第3話 雷魔潜む魔術都市⑩
数十年前の戦い以降、そのままの状態である零区。
現在の状況はと言うと……。
「酷いものだね」
荒廃しきっている。確かに立ち入ると建物が崩れやすく、それこそ子どもにとっては危険極まりないだろう。
もちろんそれは大人にも言えることだ。
サクラの見た感じ、一流冒険者でも細心の注意を払わないと、最悪の事態も想定される。
「建物が荒廃しているだけで魔獣や魔物の気配は無いね」
「まあ、油断せずに参りましょう」
当の目的は、停電と謎の魔力の調査。
来たのは良いが、何が原因で停電となっているのか、何が原因で魔力を感じるのかというのをサクラはよくわかっていない。
「私の方では、魔力が確認された場所……というよりその周辺になりますかね、それはわかるのですが、停電の原因についてはわからないですね」
「関連性が高いかもしれないってことなら、場所も共通しているかもしれない、魔力の場所に行ってみよう」
ここまでの道中同様にエルドラルが先行する形で目的地と思われる場所に向かう。
……エルドラルを護衛するような感じで話が進んで今に至るのに、そのエルドラルが先行すると言うのもどうかと思ったが、短時間の同行とはいえその実力が高いと言うのは肌に伝わってくる。
「僕、護衛としていらないんじゃないの」
「何を言っているのですか、連絡がなければこの調査も先延ばしだったのですよ」
「それもそうだね……ん?」
「どうしましたか」
エルドラルがサクラのいる方に振り返ると、サクラは明後日の方向を見ていた。
「サクラさん?」
「……誰かいる」
「誰か? そんなはず――」
サクラの見ている方向を見ると、遠く離れた所に複数の影のようなものが見える。
影……よく見ると間違いなく人だろう。
認識できる範囲だと二人――そのようなことを考えていると、二つの影はさらに奥に去って行った。
「どうする、追いかける?」
「……深追いは厳禁と言いたいところですが、情報が少ない今、あの存在はその数少ない情報となり得るでしょう。それに去って行った方向は魔力が確認されたであろう場所周辺です」
「決まりだね」
「はい」
サクラたちは謎の影を追いかける。
しかし、危険地帯ということで魔法で速度を上げられず、慎重に走っているということもあるのか、なかなか追いつかない。
人影を見かけた時点だと相当離れていたので、影がいた所まで来た時にはその影もより遠くに離れていた。
一応影が去って行った方角に向かって走って行ったが……。
「見失いましたね」
「一応魔力の痕跡は……」
「ないですね。痕跡が残らないよう抑えているのか、消しているのか、そもそも魔力を持っていないか」
「また見かけない限りは追跡は難しいか」
「ですが、魔力が確認されたであろう地点には到着しました」
結果的に目的地には到着していた。
見渡す限り、零区の入り口周辺と大差ない光景が広がっている。
少し大きめの廃墟が立ち並んでいるというくらいだろう。
その廃墟も、見た感じいつ崩れてもおかしくはないほどにボロボロ、身を隠そうにもそれだけで危険を伴い、最悪も想定される。
あの影の正体はわからないが、人だとしたら自殺願望がない限りは身を隠そうとしないだろう。
「……もしあの影が人だとしたらさ」
「何故この場所にいるか、ですよね」
そもそも零区は封されており、今回サクラとエルドラルが立ち入るまでこの場所に立ち入った者は、ここ数年いないはずだ。
仮に人が立ち入ったとしたら、設置されている魔術道具を介して魔術学校に伝わる。
だから人がいること自体あり得ないはずだ。
「段々と疑惑の場所になってきたね」
「ええ、調査をする価値が出てきましたね……仕事が増えそうですね」
「本音が出てきたね」
「まあ、私の本来の仕事に加えてトップ二人分の仕事が私に来ますからね……早く戻って来てほしいですよ」
大きめの溜息を漏らす。
サクラが初めて会った時も疲れているような表情をしていたので、相当きているのだろう。
ともかく、新たな疑惑が生まれたとはいえ、本当に何もない。
微量な魔力を感じる程度――それは昨日から続いているのと同じだ。
「振出しに戻ったわけじゃないけど、肝心な情報は何も得られないまま……どうしたものか」
「他の場所も確かめてみましょう、あの影の存在もあるので何も無い訳ではないでしょうから……」
――――――――――――ッ!
「「!?」」
突如謎の叫び声が零区に響き渡る――。
謎の叫び声が響き渡るのと同時に、真正面の廃墟の目の前の地面から、何かが勢いよく飛び出し、それは地を這うように着地した。
「そんなはず……まさか」
「知ってるの?」
「知ってるも何も、私が以前倒した……零区を封鎖するきっかけとなった魔獣――ライアント」
ライアントと呼ばれるその魔獣は、アリのように地を這う四本足の竜という見た目をしている。
そして、身体には大量の電気を帯びている……。
「この魔獣が停電の原因の可能性は……」
「……あると思います。ですが、当時は電気を帯びているようなことはありませんでした」
エルドラルと対峙した時とは別個体なのか……それについては確認のしようがないが、電気を帯びていることを除けば同種であることは間違いないかもしれない。
「同個体の可能性もあれば、エルドラルが倒した個体が子を産み零区で育って今に至るか……」
「どちらの可能性も考えられますね……どちらにしても倒すことに変わりありません」
エルドラルは筒状の小さい棒を取り出し、棒の真ん中にあるボタンを押す。
するとその棒は一気に拡大し、人並みサイズの魔法杖が展開された。
「……」
それを見て何か思うところがあるサクラだが、それより目の前の魔獣の方が優先であり、刀を構える。
「僕が先行する、エルドラルは後方からの支援を――」
「わかりました」
サクラは飛び出してライアントに斬りかかる。
エルドラルは、後方から火炎系の魔術を展開、ライアント目掛けて放つ。
「エンチャント俊敏――六道神流・二ノ太刀……」
ライアントの目の前に来た瞬間に、魔法によるエンチャントで速度を上げて瞬時に横につける。
そして刀身に暴風並みの風が纏う――。
「天上・闘風ノ打撃!」
斬るという刀の特性を無視して、暴力のごとく叩きつける。
その一撃は大地が凹む勢い……。
(……凄まじい威力ですね)
その光景に驚きを隠せないエルドラル。
サクラの放った技の余波は離れた地点にいるエルドラルにも強く届いている。
数多の実力者を見てきた中で、サクラの実力はトップクラス……いや、もしかすると一番の実力者かもしれない。
だが、それ以上に地面が変形するほどのサクラの一撃をもろに喰らったにもかかわらず、身体が変形しない頑丈さを見せつけたライアントにも驚いている。
(耐久面は以前より高い……攻撃面は……)
もし、当時以上の攻撃性能を兼ね備えているのなら、厳しい戦いになるかもしれない……。
エルドラルのその予感と言うのは的中した。
「サクラさん!」
サクラが攻撃をし、さらにもう一撃を準備する瞬間、帯びている電気が放電――その威力は凄まじかった。
「……ッ!」
瞬間的なことだったので、回避行動を取ることが出来ず、サクラはもろに放電を浴びた。
さらに攻撃が止むことはなく、右前足を大鎌を振るうかのようにサクラに振り、その一撃をサクラの腹部に綺麗に与え、そのままエルドラルのいる方向まで吹き飛ばされる。
吹き飛ばされたサクラは受け身を取ることが出来ず、地面に転がるように倒れ込む。
「大丈夫ですか!」
エルドラルはすぐに治癒魔術を展開、傷等が見る見る癒えていく。
「……大丈夫」
サクラはすぐに立ち上がる。その際少しふらついた。
「……念のために聞くけど、エルドラルが前に戦った個体と比べるとどうなの」
「……最悪なケースかもしれません。以前のとは比べ物になりません……ただ」
「ただ?」
「この瞬間の出来事だけの判断だと、耐久面はともかく攻撃面に関しては前の個体と同等のように見えました」
「なるほど」
要はただ頑丈になっただけということになるのか……。
いや、以前は電気を帯びていたと言う訳ではないらしいから耐久面が上昇に加えて電気属性が加わったと捉えるべきだろう。
「以前はどうやって倒したの」
「そうですね……ごり押しに近いですね、徹底的に攻撃を打ち込んだ結果、撃破に成功したという感じですね」
「対策も何も無いね」
それに今回は耐久面上昇ということもあって、以前のようなごり押しも厳しいかもしれない。
「いや……」
すると、ライアントが口から赤い液体を吐きだした。
血だろうか。
「側の耐久面は高い……けど、どの生物も内側は脆い。あいつも例外じゃない」
「サクラさんの打撃の衝撃が内部に伝わった結果なのでしょうか……つまり、内部にはダメージがいっていることになりますが」
「近づけばあの電気による攻撃……カウンターが待ち受けているのかな」
もう一度試してみない限り何とも言えないが、サクラが放った攻撃の直後に放電をした。
これがカウンターだと言うのなら近接戦闘は厄介なことになる。
「ダメージも大きいし、さすがにもう一度は受けたくないかな」
「遠距離攻撃もダメージは少なそうですしね」
実際にエルドラルが放った火炎魔術は、ヒットはしたもののそこまで大きなダメージを与えているようには見えなかった。
「あの電気をどうにかしないと始まらない感じかな」
「……どうしたものでしょうか」
近距離だと放電によるカウンター、遠距離だとダメージが浅い。
遠距離がダメと言うより魔術のような特殊な攻撃がダメなのかもしれない。
そうなると、遠距離から先程の「天上・闘風ノ打撃」のような物理的なダメージを与えることが出来れば、有効打となるのだが……。
「……やってみるか」
サクラは刀を地面に突き刺す。
突き刺した刀は、次第に赤黒き炎に包まれていき、激しさを増す。
そして、その炎は瞬時に刃先に凝縮――即座に斬り上げるようにして刀を振り上げる。
「三ノ太刀……修羅・一閃――爆!」
本来「修羅・一閃」は、極限までに激しさを増した炎を刃先に凝縮させることで、何ものをも切り裂く最も鋭い技なのであり、基本的な使い方である。
しかし、刃先に凝縮させた炎を解放させることで、その炎による爆炎が相手を襲う。
その威力は、刃先に炎を凝縮させたときの刀の切れ味並み……爆炎は地面を切り裂くようにしてライアントに襲い掛かる。
ライアントは、避ける動作を取ろうとしたが、先程の一撃が効いているのか、避けることが出来ず、その一撃をもろに受けてしまう――。




