第2話 疑惑の正義⑬
あの戦いから四日後――。
事の顛末をすべてファルカス国民に伝えるのは混乱を招いてしまう。
なので、女王が監禁された前後に体調を酷く崩し、寝込んでいたこと。その隙をつかれて政権運営を乗っ取られてしまったということにした。
もちろん、批判が全くなかったと言う訳ではない。
危機管理能力という点について責められた。
だが、批判の反対に擁護の声も多くあった。
女王が倒れた要因が、女王にすべてを任せきりにしていたという責任を感じているのだろう。
実際ファルカスの運営というのは大多数が女王自らが担っていた。
これを機に、今の体制を見直し、女王全てに任せるのではない運営を目指していく。
そして、イエユリの死についても公表することにした。
もちろん真実を話すのではなく、政権運営を乗っ取った者に殺害されたということにした。
同じくビリンが指名手配されるきっかけとなった大量虐殺事件についても、同じ犯人であるということにした。
ちなみに、この大量虐殺事件というのは、イエユリの体を奪った悪魔が起こした事。
致命傷は、ジャスティス・アローによるものだと推測されている。
女王が監禁されていた期間に課せられていた圧迫政治も、即座に解除、対応も順次行われる。
イエユリや大量虐殺事件で亡くなった人々の葬儀は、女王が回復したさらに二日後に行われた。
それからさらに二日後――。
「ビリン、ここにいたの?」
ビリンがいたのは、とある人の墓前だった。
そう、イエユリのだ。
「……サクラか」
その声、表情は、まだ現実を受け入れられていない、そのように見て取れた。
「メニシアとクオンは?」
「ギルド。今回の顛末に関する報告をしてる」
「まぁ、そんなことできる余裕も雰囲気もなかったからな」
戦い後から現在に至るまで、ほぼ休養にあたっていた。
傷自体は、サクラの魔法で皆完治できた。
魔法で出来るのはこれくらいだ。体力や、心の傷まで回復させることは出来ない。
心の傷、トラウマを回復させるのは時間やきっかけだ。
それ以外の方法は……絶対に手を出してはいけない。
特に、大親友のイエユリの死を目の当たりにしたビリンの傷は深い。
吹っ切れた、と言わないまでもある程度心の整理を付けられたのはイエユリの葬儀の時だ。
「正直な、イエユリが遅れを取るって未だに信じられないんだよ」
「確かに、悪魔に乗っ取られたという点を除けば地の実力は本当に高いのは伝わったよ」
「あぁ、油断したってのもありえないって思ったが、悪魔相手だとわかるわけないよな」
悪魔というのは、現代においては何もわかっていないのが現状だ。
そもそも悪魔自体がお伽話の世界の話というのが、現代の人達の印象だ。
もちろん、過去にいた。文献もあるくらいだ。
そして現代にもいた……サクラたちが実際に対峙しているわけだから。
さらに、サクラが生まれる数年前に、悪魔を統べる魔王も存在していた。
「……サクラたちも悪魔と対峙してたんだっけか」
「うん、メニシアと初めて会った次の日かな?」
「どうだったんだ?」
「?」
「どうやって勝ったんだ?」
別に隠していると言う訳ではないので、魔鏡との戦闘について色々と話した。
イエユリ同様に、人の体を乗っ取り自分の体にしていた。
決め手になったのは、魔鏡が目覚める前に放ったメニシアの短剣の一撃だ。
それがなかったらさらに悲惨な状況になっていたかもしれない。
ただ、イエユリの時と違うところがあるとすれば、体が乗っ取られた時の状況と人物くらいだろうか。
魔鏡の時は、『冥府の誘い』の一人であるアビルが封印されていた魔鏡を体に宿した。
だが、サクラとメニシアの攻撃で弱ったところを魔鏡に支配権を奪われ、魂ごとアビルは殺された。
アビルは『冥府の誘い』の一人だったが、イエユリは違う。イエユリを乗っ取った悪魔が『冥府の誘い』の一人その人だった。
そして、アビルと違い宿したのではなく乗っ取られた。
ここで共通することは、悪魔に体を乗っとられたら、殺されているというところだ。
イエユリに関しては、直前まで体を乗っ取られていたからなのか、わずかにだが活動することが出来た。
謎なのが、悪魔に体を奪われると殺されるのか、そうではないのか。
そして、『冥府の誘い』と何なのか……悪魔も所属しているという謎。
イエユリの最期の会話から、サクラが探すあの女……破壊の魔女が関係していることは間違いない。
「……そうか」
事の顛末を離したからと言ってビリンがすぐに調子を戻すと言う訳でもなかった……と思ったら。
「よしサクラ、準備するぞ」
「準備って?」
「旅の再開、だろ?」
イエユリの最期の言葉には、「サクラを守れ」とあった。
これが何を意味しているのかは正直わからない。
イエユリの最期の願いを見捨てるわけにはいかない。
だから、サクラたちと旅に付いて行くと決意する。
もちろん、女王の許しも得た。
否定的ではなく、むしろ巣立ちの時が来たと、寂しくもありつつどこか喜ばしいような、この旅立ちを見守る親のような感覚だ。
そして、強くなってまたファルカスの地に戻ると約束し、城を後にした。
だが、問題はサクラだ。
メニシアのときは、押し切られた形で一緒に旅をすることになった。
クオンの反応見て決めた所もあるが。
「……そう」
「……?」
「なに?」
「いや、メニシアから聞いてたから拍子抜けだなって」
「なにが?」
前日にメニシアから、サクラと旅をするに至った経緯を大雑把にではあるが聞いていた。
だからこその今の反応だ。
「……はぁ、拒否したところで聞かないでしょ、あなたは。それに……」
サクラには、イエユリの言葉に引っ掛かっていた。
「今のままでは破壊の魔女には勝てない」
「勝つためのピースが揃っていない」
何故か否定をすることが出来ない。
たまに見る生々しい夢、破壊の魔女との戦いでは必ずと言っていいほど殺されていた。
もしイエユリの言う通りなら、夢の中で殺されているのはピースが足りないからなのか。
そう考えたら、そのピースの一人であるビリンを遠ざけるのは良くないかもしれないと判断した。
「なるほど、私は都合の良いコマみたいな感じか」
「うん、まぁ……」
「ハハハッ! 否定くらいしろよ」
初めてあってからここまで笑うビリンを見たのは初めてだ。
「じゃあよろしくだな、サクラ」
「うん、よろしく」
二人はイエユリの墓前を後にして、サクラとメニシアが泊まるホテルに向かう。
一方――。
「グスッ」
メニシアは泣いていた。
「ニャ~」
それを見ているクオンは悲しそうに、そして心配そうに見てる。
なぜメニシアが泣いているのかというと……。
「それが書き終わりましたら、次はこちらでお願いします……あ、すみません緊急でこちらにも目を通して貰っても――」
現在ギルドで事の顛末に関する報告書をまとめている。
普通だったらただ報告をするだけで良いのだが、今日に限ってギルドが人手不足でメニシアにも手伝ってもらわないといけないほどに忙しい。
代わりにメニシアには報告書をまとめてもらっているのだが、何故かギルドがやるはずの書類のまとめも任されている(といっても機密情報に触れないもの限定だが)。
「いや~助かりますよメニシアさん。あ、ついでと言っては何ですが、このままサクラさんと共にギルドに所属してもらうというのは……」
なぜサクラが生理的に受け付けなくなるくらいまでに、ギルド職員に対する恐怖を植え付けられたのか、今回の件でその一端を垣間見えたような気がした。
だからこそ言える――。
「絶対に嫌ですよー!!!」




