第2話 疑惑の正義⑧
「着いたぞ」
日付がもうじき変わろうとする時間帯。
真実を知るために女王のいる城に潜入する。
潜入と言っているので、真正面から突入するわけではない。
今の戦力だと、正面突破も不可能ではないが、目的地に到着した場合疲労が残り、もしもの時に備えられない。
早いに越したことはないので、日中に準備を済ませて当日の日付が変わる前後で作戦を決行しようということになった。
そして問題の潜入場所は、ファルカスに複数存在する地下水路の入り口の一つがある職人エリア。
他のエリアの地下水路からでも城に潜入すること自体は可能だ。
ビリン曰く、職人エリア側の地下水路は以前魔物が出現したということで、それこそビリン率いる衛兵隊がその魔物を撃破した。
その後、万が一の危険性を考え基本的には立ち入り禁止区域に設定された。
従って、ここから敵が侵入してくるという考えをあちら側は持ち合わせていない。
加えて、職人エリア側が一番城までの道のりが複雑となっている。
魔物撃破のみならず、その後数回見回り兼調査に訪れているビリンは、その道のりを把握している。
「私が先頭で、続いてメニシア、サクラが続くという形で良いか」
先程のサクラとの戦闘で守備力の高さを見せつけたビリン。
エンチャントで威力を上げた聖剣の一撃を防いでいるのだ。並大抵の攻撃を防ぐことが可能だろう。
そして、今回のメンバーの中で戦闘経験が一番ないメニシア(とクオン)を守る様にしてサクラを後方に配置する。
魔法によって遠距離からの攻撃が可能であるということで援護射撃要因で、なおかつ魔法による感知で背後からの奇襲対策の意味もある。
「・・・・・・私、場違いでしょうか、クオン」
「ニャー(そんなことないよ)」
「・・・・・・そうですかね」
「ニャ―(そうだよ)」
(……あいつら、なんで会話が成立しているんだ?)
「……」
疑問を浮かべるビリン。少しの嫉妬を覚えるサクラ。
ビリンの言う通り、予想以上に道が入り組んでおり、サクラたちだけだったら絶対に迷子になっていただろう。
トラブルもなく進んで行き、あと少しで目的地にたどり着く。
城に潜入出来たら、サクラの魔法を使い透明化に気配を消して女王の元へ行く。
ただ、女王の元には間違いなくイエユリがいる。
イエユリが何の対策もしていないとは考えられない。
最大の警戒をするとともに、サクラたちは目的地に辿り着く。
そこは何の変哲もない水路の途中にある一つの扉。
この先を進むと城の倉庫に繋がっている。
警戒しつつ一行は中に入り、倉庫に向かう。
そう時間も経たないうちに倉庫に着いた。
「誰もいないですね」
「普段人なんて来ないからな」
倉庫に入る直前に魔法を使用し、一行以外には見えていないし気配も感じられない。
「倉庫に来たのは良いけど、どこから出るの」
「正面から出る、この時間なら人はいない」
念のために人の気配があるかを確認し、ビリンの言う通り人がいない事を確認した。
慎重に扉を開き、警戒を緩めることなく倉庫から出る。
人の気配も無ければ音の一つもない。
圧倒的な静けさが不気味さを増長させている。
「このまま女王の間まで行く。いつでも戦闘態勢に入れるよう武器は装備しておけ」
ビリンは大楯を、メニシアは短剣、サクラは刀を装備してすぐに女王がいるであろう女王の間に向かう。
女王の間までの道中も不気味なくらい何も無いが、無駄な消費が無いのはありがたい。
特に障害もなく女王の間の入り口前に着く。
「……入るぞ」
警戒しつつ女王の間に入る。
ただただ広く、ただただ何も無い。
そもそもこの城に人はいるのか。
まるで廃城のようにさえ思えてくる。
……いや、そんなことはなかった。
「二人とも警戒を緩めないで、来るよ」
「来るって……え?」
女王の間の奥にある玉座を中心に禍々しい魔法陣が展開される。
光の粒子が集まり、一人の人間が召喚される。
「……イエユリ」
「大罪人がのこのこと戻ってくるとは……余計な手間が省かれたことに感謝する、ビリン」
正体はビリンの大親友だったイエユリその人だった。
だが、ビリンは一つの疑問が生じる。
「イエユリ……どういうことだ」
「どうとは?」
「何でてめぇが魔法陣から出て来てんだよ!」
イエユリは魔術師ではなく、ビリンと同じく騎士だ。
違うのはビリンが槍に対し、イエユリは剣。
仮に魔術師であるということを隠していたとしても、魔術師が魔法陣を使用することなど聞いたことがない。
正確にはないことはない。
だが、それは小物程度にとどまる。
獣や人、それも自分自身を召喚するというのは、魔法使いでないと不可能な領域だ。
「簡単な話だ……私が魔法使いだからだ」
「なっ!?」
「で、でも……」
「……」
ビリンとメニシア両者ともに驚く。
もっともそれぞれ違う理由ではあるが。
メニシアはサクラの方を見る。
「ねぇ、イエユリとかいう人」
「なにかな、共犯者殿」
「共犯者か……強ち間違っていないな」
微笑むサクラ。
「あなたは本当に魔法使いなの?」
「そうですよ、それがなにか」
「全く魔力を感じないんだけど」
「あなたがただの人間だからなのではないですか?」
魔法使いだったら、魔術師とは違う特有の魔力を持っている。
同じ魔法使いだったらそれを感じることが出来る。
魔術師も魔力を感じること自体可能だが、生粋の魔法使いではないのでその違いを見分けることはほぼ不可能だ。
「ただの人間だったらの話でしょ」
「ただの人間ではないように聞こえますが」
「ただの人間でなかったら魔力を感じることが出来るのでしょ」
「……つまり」
サクラの獲物を見たら誰もが剣士に見えるだろう。
しかし獲物は刀や聖剣だけではない。
魔法杖をあまり使用せず、そもそも使用頻度も少ないので分かりづらいが、サクラも魔法使いだ。
イエユリが魔法使いであるのなら、サクラの魔力をとっくに感じ取り、その正体を把握している筈だ。
「もう一度聞くけど、あなたは本当に魔法使い?」
「……」
黙り込むイエユリに対してサクラはさらに責め立てる。
「まぁ、世界は広いからあなたのような魔法使いはいるのかもしれない……が、僕とあの女以外の魔法使いがいるなんて、この大陸では聞いたことないんだけど」
「あまり詳しくないけど、魔法使いって少ないのか?」
「私も聞いたサクラさんから聞いた話ですけど、魔女や魔法使いは絶滅危惧種並みに少ないようですよ」
(まぁ、僕とあの女以外の魔法使いがこの大陸にいるかいないかは知らないけどね)
メニシアが旅に加わる前から各地を旅してまわっていたサクラでも流石に大陸・世界の果てまでは行っていない。
だから他にも同類がいるのかもしれない……だからカマをかけてみた。
これが正解だった。
「ハッ、魔女がいることを想定できなかった自分が許せないな」
「じゃあ認めるんだ、自分が魔法使いではないことを」
「そうですね、魔法使いではないですね……魔術師ではありますが」
魔法杖を召喚する。
「魔術師でありますが、あのお方のおかげで魔法使い並みに強化されている」
瞬間、イエユリを禍々しい光が覆う。
騎士姿だったのが、光が消えるとローブを纏った怪しげな姿へ変化した。
フードで隠された頭には、まるで悪魔のような角が生えていた。
「私はイエユリ、『冥府の誘い』の七司教が一人」
「冥府の誘い……アビルもそんなこと言っていたな」
「アビルを知っているのですか」
「知っているも何も最終的に自滅したけどね、七司教というのは初めて聞いたけど」
「彼も七司教ですよ、言葉足らずが彼の欠点の一つであり、七司教最弱でもありますが」
「サクラ、メニシア構えろ」
「アビルと同じと思わないことですね」
イエユリの頭上には無数もの魔法陣が展開された。




