第3話 雷魔潜む魔術都市②
コウランと別れて数時間後、無事に魔術都市イリナに辿り着く。
想定していたよりも早く、これは一匹たりとも魔物に遭遇しなかったからだ。
いや、遭遇はしているが、どれも死体ばかりだ。
それも、異常な数のだ。
この死体の数々をどうにかしないと、腐敗して疫病が蔓延するのではないかとサクラたちは話していたが、変に燃やすとそれはそれでボヤ騒ぎやらなんやらで面倒事に発展しそうだったので、イリナにあるギルドに相談してから後のことは考えようということになった。
魔術都市イリナは、外壁に守られた大都市。
町は東西南北に区切られており、中心には離れた土地からでも視界に入る程の大きな魔術学校が存在する。
ファルカスと違うのは、階級や職種によってエリアが区切られていると言う訳ではなく、何も関係なくただ単純に分けられているだけなので、どの地区も同等の賑わいを見せる。
ただし、サクラはこの賑わいを見て吐き気がしていた。
「……うるさい」
「しゃーない、そこら中に学生がわんさかいるんだからな」
イリナ魔術学校は魔術関係なく世界最高峰の学校であり、世界各地から魔術を学ぶ者、優れた者などなど、たくさんの人が集まる。
学生の在籍数も世界トップクラスだ。
イリナは魔術都市だけではなく学術都市の名も持っている。
従って、イリナのどの地区にも学生が溢れていたりする……。
「学生なら学生らしく学び舎に籠ってろよ……」
「口が悪いですよサクラさん……それにしても本当に多いですね」
ファルカスも相当の人だったが、イリナは世界最高峰の学校があるということもあり、それ以上の人の多さを感じられる。
そして一人、この人の多さに限界を迎えつつあった。
「……ねぇ、そろそろ行かない?」
人の多さに若干酔い始めたサクラ。その表情は次第に悪くなっていく。
「そうだな、ここで止まっても始まらないしな」
魔術学校に行く前に先の件を報告しにギルドに向かう。
本気で人酔いしたサクラの状態を見ながらゆっくりと目的地に向かい、そしてやっとの思いで到着した。
イリナに到着したのは昼少し前。それから二時間まではいかないだろうが多分一時間以上経ったのだろう。
日が沈んでいないのが証拠だろう。
それでもすぐ着くところを一時間以上、相当苦しかったのだろう。
「着きましたよ、サクラさん」
「あ?」
「怖いですよ」
普段から無表情で口調もぶっきらぼうで、たまに怒っているのかと思われるサクラが、人酔いにやられ表情も汗ばみ最悪の状態。そのせいもあってか口調がさらに悪くなっているような印象。
「別に、怒ってない……」
「中に入ったら横になれ」
「……うん」
そんな病人を連れて中に入る。
イリナのギルドは、ファルカスのように大きいという程の規模ではなく、普通の都市にあるような規模の大きさ。
ただし、ファルカスも含めた他の町のギルドとは違う珍しい特徴がある。
それは、一つの町に四つのギルドがあるということ。
各地区にギルドが設置され、各々連携を取っている。
以前は魔術学校の校内に存在していたのだが、あまりにも利用者が多かったという経緯があり、混乱を防ぐ意味合いで各地区に分散させた。
これは成功という結果を残している。
サクラたちが訪れたのは、東の第二地区にあるギルドだ。
「あ、あなたがたはコウランさんが仰っていたサクラさんたちでしょうか?」
受付に行くと、何故か名前が知られていた。
「何で知ってんだ? コウランと会ったのはあいつがここを離れた後のことだぞ」
「はい、先程コウランさんから連絡がありまして、サクラさんたちが伺うかもしれないと伝えられまして」
どうやら根回しをしていたようだ。
「ということは用件は御存じなのですか?」
「いえ、そこまでは……」
そこまで伝えているのなら要件くらい伝えてほしかったのだが。
「結構急いでいたらしくて、来るとだけ言った後すぐに回線を切りましてですね」
そういえば、急ぎでファルカスに戻っていっていたような気がする。
「要件の前にサクラを横に休ませるようなスペースは無いか、人混みで参っちまったようでな」
「それはそれは、急いで医務室にお連れします」
受付の女性が内戦で二人ほど女性を呼び、そのままサクラを連れて行った。
「すまねぇ、それで要件なんだが――」
ビリンは、グルーシャを出てに向かう道中、コウランに会うまでの道中の惨状について細かく伝えた。
それを聞いた女性は驚きを隠せていなかった。
「そんなことが……いや、でも……」
「どうかしたのですか?」
「いえ、少しお待ちください」
そう言って女性は、手元の機械で何か作業をし始めた。
多分、記録機で何かしら過去のデータを探しているのだろう。
「……困りましたね」
「何がだ?」
「ビリンさが仰った件なのですが、そう言った事例が今まで一件も無いのです」
「一件もって、あの光景に関しての報告等も何も無いのですか?」
「はい、仮にそのような事態が発生していたら間違いなく我らギルドに伝わっているはずです」
大量の死体の件は決して小さい出来事ではない。
死体の状態的にも昨日今日の話ではなくもう少し前のものだと推測される。
その間も多くの人が乗り物に乗りながら行き来しているはず、つまり見ない訳がない。
なのに、死体の件が報告も何もない。
「この件に関しては上の方に話したうえで後日調査団を派遣すると思います。魔物の死体の処理もその時に行うでしょう」
「私たちは行かなくてもいいのか?」
「ビリンさんにメニシアさんは、この報告の為にイリナに来られたわけではありませんよね」
「そうですね、魔術学校に用がありまして」
「そうですか、何か調べたいことでも?」
「まあな、つっても学生みたいに授業に出るとかじゃないけどな。図書館に行くくらいだがな」
「ということは何日かイリナに滞在しますよね、でしたら宿はイリナ支部の宿泊施設をご利用ください」
「あ、助かります」
「金は……」
「大丈夫ですよ、お金は頂戴しておりません。ギルド関係者から許可さえ取っていただければどなたでも利用できます、ただ食事だけ各々の判断となりますが」
「さすがにそこまではいいさ、宿代が浮くってもんだ」
「そうですね」
「にゃー」
サクラもダウンしている状況なので、正直宿探ししなくても良いというのは幸いだった。
大きな外壁で守られた町の中のポツンととある一角に、同党の大きさの外壁が何かを囲うようにしていた。
その中は外側の華やかさとは打って変わって汚い。
廃墟の中の廃墟――。
家の屋根も壁ボロボロでスッカスカ、どう雨風を凌げというのか。
この小さなエリアだけすべての建物、そして草木と言った何もかもがまるで死んでいるようだ。
このような場所に動物もいなければ人もいない。
いるとすれば屋根に止まっているカラスなどの鳥くらいか。
いや、二人だけいる。
服と言っていいのかわからない程にボロボロの布を身に纏い、寒さを防ぐためかそれ以上の大きなボロボロの布を、二人身を寄せあいながら被せる。
その二人も布と同等にボロボロ……汚れている。
男か女もわからない二人の子供の瞳には光すら宿っておらず、その瞳に写るのは地獄・絶望・恐怖……ありとあらゆる負の象徴ばかり……。
あぁ、神様神様――。
「ぼく「わたしたちはいったいなにをしたのだろうか
なんでぼく「わたしたちは不幸にならないといけないのか
神様なんて……地獄に落ちればいいのに」




