第3話 雷魔潜む魔術都市⑫
「……いっしょに、来る?」
「「「……!?」」」
沈黙を破ったのは、サクラのこの一言。
ただし、この一言は、他の三人に衝撃を与えた。
もちろん、捉え方はそれぞれではある。
「サ、サクラさん……!?」
エルドラルとサクラの関係性は、最近出会ったばかりの浅い関係性。
それでもサクラの人となりはある程度把握しているつもりだった。
彼女の過去の事情についてもある程度は察している。
そこから推測するに、旅の仲間はいても完全に人を信じることが出来ていないのではないかと。
これらすべてをサクラ本人から聞いたと言う訳ではない。
あくまでエルドラルの推測にすぎない、それでもサクラの一言はエルドラルに衝撃を与えるには十分であった。
「どうする?」
「「……」」
問いかけられた双子の少年少女は、お互いとサクラを交互に見る。
それがまたしばらく続く。
だが、先程の沈黙よりは短い。
「……ぁ、ぁぁ」
最初に口を開いたのは、双子の少女の方だった。
「……?」
久しく声を出していないのか、少女の声は小さく、とても弱々しかった。
少し双子に近づいて、改めて聞きなおす。
「……いき、たい」
先程よりもハッキリと聞こえた。
「いきたい」と言った少女は、見た目はボロボロで弱々しい。
今にでも倒れそうだが、その瞳はとても強い、生きたいと強く願う瞳だ。
その少女の隣にいる少年も同様だった。
サクラは思い出す。
復讐を誓った時の僕と同じような瞳をしている。
いや、この子達は復讐というものを感じない。
純粋に強く生きたいと願う瞳。
「……じゃあ、行こうか」
二人に手を差し伸べる。
当時のサクラには、クオンがいたものの、この状況のようにサクラに手を差し伸べてくれるような人はすぐには現れなかった。
ここで双子を見捨てたら酷く後悔をしてしまうと考えた、最善の選択なのかもしれない。
差し伸べられた手を双子は、先程と違いノータイムで掴んだ。
「……え?」
すでに夕方となり、授業から帰ってきたメニシアとビリン。
部屋に入ると、サクラがいた。
それはまあ、普通の光景だ。
その普通の光景に、二つの違和感が、それぞれの視界に映りこんでいた。
「……サクラ」
「なに?」
「その子たちは……いったいどうした」
ベッドに腰かけているサクラの両脇には、同じ顔の少年少女がサクラの袖を握りしめ、くっつくようにして隣り合う。
双子なのだろうと、二人は同じように考えている。
加えて、特にメニシアは、二人がボロボロの布をただ纏っているような格好していることに目がいっている。
「……拾った?」
「いや、疑問形で答えられてもな、聞いてるのは私なのだが」
素っ気なく答えたが、「拾った」という単語が正しいのか当のサクラもよくわかっていない。
「着いて来て」という純粋な意味で言ったつもりだったのだが、改めると拾ったことには変わりないのかもしれない。
「……ハァ」
「ダメだった?」
「ダメじゃないけどな」
面倒事を持ち込んでくれたなというような顔をしていると、ビリンの顔を見て思うサクラ。
「拾ったって言われてもわからないし納得なんてするわけないだろ」
それもそうだ。そもそも拾ったの一言では説明にもなっていない。
「そうだね……うん、そうだ――」
ここまでの経緯を細かく説明した。
停電の原因を探る為に零区に向かい、道中エルドラルと合流して調査を進める。
そこで零区の主のような存在と化していた魔獣と対峙、その後この双子と出会い、今に至る訳だが……。
「肝心のエルドラルはどうしたんだ?」
「そういえば」
「うーん……まぁこの子達に合わせてる時点で隠す必要も無いしね」
「「?」」
いまいちピンと来てない二人。
一呼吸置いて、サクラは話し出す。
「エルドラルは一応学校の方に戻ったよ。色々とやることがあるからってね。そして次、重要」
突然声色が少し低くなり、またさらに一呼吸置く。
「この子達について」
感覚的に部屋の空気が引き締まったような、そのような感じがした。
サクラの声のトーンや雰囲気からそれが伝わる。
「エルドラルと話した結論としては、しばらく僕が預かろうかなって」
「……へ?」
普段のサクラ、特にメニシアと初めて会った時から考えられない言葉がきた。
だからメニシアは、変な声が漏れる。
「……おい、マジか?」
「マジマジのマジ」
冗談でも何でもない、戦いの時のような真面目で真っ直ぐな瞳。
わかっている……メニシアもビリンもその瞳が冗談でも何でもないことを。
ただ、少しだけ追いついていないというのが現状だ。
「その子たちはいったい何者なのですか?」
「それはわからないよ、ただあのままあそこに残すのはダメだと思ったから……絶対に」
双子を見た時にサクラは思った……この子達はあの頃の僕と同じような目をしている。
昔のサクラからは信じられないが、メニシアと出会って以降本当に変わった。
自身が何故、手を差し伸べるということをしたのかいまだにわからない。
わからないのだが、一つだけわかることがあるとしたら、このまま見捨ててはいけないということだけ。
本能がそう告げているのだ。
「……」
「メニシア、どうしたんだ?」
ふと黙りだしたメニシア。
ビリンもサクラもキョトンとしていたが、黙りだしたと思った時、サクラと双子の目の前に行く。
「メニシア?」
何かを言いたげな表情をしているメニシア。
すると、メニシアは双子の目線に合わせるようにしてしゃがみ込む。
「ふぅ……」
一呼吸置き、向き合うように双子に真っ直ぐな視線を向ける。
「……二人のお名前、教えてもらえますか?」
そうだ、メニシアもビリンも、双子の名前をまだ聞いていない。
聞く以前の問題だったというのもあるのだが……。
「「……」」
二人はお互いを見つめ合う。
そして、決心したかのように少女の方から口を開く。
「……モネ」
「……ネロ」
少女……モネが名前を言い、少年……ネロが続く。
「モネちゃんにネロくん……いいお名前ですね」
メニシアは優しく笑み、二人の頭を撫でる。
二人は一瞬びくりとしたが、メニシアの笑みを見てどこか安心した表情になった……。
双子の少年少女、モネとネロにストレスにならないよう、しばらくは難しい話はせず、少しゆるっとした会話が続いた。
最初はまだ二人に対してどこか警戒心があったモネとネロ。
その警戒心も次第に薄れていき、気持ち笑みも多くなったように思える。
警戒心が薄れたことにより、ずっと握っていた袖を離し、メニシアと楽し気に会話をしている。
その光景を微笑ましそうに見つめるビリンとサクラ。
「……一気に懐かれたな、メニシア」
「話し方や雰囲気とかもそうだけど、メニシアは人に好かれやすいんだと思うよ」
「サクラが言うんだったらそうなんだろうよ」
そう言ってビリンはサクラの隣に腰かける。
「それで、今後のことはどうするんだ」
「……」
「事情はある程度はわかった。だったら本当にあの子たちの面倒を見続けるのか……」
引き取ったは良い。だが、サクラの旅がここで終わるわけではない。通過点に過ぎない。
もし、モネとネロをこの旅に連れて行くとなると、その危険度は計り知れない。
言い方は厳しいが、足手まといになりかねない。
パーティーメンバー的に二人を守りながらということは出来なくはないが、そちらに気を取られるため本来の力を存分に振るうことが困難になる可能性も考えられる。
「そもそもだ、サクラが調査した停電の根本的な解決はまだしてないみたいだし、一緒にいたエルドラルは二人のことなんて言ってるんだ」
「……質問多すぎるよ」
ビリンの言う通り、実際には停電に関することは解決していない。
要は、魔獣ライアントが停電の原因ではなかった。
間接的には関係あるのかもしれないが、エルドラルとの話し合いでサクラが出した結論だ。
確かにライアントは、全身電気を帯びていた。しかし、エルドラルによると以前戦った時の個体とは別個体であり、その時の個体は電気を帯びていなかった。
撃破後、モネとネロを引き連れて戻る前に倒れているライアントを改めて調査した。
ライアントの元々持っていた魔力と、電気に帯びていた魔力を比較した結果、似ているが別物であることがわかった。
要は、ライアントが帯びていた電気は後天的な何かということ。
その何かまではさすがにわからなかった。
じっくりと調べることが出来たらわかったのかもしれないが、モネとネロを保護することを優先したのでそこで打ち切りになった。
ただ、ライアントを撃破したからなのか、該当する地区の停電は一応解消された……が、停電の原因であると思われる魔力自体は完全に消えていない。
本日の調査をお開きにして翌日にまた調査をするという感じでエルドラルと一区のギルド支部長と話を付けた。
「ということは私たちもそれに参加するということか」
「明日は授業に参加しなくていいの?」
「今日受けた授業の続きは来週らしくてな、それに今日の授業に私やメニシアが受けてみたいものがないからサクラと行動するかって話になってたんだ」
「ふーん」
ビリンが貰った時間割表を借りて翌日の授業一覧を確認する。
確かにビリンたちが受けたところでというようなものばかりだった。
「……じゃあ、お願いするよ。でもその前にエルドラルに会いに学校に立ち寄るけど良いよね」
「わかった……ってそういえばクオンはどうしたんだ?」
いまさらながらクオンがいない事に気が付いたビリン。
普段からサクラと共にしているから一緒にいないのが珍しい。
しかし、モネとネロに関するインパクトの方が強くて忘れていた。
「ああ、浴室にいるよ。浴槽にお湯が張るのを見ているよ……っと戻って来た」
噂をすればクオンが戻ってきた。
戻って来たということはそろそろ湯張りが完了する合図、そうお願いしたサクラ。
「じゃあ、お湯を止めに行くよ……モネ、ネロ、一緒に入ろうか」
双子に呼びかけると、メニシアから離れてサクラの方に行く。
「うっ、寂しいですね……」
何のためらいもなくモネとネロはサクラの方に行ってほんの少し涙目になる。
「もともと約束してたしね、今度一緒に入れば良いじゃん」
「……そうします」
本当に悲しそうな表情をするメニシアを背に三人は浴室に行った……。
真夜中になり静寂に包まれた魔術都市イリナ。
その中でも特にその静寂さ際立ち、静寂さに恐怖を感じる零区。
数時間前にサクラとエルドラルの二人は、零区に住み着いていた魔獣ライアントを死闘を繰り広げ、そして撃破した。
その後ライアントの死体はサンプルの為に一部分を採取して、後はサクラの魔法で焼却した。
一応焼却後に残った骨も回収して零区を後にした。
だが、すべての骨を回収することは出来なかった。
量が多かったという訳ではなく単純に見落としてしまいその場に取り残されたというだけ。
その遺骨の前に一つ影が現れた。
フードを被っているのに加え、新月ということもあり素顔が全くわからない。
「……ハァ」
影は溜息を吐く。
何かがっかりでもしているかのような……。
「うまく、いきませんね、実験体二体も消失……まあいい、町の外に出た気配もない」
声色から影は男であろう。
男の声が次第に楽の感情が宿る。
いや、楽というよりはサイコパスに近いというべきか。
そして、静寂の中でより目立つであろう声量でそれを言う
「ふふふ……実験を、最終段階に移行する!」




