第2話 疑惑の正義⑦
ビリンを連れてホテルに戻った一行。
国民からの疑いの目は無いにしろ、ファルカス政府から指名手配されている状態なので慎重に行動した。
「音声遮断」
部屋に入ると、外部に音が漏れないように部屋を魔法で防音を施した。
さらに部屋に盗聴器のようなものが無いかを確認。
そして魔法で妨害電波を流し、盗聴器を潰すという徹底ぶり。
幸い盗聴器らしきものはなかった。
仮に壁の中に仕掛けられたところで妨害電波が流れている以上盗聴されることはない。
「それで、サクラとメニシアと言ったか」
「はい、この子はクオンです」
「にゃ~」
「それは聞いてないんだがっておい」
クオンはビリンに近づくと膝の上に乗る。
「やっぱり君は聞いていた通りの人なんだね」
「何が」
「聞く人聞く人みんなビリンさんを良く言っていました。とても信頼されているのですね」
「う、うるさい……はずいこと言うな」
顔を赤らめた。
「クオンは人を見る目が物凄く良い。だから人が良い人には物凄く懐くけどそうでない人は敵対心剥き出しになるから」
「そうか、それは……ありがとう」
先程の謝罪といい、急に態度が丸くなり素直になった、そう思うサクラとメニシア。
「話がズレたが、お前らは私を捕まえるじゃなくて保護をするってそれはギルドの依頼か?」
「はい」
メニシアは一連の流れを説明した。
ビリンは顔一つ変えずにメニシアの説明を聞く。
「……そうか、やっぱそうだよな。大量殺人事件の犯人か」
「ギルドや町の人はあなたは無実であると信じて疑っていないのですが」
「その通りだ、私は無実だ」
「ビリンにとって酷かもしれないけど、当時のことを聞いても?」
「あぁ――」
それは数ヵ月前にさかのぼる。
ビリンが衛兵で、一部隊を率いていた時期だ。
その部隊は、ファルカスの女王直属の部隊であった。
とある日のこと、ビリンの部隊は演習の為にファルカスからそう遠くない湖畔に訪れていた。
二泊三日を予定しており、演習も順調に行われていた。
二日目の夜、最悪の事件が起きた。
この日は演習以前からの疲労が重なり、ビリンは一足先に就寝していた。
日付が変わる前後にふと目を覚ましたビリンは、一気に覚醒した。
就寝場所に、ビリン以外誰一人いなかったのだ。
何事かと思い、起きて就寝場所を出てみんながいるであろう広場に向かった。
広場に着くと、最悪な光景が広がっていた。
部隊の者達は、ビリンを除き全員が無惨に殺されていた。
ビリンは戸惑い混乱しかけたが、すぐに切り替えてファルカス政府と女王に急ぎ報告。
そうかからずに調査団が派遣され、ビリンは命令に従い女王の元へ戻った。
ファルカスに戻り、城に入り女王のいる元へ到着したビリンは、そこで衝撃を受ける。
一つは、女王の間には数人いるが、当の女王がいなかったこと。今回の一件で大きくショックを受けて寝込んでしまったこと。
それはまだわかる。
だが、もう一つの衝撃は女王の側近である左右大臣ではなく女王に代わっていたのが、ビリンの大親友であり同じ衛兵で別部隊を率いているイエユリだった。
さらにそれらを超える衝撃がビリンを襲った。
「大罪人ビリン! 自身の部隊の全衛兵を虐殺した罪により即刻死刑に処す!」
衝撃の連続でなかなかついていけていないビリン。
「ま、まて! 私は無実だし、第一お前にその権限もそもそもこの国に死刑制度など無い筈だ!」
「黙りなさい、大罪人」
イエユリの手元に謎の杖が召喚された。
魔術師が使う魔法杖だろうか。
だが、ビリンは彼女が魔術を使う所を見たことがない。
そして杖の先端がビリンに向けられ、先端が光りだした。
ビリンはその光を見て「あれはまずい」と本能がそう叫んでいた。
イエユリは、何のためらいもなくビリンに対して謎の技を放った。
その速度は容赦がなく、すぐにビリンの目の前に――その一瞬でビリンは、以前一人で探索した洞窟奥で入手した大楯を召喚し、イエユリの攻撃を防いだ。
「何だと!?」
イエユリが驚くのは当然だ。
何故ならイエユリを含めビリン以外の誰もが、この大楯の存在を知らなかったからだ。
ビリンが誰にも言わなかったというのもあるが、当のビリンも驚いていた。
何故なら大楯はビリンの隠れ家に置いておいていたからだ。
無意識のうちに召還をしていたようだ。
まるで最初から大楯の使い方を知っていたかのように。
驚きはしたがすぐに切り替えて、これをチャンスと捉える。
大楯を装備して、常に持ち歩いている特性の閃光弾を前方に投げつける。
着弾した瞬間、強烈な光は女王の間全体を染めた。
ビリン以外の者は、対策も何も無いのでもろに光を浴びて視界が封じられる。
開発者のビリンはもちろん対策をしているので唯一動ける。
その隙に女王の間を出て、城からの脱出を試みる。
「……っ! 大罪人を逃すな!」
光が収まらない中、イエユリは指示を出すが、光が収まったところで手遅れだ。
あらゆる動線を知り尽くしているビリンはあっという間に城から脱出し、誰も知り得ない隠れ家に避難する。
「以降はお前たちが知っている通り、逃亡生活が始まった訳だ」
「「……」」
沈黙が流れる。
「おいおい、同情とかは止してくれよ」
「ビリンさんは気にしていないのですか?」
「そんなわけないだろ。半ば無理矢理辞めさせられたのは腹が立つし、この件と言い虐殺事件と言い全く納得なんていってない」
「でもどこかスッキリとしたような雰囲気を感じます」
「まぁ、衛兵に未練があるかないかと聞かれたら正直ないな、そもそも柄じゃないしな」
ビリンが衛兵になったのは、女王のスカウトだ。
そのスカウト、ましては女王直々でなかったら速攻で断っていた。
「一つ聞きたいんだけど、何で義賊みたいなことをやっていたの?」
衛兵を追われ、逃亡生活をすることになったビリンは、逃亡生活とは無縁の貧しいものに金をばら撒く義賊として行動していた。
「なんか腹立ったから国の奴らを困らせてやろうかなって思ったから」
返答内容若干子どもじみてた。
「というのは半分嘘で」
(半分は本当なのですね)
「私が追われてからすぐに圧迫政治が始まったんだよ」
要は税金の徴収割合が一気に多くなった。
結果裕福ではない層が一気に貧困化が加速していった。
もちろん、このことに対して国民が黙っている筈がなく反対運動なども行われていた。
しかし、それらはすぐに静まることとなる。
黙らされたのだ、暴力という形で。
そして誰も逆らうことが出来ず、ファルカスは独裁国家に変貌してしまった。
「でも、私たちから見たらそのようには見えませんでしたけど」
「そりゃそうだ、なんせ何事もなかったかのように振る舞えって国から脅されているからな」
横暴が過ぎる。
そして完璧なまでの印象操作。
「義賊って言うのは」
「今回の一件で被害被った人たちの助けのためだな」
「でもばれたら受け取った人たちがただでは済まないんじゃないの」
「別にそのままばら撒いている訳じゃない、流石にそこは工夫している」
これまでの事情が語られ、話をまとめていく。
「僕たちの目的はビリンの保護。でも当の本人の目的は真実を知ること、これであってる?」
「あぁ」
ビリンは直接女王から話を聞き、真実を知りたい。
親友のイエユリも含めてなぜこのような過程を辿っているのか、すべてを知りたい。
「それで一人で城に潜入すると」
「お前らも来るのか」
「いや……と言いたいところだけど、僕は行くかな」
「私はサクラさんが行くのならですけど、そもそもサクラさんは何故行くのですか?」
「ビリンの話を聞いて気になることがあったから」
「そうですか、ではビリンさんと共に行動すると」
「それはその人次第じゃない? だって僕たちのこと信用していないみたいだし」
「別に信用していない訳じゃない」
「でも完全に信用している訳じゃないでしょ」
「……」
ビリンが話せることは全部話したつもりだ。
しかし、親友の件もあって実のところ人のことを完全に信用することが出来なくなった。
「安心しなよ、ビリン。僕も別に人を完全に信用していないから」
「それは……その少年のこともか」
「うん、と言ってもクオンに次いで信用も信頼もしている」
「……」
ビリンはメニシアの方を見る。
それに気付いたメニシア。
「大丈夫ですよ、それを重々承知でサクラさんの旅に同行していますから」
「物好きだな」
メニシアがサクラと旅をしている理由は「心配だからである」と「心を開いてもらう」という二つ。
確かに物好きというか、変な理由かもしれない。
「まぁいい、だったらよろしく頼む。サクラにメニシア」
「ギルドみたいに金をとるということはしないから安心して良いよ」
「それはギルドに偏見があり過ぎないか」
こうしてサクラとメニシア、そしてビリンは協力して城へと潜入することとなる。




