閑話 分岐点③~乗り越えた先に~
「おや? お戻りになられましたか」
サクラたちが洞窟を出ると、老人が待っていた。
「それで、何かわかりましたか?」
「進んだ先の少し開けた場所に魔獣が現れた以外は特に何も無かった」
サクラは半分だけ嘘をついた。
謎の突風については何も言わなかった。
老人は、サクラたちが洞窟に入った後すぐにギルドに連絡をした。
しかし、人手不足ですぐに人を派遣できないという。
それから洞窟の目の前に戻ってきて、しばらくしてサクラたちが戻って来た。
「ところで、あなたに聞きたいことがあるのだけど」
「何でしょうか?」
「あなたがここにいたタイミングで誰か洞窟に入った?」
突風のことが気になっていたサクラは、直接突風という単語は使わず、遠回しに老人に質問した。
「いえ、誰も来なかったですよ。私がここを離れていた時に誰か来た可能性はありますが、どうしましたか?」
「誰かいたような気がしただけ。今のを聞いたら気のせいのようだけど」
完全に納得していると言う訳ではない。
老人の話の通りだったら、洞窟自体が罠で、魔獣のように突風も召喚されたという可能性もある。
可能性と言うなら、老人にも同じことが言えるのだが……。
(証拠も何も無いし、疑うに疑い辛いな)
様々な可能性を頭に入れつつ会話は進行していく。
突如現れたという洞窟は、消える気配が全くない。
最初に見た印象通り、最初からこの場にあったような感じだ。
老人がギルドに連絡したことによって、後日には調査されるだろう。
「それで、おじいさんはこの後どうするのですか?」
「このまま家に帰ります。年も年なので疲れましたので」
近くの町のギルドと言っても、目と鼻の先と言う訳ではない。
数分くらいは歩く。
それを往復しているので、老人にとっては応えるだろう。
この後も数言会話のやり取りをした後、老人とは別れた。
……老人と別れるまで、クオンがほんの少し警戒していたような気がしたが、考え過ぎだろう。
老人と別れてから数時間後、既に日が沈みあたりが暗くなっていた。
サクラたちは、ここで野営をすることにした。
エリアスの町を出てからずっと野営だ。
老人の行った町は、サクラたちの目的地より近いが反対方向だ。
その町には行かず、そのまま目的地の町に向かうことにした。
火を熾した後は、各々火を囲うようにして座る。
「やっぱり正解だった」
突如そう呟いたサクラ。どこか安堵しているようにも感じる。
「正解とは?」
「もしあのまま洞窟の奥に進んでいたら、ゆっくりすることが出来なかったなって」
「洞窟に入る前は、経験値が積めるとかで結構ノリノリだったように見えましたよ」
ほんの少しからかうようにして言うメニシア。
「半分間違ってはいないから」
「半分?」
「正直さ、僕も嫌な予感がしたんだよ。あのまま進んだら最悪の場合、死ぬんじゃないかって」
「死ぬって、縁起でもないこと言わないでくださいよ」
エリアスの町で初めて会い、旅を共にするようになって数日しか経っていない。
それでも「死」という単語が、しかも言った本人に対して使われたら本当に起きてしまうのではないかと思ってしまう。
「言霊」という言葉があるくらいだ。
「同じだったんだよ、夢を見た時の感覚と」
「夢って確か……」
サクラの言う夢とは、とある城の広間で、サクラの復讐相手である魔女と戦い、敗れ殺されるという夢だ。
その夢から覚めた時、いつも本当に殺されたのではないかという感覚に襲われる。
洞窟にいた時もこれと似た感覚があった。
「もちろん、何も無かったかもしれないけどね」
「そうですよ、だからあまり死ぬなんて言わないでくださいよ。現実で起きてしまうかもしれないんですから」
「……なんかごめん」
「わかればいいんです! ね、クオン」
「ニャ―」
メニシアだけでなく、クオンにも説教されたような気になるサクラ。
その後も何気ないやり取りをし、翌日も早いので各々眠りにつく。
翌日。
「では、行きましょうか」
「うん」
後始末を終え、準備も整った。
いつでも旅を再開できる状態だ。
「もう一度確認しますが、次の目的は……」
「水の都ファルカス」
水の都ファルカス。
エリアスの何倍もの広さを誇る大都市。
海に面しているので海産物が盛んだ。
もちろん、海産物以外にも有名なのはたくさんある。
そして……。
「二日足らずで到着すると思うよ」
「ということは二日間野宿が確定ということですよね……お風呂入りたいです」
「水浴びでも十分だと思うけど」
「それ、女の子のセリフですか……と言っても何年も旅をしていれば慣れますよね」
「うん」
「はぁ、行きますか」
改めて価値観の違い(ほんの少し)がわかったところでファルカスへと向かう。
とある日の夜。
「いたぞ! 捕まえろ!」
「……っ!」
大盾を背負い、ローブを纏うその人は、複数の衛兵に見つかり逃走している。
衛兵は、捕まえるどころか、段々と距離が離れていく。
「何て奴だ……」
「あんな馬鹿でかい盾を背負っているのになんという速さだ」
衛兵たちの言う通り、重いはずの大盾が足枷になるどころか、常人には出しえないであろう速度で走り、そして衛兵たちを振り切る。
「はぁ、はぁ、はぁ」
さすがに大盾を背負っているので、通常の息切れとは比べ物にならない。
たまらずその場に座り込む
「はぁ、はぁ、はぁ……鎧とは比べ物にならないな。それもそうか」
まだ回復していないが、その人は立ち上がる。
「やることはやった、後は恵みにでも行くか」
そう行って路地裏の闇へと消えていった。




