閑話 分岐点②~乗り越えた先に~
場所的にはそう遠くなく、すぐに洞窟のある場所に辿り着いた。
「ここが洞窟ですか」
「……最初からあったみたいに馴染んでいるような感じ」
サクラの言う通り、何の変哲もない洞窟。
老人は急に現れたと言っていたが、実際はずっとあったのではないかと思いたくなるくらいに周りに馴染んでいる。
「早速行こうか」
サクラは躊躇なく洞窟に入る。
クオンも後に続く。
「おじいさんは念のためにギルドに連絡をお願いできますか?」
「わかった、伝えておくよ」
メニシアも遅れて洞窟に入る。
洞窟に入ってどのくらい時間が経過したのかわからない。
それなりに進んだが未だ一本道。
旅人にとってありがたいが、同時に気味が悪かった。
もちろん明かりなどないので、サクラが魔法で道を明るく照らす。
老人は、獣の声が聞こえたと言っていたが、コウモリはいたが、獣らしい獣には未だ遭遇していない。
洞窟の奥にいるのか、老人の聞き間違えで本当は獣などいないのか、わからないがとにかく進む。
「何もないですね」
「つまらない……来たの間違いだったかも」
「サクラさんって、やはり戦闘狂だったりします?」
「違う、僕はただ強くなりたいだけ」
本当に何も無いので、ひたすら他愛もない話を続けている。
またしばらく歩き続けると、開けた場所に着いた。
サクラは、その場所全体を明るく照らす。
奥にはまだ先へと続くであろう道がある。
今のところ何も無いが、老人の話を信じるのなら獣がいる可能性がある。
油断は出来ないが、少しの時間を休憩に当てる。
「先ほども言いましたけど、本当に何もないですね」
「やっぱり騙されたのかな」
サクラはどことなく残念そうな顔をする。
「本来だったら喜ばしいことだと思いますが……」
「強くなれる機会を逃した」
サクラが強くなりたいというのに拘るのは、サクラの大切なものを破壊した魔女への復讐。
メニシアもそのことは知っている。だからこそ理解はある。
クオンは、サクラの膝の上で寝ている。
サクラの過去もそうだが、クオンもメニシアにとっては不思議な存在だ。
クオンの存在がなかったら、メニシアはサクラと旅をすることはなかっただろう。
そんなことを考えていると、突如天井に魔法陣が映し出された。
「なんですか!?」
「メニシア構えて!」
そう言ったサクラは既に刀を構えていた。
メニシアも遅れて短剣を構える。
天井に映し出されている魔法陣から、禍々しいオーラを纏った獣が現れた。
「――――――!」
その獣は、オーラだけではなく、姿や声も何もかもが禍々しかった。
「あれが、おじいさんの言っていた獣なのでしょうか?」
「わからない。でも、魔鏡よりはマシだろうけどそれでも強いよ、こいつ」
サクラは足に力を入れる。
「メニシア、前に話した通りでいくから」
「はい!」
メニシアの返事と同時にサクラは、獣に突っ込む。
獣に切りかかるが、獣はサクラの攻撃を余裕で避けた。
避けられる可能性を考えていたサクラは、着物の袖から短剣を即座に出し、それを獣に投げつける。いわゆる暗器というものだ。
さらに三本投げ、それらは全て獣に命中。
投げたのと同時にサクラは、メニシアの横に戻る。
その判断は正解だった。
短剣が命中した瞬間に、獣は口から光線のようなものを発射させた。
光線は、短剣によってなのかサクラたちに命中することはなかった。
「何かわかった?」
「さすがに完全にはわかりませんが、あの姿や攻撃を見て、ただの獣ではなく魔獣ではないかと思います」
魔獣。
悪魔が動物に過剰に魔力を注入したことにより、動物の体が耐え切れず、異形と化した存在。
魔力注入によって、先程の光線のような攻撃を身につけるものもいれば、単純に身体能力が劇的に急上昇したものもいる。
その強さは、ギルドに所属している平均的な強さを持つ冒険者単独では最悪殺される。
三人以上で何とか互角に持ち込めるほどだ。
今回だとクオンを除けば二人だ。
二人だが、この二人においてはハッキリ言って関係ない。
「耐久面はそこそこありそうでしたが、先程の攻撃と言い、あのオーラと言い、魔法と言った魔の概念のものだと思います」
「ということは」
「私の短剣が有効です」
メニシアの短剣は、魔を滅すること。
魔法や魔術の効果、そして魔獣といった存在を消滅させることが出来る。
ただし、現段階では悪魔のような上位存在は消滅させることが出来ず、封印で止まってしまう。
加えて、使用者のメニシアの戦闘経験などが不足していて魔獣でさえ消滅させることはまだ不可能だ。
不可能だが、魔鏡のように弱らせることは出来る。
「サクラさん」
「わかった……縛れ」
サクラの瞳が紫に光り、同時に魔獣の上空四方に魔法陣が出現。
そこから光の鎖が現れて、魔獣の四肢を縛る。
さらに真上にも魔法陣が出現し、そこからも光に鎖が胴体を縛る。
ただ、魔獣の力は想像以上で、強引に引きちぎる。
「……っ!」
サクラは、背に掛けている魔法杖を手に取る。
魔法杖に魔力を注ぎ込み、再び魔法を発動させる。
魔法杖を使い魔法を発動させたことによって、先程の鎖よりさらに強化された鎖が魔獣を縛る。
先程と違い、強引に引きちぎろうとしているが、簡単には突破できない。
「メニシア!」
「わかりました!」
メニシアは、魔獣に目掛けて思いっきり短剣を投げる。
短剣は、魔獣の左前脚に刺さる。
「滅!」
メニシアが唱えると、短剣は即消滅して、メニシアの元に戻る。
同時に魔獣は苦しみ始めた。
短剣の効果によるものだ。魔の付く存在にとっては毒そのものだ。
さらに、メニシアの少しの成長により、魔鏡の時より即効性が高まった。
魔獣が、魔鏡よりも弱いというのもあるが。
魔法杖を構えていたサクラは、背に掛け直して、再度刀を構えて魔獣に突っ込む。
その間、刀に魔力を込めて、魔獣の首を切り落としにかかる。
魔獣は抵抗しようとしたが、鎖の強度が高いので、突破できずにそのままサクラに首を切り落とされる。
首を切り落とされた魔獣は、即座に光となって消滅した。
「何だったのでしょうか、あれは」
「わからないけど、とりあえず先に進もう」
休む間もなく、サクラとメニシアは奥に進んで行く。
……ところが。
「どうしたの、クオン?」
クオンが一歩も動こうとしない。
それどころか、叫ぶようにして二人に鳴く。
何かを訴えているようだ。
「短い付き合いとはいえ、ここまで吠えているところを見たことがないのですが」
「僕だってないよ。似たようなことはあってもここまでは初めて」
クオンは、サクラの袴を入り口に戻させようとするように引っ張る。
「クオンやめて」
サクラは、クオンを引き剝がさそうとするが、クオンはその手から避けて、再度袴を引っ張る。
どうしても先へと進ませたくないようだ。
「ここまでの反応を見せるのですから、この先に何かあるのではないですか?」
「……そうだね」
このままクオン訴えを無視して先へ進んだら、ただでは済まないだろう。
今までの経験からそう考えたサクラ。
さらにもう一つ。過去最大に吠えるように鳴いているので、最悪死が待っているのかもしれない。
進むか戻るか……
「!? ニャ―!」
突如クオンが入り口の方を振り向いた。
「なに……っ!?」
何かを感じたサクラだが、同時に入り口の方から何かが来るのを感じた。
「メニシア、入口方面に短剣を投げて!」
「え?」
「早く!」
「は、はい!」
サクラに言われた通り、短剣を投げる。
投げた瞬間、その何かが姿を現し、すぐに短剣と衝突する。
突風……それが何かの正体だ。
「消滅しただと?」
短剣と衝突した突風は、消滅した。
ただの突風だったら短剣の方が押し返されるはずだ。
押し返されずに消滅したということは、突風の正体は魔術か魔法のどちらかになる。
「何者かの仕業ですよね」
「そうだね」
誰が何のためになのかはわからない。
情報が少なすぎる。
「まるで洞窟の奥へ飛ばそうとしたように感じたけど」
「もしそうだとしたら、本当に何かあるということになりますよね」
ここが一つの分岐点となる。
そんな可能性もある。
引き返すか、そのまま進むか。
「サクラさん」
「なに」
「戻りましょう」
そういう提案が返ってきた。
「この先に何があるのかというのは私も気になります。でも……」
「でも?」
「クオンがここまで主張しているのですから、本当に危ないのかもしれません。それこそ、命にかかわるようなこととか」
「……」
メニシアの言う通り、ここで引き返した方が良いのかもしれない。
未だにクオンも訴え続けている。
しかし、それでも洞窟の奥が気になる。
危険は承知、あの女に繋がるヒントがある可能性もある。
時間にして二十秒も経っていない。
それがまるで数分……いや、数十分くらいの体感だった。
サクラは結論を出す。




