第2話 疑惑の正義⑨
「ジャスティス・アロー!」
イエユリの頭上に展開された魔法陣から、正義とは名ばかりの無数の禍々しい光の矢がサクラたちに向けて降り注ぐ。
「クソッ」
ビリンは大楯を展開。大楯の能力により守備範囲が大幅に広がり余裕で光の矢を防ぐ。
「その大楯、以前の時といい忌々しいですね」
「その言葉、そっくりそのまま返すぜ、ジャスティス・アローが魔法だなんて聞いちゃいねぇからな」
「魔法じゃないんですか?」
イエユリは剣の名手で、様々な種類の剣の扱いに長けている。
剣士であるので接近戦を得意としており、遠距離戦は苦手なのだが、剣を矢に見立てることで弓兵のような戦法を取れるようにして、遠距離戦を克服した。
ビリンの知っている「ジャスティス・アロー」は、予め魔術が付与された魔剣型のレイピアを弓矢のようにして放つ技。様々な属性があるので、どのような敵にも対応が出来る。
「そちらもジャスティス・アローですが、今のもジャスティス・アローですよ。獲物を媒介にしているかどうかの違いです」
「正義という割には、人の話を全く聞こうとしない頭の固い機械人形みたいだけどね」
「私が機械人形? まぁ変わりませんよ。法の名のもとにビリンを含め共犯者であるあなた方も処刑するつもりなので」
多分このままだと話が平行線をたどる。
そうなると死合いになってしまう。
イエユリの誤解も解けないし、何なら余計にその誤解が解けなくなるだろう。
そもそもビリンの目的はイエユリを殺すことではない。
女王に会い、話を聞くためにここまで来た。
正直ここで無駄な消費をしたくはない。
だが――。
「ねぇビリン」
「なんだ」
「女王は本当にここにいるの?」
サクラにはいくつかの疑問があった。
そのうちの一つが、女王の存在だ。
ビリンの話を聞いた限り、ビリンが大罪人に仕立て上げられた時も、今回の潜入作戦、さらに戦闘音。
女王が出てこないのはおかしい。
仮に寝ているのなら、今ので起き上がり出てくる可能性もある。
ギルドに聞いた時も、圧迫政策は女王直接の言葉ではなく、その時もイエユリが女王の代理として声明を出した。
「何が言いたい」
「女王が幽閉されている、もしくは殺されているという可能性もあるんじゃない?」
「……っ」
ビリンも幽閉されている可能性を考えていた。
この城なのか、はたまた別の場所なのか。
加えて最悪な状況も考えた。
だが、現状イエユリの悪魔のような姿を見たら、その最悪な可能性が現実味を帯びてきた。
「別に隠し続けた所でそこの娘に近く気づかれるでしょうからネタばらしでもしましょう」
「ネタばらし?」
「女王は健在ですよ。まぁ、そこの娘の言う通り監禁していますが」
「貴様! 陛下に対して……」
「臣下をあまりにも信用している、チョロいものですね。だからこのような事態を招く」
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!」
ビリンは大楯を捨て、槍に持ち替えイエユリに飛び掛かる。
「待って」
飛び掛かろうとするビリンを、サクラは魔法の鎖で思いっきり縛り止める。
「何しやがる!」
「だからちょっと待って」
「うるせぇ! あいつはやってはいけないことをやりやがった!」
「わかってる、でもこのまま行けばまず間違いなくあなたは死んでいるよ」
よく見ると、イエユリの足元の周りには模様が浮かび上がっている。
先程のジャスティス・アローが放たれた魔法陣の模様。
つまり、あのままだと床からのジャスティス・アローで致命傷を負っていただろう。
「女王が生きているのなら助け出せばいいだけの話だ」
「……確かに、すまない」
「別に……これから僕は攻撃に出るけど、あなたはどうする」
「……楯の能力で援護する。どの方位からの攻撃も防げる」
大楯の能力は巨大なシールドを張るだけでも、物理攻撃を防ぎ吸収し、弱体化させるだけでもない。
シールドを遠隔操作、自動防御、さらにはシールドをを防御対象者に纏わせることも可能だ。
「じゃあ支援よろしくね」
刀を構え直し、走り出す。
無論、床トラップも見えている。ビリンのシールドにサクラの観察力があれば、まず受けることはない。
一瞬にして魔法陣手前まで行き、そして跳躍する。
「地から離れた所でジャスティス・アローが起動しなわけではない」
「誰が逃げるって言った? 偽物さん」
(偽物さん?)
違和感を覚えたビリンだが、今は戦闘中だ。
少しの油断が敗北に繋がる。
「神楯エイジスよ、彼の者を守れ!」
神楯エイジス。ビリンの大楯の名だ。
名の通り、とある神が使用した楯でレジェンドウェポンの一つで、唯一無二の存在。
これをビリンは修行のために一人で訪れたとある洞窟の最奥に住まう大型魔獣を撃破したことによって獲得した。
当時のビリンは、大型魔獣を撃破できたこと自体が軌跡であると述べており、神楯エイジスも最初は高レア防具の一つとしか見ていなかった。
レジェンドウェポンであると判明したのは、洞窟の近くにある小さな村の信頼できる鍛冶師兼鑑定士の親方に見せた時だ。
自分の知識と上限レベルの鑑定スキルを照合した結果判明した。
能力もその名に恥じていないので、ビリンは納得がいった。
そして、その能力は対イエユリ戦でも発揮している。
地を踏まなくてもジャスティス・アローは発動した。
しかし、神楯エイジスによりその光矢はサクラに触れた瞬間弾かれた。
「厄介な」
「エンチャント……俊敏」
サクラはエンチャントで俊敏性を上げ、光速のごとくイエユリの目の前に現れる。
普段だったら刀や聖剣に攻撃力を上げるエンチャントを施すのだが、今回は瞬発力がものを言うのではないかと判断したサクラは、自身にエンチャント、俊敏性を上げた。
そしてそれは正解だった。
刃先を横に水平にして構える。
「六道神流・三ノ太刀……」
「しまっ――」
刀身が赤黒き炎で染まる。
その炎は時間経過とともに激しさを増す。
最大になった激しき炎を刃先に凝縮させる。
「修羅・一閃――」
赤黒き炎が凝縮された刃の鋭さは何ものも溶かし、空気をも切り裂く。
それをまともに受けたイエユリの体は、回避行動も間に合わず無惨にも胴体を二つに切り裂かれた。




