第3話 雷魔潜む魔術都市⑤
ギルドから魔術学校までは一時間もかからなかった。
しかし、魔術学校に入るのに検査が必要であり、長い列が出来ていた。
魔術学校に来るまでに要した時間よりも長いのではというビリンの予想通り、結局一時間以上待たされた。
一時間以上待ってようやく検査に入る……が、今までの人達は入念に調べられていたのに、サクラたちはあっさりとした検査で通った。
どうやらギルドから貰った紹介状が影響しているようだ。
ギルドが紹介状を発行するのは、相当信頼されている人でないと不可能である。
ただ、紹介状だけが理由と言う訳ではないようだが――。
「……?」
検査をしている門番が、サクラに検査機をかけたところで何かに反応した。
すると、別の門番の方へと行ってしまった。
「何かあったのでしょうか」
「……さぁ」
何やら知っているような、そのような反応をするサクラ。
すぐに門番は戻ってくる。
「失礼ですが黒髪のあなた」
門番が話しかけたのはやはりサクラだった。
「なに」
「あなたは魔術師でしょうか?」
「……」
てっきり魔女かと問われるものだとばかり思っていたサクラは、予想の斜め下の質問が来たのである意味驚いた。
「まぁ、魔術師とも言えなくはないけど……」
「やはりそうでしたか! 紹介状もありますしお仲間の方々も含めてどうぞお通り下さい!」
と、このような感じで検査を突破した。
「てっきりサクラさんのこと、魔法使いだ認識しているのだと思っていたのですが」
「知らなさそうな素振りだな」
「そもそも魔法使いも魔女もそうそう見ないしね、伝説級の存在並みだと思うよ」
メニシアも魔法使いを実物で見たのはサクラが初めてだ。
加えてサクラの話を聞いた感じでは二人しか知らない。
それはビリンも同様だ。
イエユリも、魔法使い並みの質と魔力量ではあったが、それでも魔法使いと言う訳ではない。
と言っても、イエユリの場合は元のというより、イエユリに憑依した存在の影響も大きいだろう。
それだけ魔法使い・魔女の存在というのは極めて珍しいのだ。
「それにしても広いですね」
イリナ魔術学校の規模は世界トップクラスだ。その広さは、普通の町と同等と言ってもいいくらい。
メニシアの故郷であるエリアスと比べても賑やかさはそれ以上だ。
魔術学校の敷地だけで一個の町レベル。
施設も充実しており、それらは一般の人のみならず、魔術学校の生徒も含めたすべての魔術師にとって最高の環境と言える。
それだけ魔術というものに力を入れているのだ。
「このまま図書館に行きますか?」
学内は広い。
一応図書館は校舎の次に広く大きい。
直行するのも選択肢の一つ。実際に図書館は広く開放されているので誰でも利用すること自体は可能である。
サクラたちも例に漏れないのだが、ギルドから紹介状を発行されている。
メニシアは、学校側に対して挨拶やら何やらをした方が良いのではと考えている。
「確かにな……どうするサクラ」
「……」
紹介状のこともあるのでサクラもメニシアと同じようなことを考えていた。
ただ、正直面倒くさいと思っている。
「おや、お困りでしょうか?」
後ろから声がした。
振り向くと白髪白髭白スーツ下には黒シャツとシャツ以外すべてが白でコーデされた老人がいた。
老人というには背筋はしっかりとしており、白髪と白髭が年老いている様に見えなくもないが実年齢は見かけ以下なのかもしれない。
「えっと……」
もちろん三人は初めて見る。クオンは興味が全くないようだ。
「おっと失礼、私はイリナ魔術学校の教頭を務めているエルドラルと申します。以後お見知りおきを」
この老人(?)は教頭だった。想像以上に偉い人であった。
「あ、ご丁寧にどうも……私はメニシアと申します、こちらの方々はサクラさんとビリンさん、そしてサクラさんの横にいるのが彼女のパートナーのクオンです」
メニシアが代わりに一行の自己紹介をする。
教頭エルドラルも「こちらこそご丁寧に」と返した。
「それで、お困りかと思い尋ねたのですが」
「丁度良かった」
サクラが切り出した。
「……?」
エルドラルから尋ねたこととはいえ、少し疑問を覚える。
その間にサクラは、袖から紹介状を取り出した。
「サクラさん、袖にしまっていたのですか」
「面倒くさかったし」
メニシアは定期的に注意をしている。
特に重要なものであるほど袖にしまうことで落とす可能性が高くなる。
定期的に注意をするくらいには言いつけを破っている。
「ギルドからの紹介状」
取り出した紹介状をエルドラルに渡す。
「拝見します」
受け取ったエルドラルは紹介状を中身にしっかりと眼を通す。
「……教頭なんだよね? 学校に通ったこと無いからわからないけどもっと上の人とかと話さなくても良いの?」
「あぁ、私の上の立場の二人……校長は現在休職中で理事長は出張で他国に行っているので事実上私がトップの立場なのですよ」
「ふーん」
曰く、校長は命に関わるほどではないが、病気をして現在療養中。理事長はエルドラルが話した通り。
どちらも割と長らく学校から離れているので、教頭自ら指示することが多くなり、早く帰ってきてほしいと言うのは愚痴かもしれないしそうではないかもしれないし……。
紹介状の中身をエルドラルに渡すまで誰一人見ていないので何が書いてあるかはわからない。
そう長々と書いていないと思うのだが……と、思っていた直後にエルドラルは読み終えたようだ。
「なるほど……そもそも検問を突破している時点で疑うことはするつもりはありませんが、ギルドの紹介状がありますしね、どうぞ図書館を含めてご自由に利用してくださいな」
「……そんなに珍しいのか、その紹介状」
ビリンは、紹介状に眼を通すエルドラルの表情が気になっていた。
物珍しいというか、初めて見るような、そのような表情だ。
「えぇ、その通りですね。長らくこの学校に在職していますが、一般的な紹介状は決して多くはないですが拝見したことはあってもギルドからの紹介状は本当に稀というか私自身初見でした」
紹介状を受け取った時にも聞いたが、やはりギルドからの紹介状というのは本当に珍しいようだ。
「このイリナに関して言えば、魔術学校の利用に関する紹介状を発行するのは相当の信用と信頼があるということ。だからこそ私たちも信じるに値することができます」
特にイリナ魔術学校は様々な重要極まる情報の多くが集まる。
だからこそ門番による検査というのはイリナという町に入る以上に厳しく、場合によっては同様に厳しい罰則というのもあり、世界トップクラスとも言われている。
それらを突破しているだけではなくギルドからの紹介状もある。
サクラたちを受け入れない理由を逆に見つける方が難易度最大級だろう。
「そうれはそうと、サクラさんでしたか」
「……?」
「特にあなたからは異常なまでの魔力を感じるのですが……もしかして魔女ですかね」
「……」
サクラの瞳に油断というものが消え、冷たさが宿る――。
それは殺気とは違う。
「あ、勘違いしないでくださいね。別に捕まえて人体実験しますよ~ってようなことはないですからね!」
あたふたとしている。
勘違いさせて本当に申し訳ないような表情をしている。
そんなエルドラルの表情を見ていると、サクラは落ち着きを取り戻した(というよりは呆気に取られている?)
「実はですね、以前教員としてこの学校に魔女が在籍していましてね……」
エルドラルの言葉からサラッと重要過ぎる情報を聞いて三人はほんの少しの沈黙の後、隠しきれない程の驚きという衝撃が走る――。




