくわかっていない。
「では、ひとまず準備をしましょうか」
準備にそこまで時間を要することはなく、十分足らずで終え、一行は魔術学校に向かう。
そして、この時予想していた人は誰もいなかっただろう。
モネとネロを学校に連れて行ったことが、イリナの歴史上最悪な事件の引き金になってしまうことを……。




