第2話 疑惑の正義④
早朝。
サクラたちはギルドの目の前にいた。
昨日の依頼を引き受けるかどうかの返事をしに来た。
特に躊躇も何も無いので、すぐにギルド内に入る。
早朝とはいえ人が全くいないと言う訳ではない。
見える範囲で職員が三人、冒険者らしき人が十人ほど。
中に入るとサクラは昨日の男を探す。
その人はすぐに見つかった。
ギルドの受付に座って事務作業をしていた。
「どうも」
サクラはすぐに男の元に行き、メニシアとクオンはあとを付いて行く。
「おはようござ……サクラさん! それにメニシアさんもようこそ」
「昨日の返事をしに来た」
「そうですか、では場所を移しましょう」
そう言って一階の奥にある小さい会議室を案内する。
会議室に入ると、男に座るよう促される。
正直受付で完結してほしいと思っていたサクラだった。
「それではお聞かせください、依頼を引き受けるのかどうかを」
「引き受ける。けど一つ聞かせて」
「何でしょうか」
「なぜ僕に依頼をしたのか、ここの冒険者に頼めなかったの?」
「確かにそこは思いますよね」
ギルドに来る依頼というのは基本的にはギルドに所属している冒険者が引き受ける。
外部の者も依頼をこなすことはあるが、それでも冒険者が同伴していることが多い。
完全に外部に人間に依頼をすること自体珍しい。
というより過去には無い。
「サクラさんの言う通り、どんな高ランクの依頼が来ても所属冒険者で対応します」
「それに捕縛をするのならここにその専門さんがいたよね」
「あぁ。カルラさんですか。彼女は現在大きめの依頼を引き受けていて長期的にファルカスを離れています」
カルラという女性は最高ランクのSの一つ下のAランク冒険者であり、ファルカスのギルドにおいてトップ冒険者の一人だ。
サクラの言う通りカルラは捕縛などの拘束技を専門としている。
本来は獣や魔獣と言った敵の行動を押さえるというサポート系の技なのだが、それらの技を応用して、盗人などの人を拘束している。
結果的に彼女にそういう盗人や犯罪者の捕縛するという依頼が舞い込んでくる。
「カルラさん以外の高ランク冒険者の方々も同様に別の依頼を引き受けて現在ファルカスにはいないです。ただ、仮にいたとしてもサクラさんに依頼をするでしょう」
「なぜ?」
「そこで依頼の話になってくるのですが、捕縛対象の義賊を捕縛ではなく保護をしていただきたいのです」
「保護?」
ここでサクラたちは話が分からなくなってきた。
国からの依頼は捕縛。
だがギルドは保護。
「それだと国からの依頼内容と違いますけど」
「そうですね、国の依頼ではあるのですが、表向きはそれで通してほしいのです」
「ますますわからなくなるんだけど」
「要は国による捕縛依頼を我らギルドによる保護依頼に上書きをするということです」
「上書き……なぜそのようなことを?」
「実はというとギルドは国のこの依頼に対して不信感を抱いております」
「というと」
「今回の捕縛対象である元衛兵、名はビリンと申します。彼女は少々乱暴なところがありますが、国のトップである女王に最も愛され信頼されています。そんな彼女がとある事件において無実の罪を着せられました」
「「とある事件?」」
それは、衛兵大量虐殺事件。
今回の依頼対象であるビリンは、数ある衛兵部隊の一つを任されていた。
そんな彼女の部隊は、とある日の遠征においてほぼ壊滅状態に陥った。
一人を残して皆殺されていた。
唯一の生き残りが彼女だった。
そして彼女は、この事件の犯人として容疑されてしまった。
無論無実だと訴えた。
しかし、彼女の言い分は通らなかった。
それだけではなく、即死刑という決断がなされた。
それに納得がいかないビリンは、城から脱出し、逃亡生活が始まった。
「つまり、捕縛の理由は虐殺の容疑によるものですか?」
「義賊は何なの?」
「確かにメインは虐殺の方です。しかし、ビリンさんの性格なのかどうかはわかりませんが、逃亡と同時に貧しい人を助ける義賊としても活動し始めたので、強ち間違ってはいないのですが」
「そもそもそのビリンという人が義賊として活動するくらい貧富の差があるの?」
「そうですね、数ヶ月ほど前からですかね。しかも急にですよ、貧しい人々に対する国の扱いが酷くなったのは」
これに対するデモがあったようだが、すぐに収束されたらしい。
それも半ば強引に。
何を言っても国は無視を決め込む。
それも相まって、女神と呼ばれていた女王は、一部では悪魔と呼ばれるようになった。
「あと一つ。何で虐殺の容疑をかけられている人を保護するの」
「実のところ、ギルドはビリンさんは無実の罪を着せられているのではないかと考えております」
ビリンは女王に最も愛され、信頼されている。
その理由は、女王の持つ魔眼「真実」にある。
能力はその名の通り、対象者の「真実」を見ること。
最高位の魔法で偽らない限りは、その者の「真実」を見極められる。
そもそも偽る程の最高位魔法を使えるものはこの世に存在しない。
実質ありとあらゆる「真実」を見ることが出来る。
ビリンに対する信頼はそこから来ている。
それはファルカスの民もそうだ。
乱暴なところはあるが、正義を体現したような人で悪を許さない。
そして不器用ながら人や動物などにも優しく接する。
そんな彼女が虐殺をするはずがない。
これがギルドの見解だ。
今回のギルド側の依頼内容である保護の理由は、事件の真相を聞くこと。そして真相究明に乗り出すことだ。
「ということはギルドはその大量虐殺事件について何も調査していないの?」
「いえ、調査をしようとしました。しかし、何故かその許可が降りないのです。それに下手に行動するとギルドに制限が設けられてしまうという理由もあってなかなか行動に移せないのです」
「そう……要はここに連れてくればいいの?」
「はい。場合によってはその場で聞きだして貰って構いません。その後の行動もサクラさんたちにお任せします」
「……丸投げじゃないですよね」
「強ち間違いじゃないですね……如何せん、いて欲しい人たちは皆すでに別の依頼を引き受けてしまっていますからね。まぁ、仮にいたとしても結果的にサクラさんに頼みますよ」
「ある意味行動制限があるから?」
「はい」
サクラとメニシアはギルドに所属していない。
ギルドがサクラ側に依頼を出しても公式ではない。
公式ではない以上記録には残らない。
加えてギルドに所属していないので国からの制限もかけられない。
要はギルドからサクラに対する依頼はギルド側にはデメリットがあまりない。
逆にさくらたちにはあまりメリットがない。
「……改めて、その依頼引き受ける」
メニシアの良いのかという問いに報酬次第と答える。
らしい答えで少しだけ苦笑いするメニシア。
「まぁそうでしょうね。もちろん報酬は弾みます、お願いしている立場なので」
男は、一緒に持って来ていた資料を開き、概要を伝える。
逃亡している義賊基、大量虐殺事件重要参考人であるビリンを捕縛するのではなく、ギルドに保護する。
現在は早朝ということもあってこの後すぐにビリンに関する情報収集を行い、早ければ今晩からビリン捜索を始める。
一応現段階における内容のまとめだ。




