最終話 破壊の魔女⑤
「おかーさんおかーさん」
「なに? サクラ」
「おかーさんはむかし、わるいやつをやっつけたんだよね?」
「うん、お父さんとそのお友達とね」
以前、サクラを寝かす時に、「わるいやつ」……魔王を倒したという話をした。
それ以来、たまにその時の話を振られる時がある。
毎回ほぼ同じ話をしているのだが、サクラは飽きるどころか話す度に興味が増していっている。
「カッコいいなぁ……ぼくもおとーさんやおかーさんみたいになれるかなぁ?」
「なれるわよ、だって私とお父さんの子どもだからね」
「うん!」
この時は本当に幸せだった。
ずっと続けば良かった。
これが、サクラが白い子猫……クオンを拾ってくる数日前のことだった。
そして現在。
結論……悲惨な状況に陥っていた。
禍々しいオーラを纏った破壊の魔女……そのオーラの正体はエンチャントだった。
その状態になってから少しだけ本気を出した破壊の魔女の激しい攻撃が始まった。
最初は拮抗していた。
しかし、すぐにその拮抗が崩壊した。
最初に脱落したのはメニシアだった。
この中で一番厄介な存在だと判断した破壊の魔女の攻撃に耐えることが出来なかったメニシア。
短剣を持っていた右腕は容赦なく切り落とされ、更なる攻撃の衝撃波により壁に吹っ飛ばされた。
瞬間、破壊の魔女によって召喚された無数の刀がメニシアに襲い掛かった。
メニシアは串刺しにされ、即死で終わった。
そして、ここから流れが変わった――。
メニシアの死に激高したサクラは、冷静さを欠いて破壊の魔女に切りに掛かるが、メニシア同様に衝撃波によって吹き飛ばされた。
そのままサクラを……殺さず、次なる標的をクオンに定めた。
メニシア同様に厄介になり得る尊大だと判断したからだ。
ただ、クオンは猫であるがゆえに、その俊敏さによって攻撃が当たらない。
加えて、壁や結界、さらにはエンチャントなども含めた守りにも優れている。
しかし、先程サクラを吹き飛ばしたことによって油断が生じた。
サクラが吹き飛ばされた方に向かおうとするクオンを破壊の魔女は見逃さない。
光弾をクオンに目掛けて発動、光弾は油断していたクオンを直撃した。
俊敏ではあるが、耐久面では脆い。
自身にエンチャント出来るのなら、その耐久性をカバーできるのかもしれない。
油断していたからかは知らないが、光弾を受けたクオンはその場で倒れた。
メニシア、クオンが倒れ、残りはサクラだけとなった。
そのサクラも先程の攻撃と壁に吹き飛ばされぶつかった際の衝撃によるダメージが大きかった。
破壊の魔女に奪われた魔力は回復せず、先程から聖剣に魔力を付与し続けていたため、自身を回復させるほどの魔力を残していなかった。
どのような状況にしろ、破壊の魔女は攻撃を緩めることはなかった。
無数の光弾をサクラに放ち続けた。
それをまともに受け続けたサクラの体はボロボロとなり、床に倒れ伏した。
だが、まだ死んでおらず、今なお立ち上がろうとする。
「……まだわからないのかねぇ。サクラ、お前に勝ち目はないよ」
「だ、だま、れ」
満身創痍のサクラ。
その瞳は未だ諦めていない。
「しょうがない子だねぇ」
破壊の魔女は、壁に無数の刀によって串刺しになっているメニシアのところに行く。
無数の刀の中から一本を抜き取り、再びサクラに近づく。
その間サクラは、体を震わしながら立っていた。
手には聖剣を放さず握っていた。
「全く、誰に似たのかねぇ……あの人か」
サクラの目の前に立つと、刀を容赦なく心臓に突き刺す。
さすがのサクラも、糸が切れたかのように力が一気に抜けて、放さなかった聖剣が床に落ちた。
刀を抜いた瞬間、サクラは何の抵抗もなく地に伏せた。
朦朧としているようだがまだ意識があるようで――。
「なん……で」
声に力など全く感じず、今にも死にそうな状態からボソッと問う。
「何で、か」
一瞬だけ答えるかを考えた。
「そうだねぇ、話したところでお前は死ぬ」
サクラの耳元まで近づき、「契約、だからさ」と呟いた。
「けい……や……」
そこで力尽きた。
意識が完全に消失する直前、朦朧とする視界には、倒れているクオンが光り輝き始めた……ように見えたが、それを考える力など既に無く、サクラの人生の幕が閉じた。
神様は悪魔だ――。
何度考えたことか。
僕が一体何をしたのか。
僕はただ、お父さんとお母さん、クオンと仲良く幸せに暮らしたかっただけなのに……。
神様の気まぐれなのか。
だとしたお前は神などではない。
ただただ人の人生を弄ぶ悪魔そのものだ。
返して……。
僕の人生を、幸せを……返してよ!
サクラはただ、幸せになりたかった。
幸せになりたかったのだ。
幸せになりたい……その結末が、幸せとは真逆に位置する地獄。
何度求め、味わったことか。
そしてこの後も、この輪廻を繰り返すのだろう。
サクラがこの地獄の輪廻から抜け出せることは出来るのだろうか……。




