第3話 雷魔潜む魔術都市⑪
ライアントの身体は、赤黒き炎に包まれる。
苦しみもがいている……そのような咆哮が響き渡る。
「……多分、まだでしょうね」
「うん」
二人が思っている通り、苦しんではいるが、息絶えるかと聞かれたらそれは別の話。
その気配がまるで訪れない。
むしろ気配というものが次第に高まってきている様にも感じる。
そして――。
「……うそ」
「……進化、したのですか!?」
そう時間がかからないうちに、ライアントを包む炎が一瞬で吹き飛ばされ、同時に地を這っていたライアントが立ち上がり二足と化した。
さらに背中から禍々しい翼が生え、その容姿は完全に竜そのものと言える。
「前よりパワーアップしたとか言わないよね」
「そう願いたいですけど――」
話を遮るようにして、ライアントは口から光線を放つ。
二人は即座に回避行動をとり、無傷で済んだ。
「電気……あいつ、雷属性を纏っていると考えて良いよね、完全に」
「そうですね。加えるなら、以前私が倒した個体よりも強い、それもはるかに」
進化をしているのなら、すべての能力が向上していると考えたほうが良いだろう。
つまり、サクラが受けた一撃以上の威力を持つ攻撃が襲い来るということになる。
現に、今の光線をまともに受けていたら、ただでは済まないだろう。
「……エンチャント・防御」
サクラは自身とエルドラルに防御力を上げるエンチャントを施した。
「ありがとうございます」
「僕たちの耐久面は良くなったとはいえ、それで特に相手がどうなったわけじゃない」
「そうですね」
「……最大級の魔術の準備をお願い」
「サクラさん?」
サクラは刀を収め、聖剣に装備を切り替える。
「僕があいつを足止めをする。その隙にエルドラルは魔術を放って」
「ですが、どれほどのダメージになるかは――」
「その魔術が放たれたのと同時にエンチャントをして威力を上げるから」
そう言って再度飛び出す。
言われた通り、エルドラルは自身が持つ最強の魔術の準備に取りかかる。
「ハアァァァァァァッ!」
サクラは聖剣にエンチャントを施しライアントに斬りかかる。
ライアントはそれを片手で受け止め、もう片方で反撃をする。
ただでやられるはずもなく、その攻撃を避けるが、進化前から帯びていた電気は健在であり、カウンターのごとく放電をする。
仮にエンチャントをして速度を上げたところで、それを避けきることが出来ない程、カウンターの速度の方が速い。
サクラは放電をまたも喰らうが、エンチャントによってダメージは先程より抑えられている。
それでも受けたくないのは当たり前のことだが……。
放電のみならず、耐久力、そして反応速度も上がっている。
間違いなく、今まで遭遇した魔獣の中では一番強い。
正直、メニシアがいたらまた変わっていたかもしれない。
あの短剣だったらある程度抑えることは出来たはずだ。
無いものをうだうだ言っても仕方がない。
とにかく手を動かす――エンチャントにより放電をある程度気にすることなく攻撃の手を止めない。
(……そろそろか)
サクラが攻撃をしている間、エルドラルが魔力を込め続けているが、そろそろ発動できるタイミングが来たはず。
「――縛れ」
ライアントの上空四方に魔法陣が現れ、そこから光の鎖が対象を拘束する。
拘束されたライアントは解こうとするが、びくともしない。
魔力量に比例するかたちで鎖の拘束力は高くなる――つまり、異常なまでの魔力量を誇るサクラの光の鎖を解くには、サクラを上回る魔力量、そして実力を持ち合わせない限り不可能だ。
ライアントが動けない隙に、さきほど一撃を与えた部分に聖剣を突き刺す。
「――刻」
すぐに聖剣を抜き、その部分に魔法陣のような刻印が刻まれる。
「いまだ!」
サクラはすぐにライアントから距離を取る。
「マグマストーム!!!」
魔力を込め終えたエルドラルが自身最強の魔術をライアントに放つ。
まるで火山が噴火したかのように錯覚してしまう程の迫力、そして威力だ。
ライアントは、サクラの拘束によって動くことが出来ず、その魔術はサクラが刻んだ刻印にほんの少しの狂いもなく命中。
「――――!!!!!!」
その叫びは、苦しみそのもの――先程と違って膝をつき、そのまま力尽きようとしている。
「……さすがにやったと思いたいけど」
エルドラルと合流したサクラは、短時間でボロボロの格好となってしまった。
本人曰く魔法で元に戻せるから良いとの事らしい。
「私もそう願いたいです」
両者が願った通りに、ライアントが先程のように進化するといったことはなく、そのまま力尽き倒れた。
しばらく動くことはなかったので死んだのだろう。
警戒を緩めることなく、力尽きているライアントに近づいて生死の確認をする。
「……死んでるね、反撃されることはまずないかな」
「ふぅ……以前よりは強い個体でしたが、短期決着できました。やはりサクラさんはお強い――」
「それはいいけど、それはなに」
サクラが指しているのは、エルドラルが持っている魔法杖。
ただ、魔法杖であるのは間違いないのだが、エルドラルは魔法ではなく魔術を使用していた。
「これは、以前にもお話した今は亡き魔女……私の娘が使用していた魔法杖です」
「……はぁ?」
サクラが驚くのも無理はない。
イリナにかつて魔女がいたことも驚いたが、それ以上にその魔女はエルドラルの娘である事実はそれを遥かに超える。
「正真正銘私の娘……私自身それなりの魔力を持ち合わせておりますが、突然変異なのかどうか、私には魔法の才が無かったようで、一切使用することが出来なかったのですよ」
「まあ、魔法が使えなかったとしても、魔術にそれは関係ないもんね」
魔法はその使用者依存になるのだが、魔術は使用者ではなく完全に道具依存。
魔力を持っていることに越したことはないが、道具に魔力が込められているのなら、魔力を持たないものでも魔術を使用することが出来る。
「亡くなる直前に彼女から渡された物でしてね、それ以来私の得物として使用しております」
「そっか……で、こいつを倒したことでなにか変わるのかな」
当初の目的は停電と謎の魔力の調査。
ライアントがこの二つに最も絡んでいる可能性を持っていたのだが、倒した現在、それらに進展があったのかどうか……。
「これで終わってほしいものですが……おや?」
「どうしたの」
エルドラルが何かに気付いたようで、それはライアントがいたところの背後のその奥――。
「……!」
サクラには見覚えがあった。
何故なら、零区に入った直後に見た二つの影だったからだ。
先程よりもわかる。フードのようなもので顔まではわからないが、人であることは間違いない。
そして思っているより幼い印象がある。
「……サクラさん」
すぐに二人の方に向かって歩き出す。
エルドラルも驚きつつ、サクラに付いて行く。
当の謎の二人は、先程と違って逃げるような素振りを見せない。
だからと言って攻撃をするというような気配もない。
ただ、どこか警戒しているのではないかと、近づくにつれてそれを感じる。
「……」
すぐに二人の目の前に見下ろして立ち尽くすサクラ、遅れてエルドラルもサクラの後ろに着く。
サクラの視界に映る二人――少年少女は全身ぼろ布に包まれている程度の身なり。
全身痩せこけており、本来美しいであろう白銀の髪も痛みきっている。
生きているのが不思議ではない程だ。
よく見ると二人は顔立ちが似ている。双子なのだろうか……。
さらに下に視線を落とすと二人の両手首には、まるで奴隷を拘束でもしていたかのような千切れた鎖を身につけられていた。
そして小刻みに震えている。
別段寒いといえるような気温でもない。むしろ暖かいと感じる。
単純にサクラに対して怯えているのだろうか。
しばらく二人を見下ろしてから、サクラは双子の目線に合わせるようにしてしゃがみ込む。
「……大丈夫?」
最初の一声として正しいかどうかはわからない。
今までこのような経験をしたことが無いからだ。
ただ、この二人を見ていると、何故か昔の自分を見ているような気がしてならない……。
「「……」」
サクラの言葉に、二人は顔を合わせるが、特に反応するということはなかった。
呼びかけたはいいものの、この先のことはあまり考えていなかった。
多分、同じような場面であったらサクラもこの二人と同じ反応をしていただろう。
……長い沈黙ではないはずなのに、この時間がとてつもなく長く感じる。
短いようで長い、この沈黙を破ったのは……。




