第2話 疑惑の正義⑩
真っ二つに切り裂かれたイエユリの上半身は地に倒れ伏し、下半身もその場に倒れた。
「おい! 何もそこまでやれって言ってないだろう」
「まだだよ」
「……はぁ?」
「まだ終わってないよ」
そう、まだ戦いは終わっていない。
「そうだよ、最後まで油断は禁物だ……ビリン」
ビリンは声のする後方を振り向く。
そこには、いるはずのメニシアとの間に、いないはずのイエユリが五体満足の状態でいた。
「……え?」
「メニシアッ!」
「ジャスティス・アロー・デュオ」
腕を交差させ、二本のジャスティス・アローが放たれる。
「……っ」
「……間一髪か」
ダメージはあったが、神楯エイジスの能力がギリギリ間に合い、ジャスティス・アローがそれぞれ貫通することはなかった。
そしてすぐに行動を移したのが、メニシアだった。
照準をイエユリに合わせて、短剣を飛ばす。
「やけくそか?」
飛んできた短剣を素手ではじき返す。
「触りましたね」
「?」
すると、イエユリの弾いた方の手が痺れるような感覚に襲われる。
その痺れが次第に強くなり、感覚は完全に失う。
「その短剣は魔を滅する剣だよ」
「魔を滅する……だと?」
答えたのはサクラだった。
「魔法や魔術、魔物や魔獣などの魔の名を冠するものの攻撃や行動を封じたり消失させたりする。そしてそれらにとっては毒以上のものにしかならない……触れただけでもね」
「……」
正直イエユリにとって一番厄介なのはサクラでもビリンでもなく、メニシアだった。
メニシアの戦闘経験や熟練度によってあの短剣の効果はコントロールされ、発揮されるのだろう。
短剣に触れただけで片手を失ったような状態なのだから、まともに受けたら死ぬ。
イエユリ本人だったらの話だ。
「確かに強力な能力だ……私以外のものだったらだ」
「え?」
メニシアが驚くのも無理はない。
動かないはずの腕が何事もなかったかのように動き出したからだ。
「確かに私は魔術師、ですが悪魔の力とあの方から授かった能力により強制的に無効化できるようになる」
「またかよ、あの方あの方って」
サクラは何となくわかっているようだが、何も知らないビリンとメニシアは「あの方」が何者なのかもピンと来ていない。
「その野郎のせいでお前は変わったのか、最初からなのかどっちだ、イエユリ」
そもそも、ビリンとイエユリは周りか見ても仲が良く二人は本当に大親友と言えた。
大量虐殺事件が発生した遠征に出発する直前もいつも通りだった。
その間に何かあったのか、それとも今までのが演技だったのか。
少なくともビリンは、今までの関係性が偽りだとは思えなかった。
「……最初からであり、最初からではない、が答えだビリン」
まただ。
先程から曖昧な回答しか返ってこない。
答えも偽りなのか、その曖昧さが答えなのか。
だが、考える暇があったら体を動かせと言わんばかりに、サクラが攻撃を仕掛ける。
その攻撃をイエユリは、本来の獲物であるレイピアで防ぐ。
両手から右手を離し、聖剣に手を伸ばす。
左手に刀、右手に聖剣の二刀流で攻撃の嵐を生みだす。
(……エンチャントか)
刀の二刀流はまだわかるが、刀より何倍も重量のある聖剣を少女が軽々しく振るっていることに驚きがあったが、先程のエンチャントを見れば納得がいった。
魔術師からして見ればこの中で面倒なのはメニシアだが、サクラも十分に面倒臭い。
単純な実力だとこの中だとサクラが抜きんでているだろう。
それに加えてビリンの神楯エイジスがある。
なんだかんだで攻守のバランスが良いメンバーだ。
だが攻撃はサクラだけではない。
「うおおおおおお!」
神楯エイジスに加えて槍も装備したビリンが突撃する。
サクラの攻撃を防ぐので精一杯だったイエユリは、複数の剣を召喚し盾代わりにして槍の攻撃を受け止める。
しかし、この二人の攻撃で終わるはずもなかった。
「しまった」
メニシアの短剣がまだある。
掠るだけでも魔には凄まじい効力を発揮する。
イエユリは、その特異な体質のおかげで掠るだけまたは浅い一撃ならまだ何とかなった。
今回はそうではなかった。
油断をしていたわけではないが、二人の攻撃に気を取られて一瞬の間にメニシアのことが頭から離れていた。
結果、短剣を避けることも防御体制も取ることが出来ず、ストレートに直撃をする。
短剣はイエユリの左わき腹に刺さり、そして光の粒子となり消滅し、メニシアの元に戻った。
「ぐっ……!」
そして、変化は訪れる。
「あ……あぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁああぁぁ」
イエユリが突如謎の奇声を発しだした。
その姿はまるで苦しんでいるようだ。
「……どうなってやがる」
イエユリの謎の苦しみに発している奇声にも驚いているビリンだが、それ以上にイエユリの今の状態に驚きを隠しきれない。
苦しみ、奇声を発したかと思えば、薄っすらと白く輝きだしたかと思えば、イエユリの体から幽体のような白い人型の何かが現れる。
そして今にも分離しようとしているようだった。
「ぁぁぁあぁああぁぁぁぁぁああぁぁ――」
奇声が止むと同時に幽体とイエユリ本体が分裂した。




