最終話 破壊の魔女④
「なに?」
破壊の魔女の視界には、突如サクラを覆うように白い結界は張られた。
よく見るとその正体は、やはりクオンが発動したものだった。
「面倒だねぇ」
そう思い結界を破壊しようとした。
「……破壊出来ない、だと?」
破壊出来なかった。
それだけ強固なのだ。
ただし、一つだけ疑問があった。
(何故、ただの猫がここまで……いや、ただの猫ではないか。いや)
初めてクオンを見た時は、本当にただの子猫にしか見えなかった。
月日が流れて現在、この時もただの猫にしか見えなかった。
しかし、メニシアを守った光の壁を張った時点でただの猫ではないと認識した。
使い魔や召喚獣に猫がいない訳ではない。
クオンもそのタイプだと思っていた。
だが、破壊出来ない程の結界を展開したことにより、それが疑問に変わった。
たかが使い魔や召喚獣が、破壊の魔女の攻撃を防げるはずがない。
いや、メニシアの放った魔法が防がれるのはまだわかる。
殺傷能力が高く、速度が速いというだけ攻撃力がある訳ではない。
先程の攻撃は、逆に攻撃力……というより破壊力が高い。
クオンが一体何者なのかがわからない。
考えている中、結界内のクオン以外の二人を見る。
そこではメニシアが短剣をサクラの傷に当てている。
何をしているのかと思っていたら、結界が解かれた。
「……へぇ」
その光景を見て少しだけ驚く。
傷を負っただけではなく、毒に侵されていたサクラが回復しているのだ。
だが、すぐにその理由がわかった。
「坊やの短剣と猫の結界か」
メニシアの短剣は、魔を滅する。
破壊の魔女にはそこまで効果はないが、魔法には効果がある。
毒にしろ破壊にしろ魔法だ。
短剣をサクラの負った傷に当てることで、破壊と毒を消したのだろう。
それだけではない。
サクラとそれをやったメニシアの体力が明らかに回復している。
クオンが発動した結界に回復作用でもあったのだろう。
サクラの魔力は戻っていないようだが、それを除けばほぼ全快している。
「ニャ―」
鳴いたのと同時にクオンの体が光り輝く。
それから一秒も経たないうちにサクラとメニシアの体も同じく光り輝く。
「何ですか……力が湧いてきます」
「これは、エンチャントか」
光り輝く正体は、破壊の魔女が先程使用したのと同じエンチャントだ。
一つ違うのは、このエンチャントから魔力を感じられない。
破壊の魔女のは魔力が感じられた。
エンチャントに限らず、魔法を使用した際には、その魔法から魔力を感じられる。
ということは、クオンのエンチャントは魔法ではないことになる。
では一体何なのかという疑問だけが残るが、サクラとメニシアにとっては今そこが重要ではない。
「メニシア、援護を頼む」
「わかりました」
先程同様にサクラが先陣を切る。
違うところは、クオンによるエンチャントで攻撃力や防御力だけではなく、速度も上昇している。
一瞬に近い速度で破壊の魔女の目の前まで行く。
守りに入ったところでメニシアの短剣により突破されることは目に見えている破壊の魔女は、召喚した刀にエンチャントして攻撃の姿勢を取る。
サクラは聖剣を振りかざし、破壊の魔女は刀で迎え撃つ。
互いの刃がぶつかったことによって凄まじい衝撃波が発生する。
その衝撃波をもろともせず、メニシアの短剣が物凄い勢いで飛んできた。
短剣が破壊の魔女の刀にもう少しで接触するほどの距離――。
「多重!」
短剣が二つに増え、一つは刀に命中する。
もう一つは破壊の魔女の頬を掠った。
刀のエンチャント効果は消滅。
刀は聖剣の力に耐えきれず、簡単に折れた。
さらに――。
「刻!」
メニシアが唱えた瞬間、先程短剣が掠った頬に刻印が浮かんだ。
「!?」
破壊の魔女は現れた刻印と共に謎の違和感を感じた。
そして、その違和感はすぐに判明した。
「魔力を、感じないだと」
まるで最初から無かったのではないかと思うくらい、魔力を全く感じない。
「あなたの魔力を封印しました」
「何だと」
そんなはずがない。
最初に攻撃が当たった際は、ほんの少しの脱力感を感じたが、それは一瞬だけで、効いていないのと大差なかった。
そのレベルだったら悪魔だったらまだわかるが、膨大な魔力を保持する破壊の魔女の魔力を封印することなど出来ないはず。
(……まさか、こんな短時間でレベルアップしたとでも言うのかい)
少しだけ焦る破壊の魔女。
(正直、使いたくなかったんだけどねぇ)
そんなことを考えている最中、サクラの攻撃の手が緩むはずもなく、聖剣の斬撃が破壊の魔女をもろに直撃する。
斬撃をもろに喰らった破壊の魔女の体には、痛々しいというものでは収まらないであろう傷を負った。
魔力を封じられ、魔法を使うことも出来ず、傷を回復させることが出来ない。
吐血もし、大量の血だまりが瞬く間に出来上がった。
それでも倒れない生命力。
当然の報いだと言わんばかりにサクラは攻撃をやめることなく、再度聖剣を振りかざす。
「――」
破壊の魔女が何か呟いた。
その瞬間、血だまりが少しずつ沸騰し始めた。
嫌な予感を覚えたサクラは瞬時に血だまりから離れた。
そして、その判断は正しかった。
破壊の魔女を中心とした黒く、大きな光の柱が出現。
だが、光の柱はすぐに消えた。
同時に、破壊の魔女が立ち上がっていた……血だまりも、そして傷一つなく。
「回復してる!? 魔力を封じたはずなのに」
確かにメニシアは、短剣の力で魔力を封じた。
実際に頬の刻印がまだ消えていない。
「魔力も感じていない」
魔力を感じることが出来るサクラも感じていない。
まだ、破壊の魔女の魔力は封印されたままだ。
「……まさか」
「ふふ、そのまさかだよ」
何かを理解したサクラ。
魔法を使えるサクラだからこそ理解できたことであり、魔法を使えないメニシアはまだ理解できていない。
「何かわかったのですか」
「うん、あの女の回復は魔法じゃない」
「魔法じゃないって……いったい」
「正確には魔法だけど、半分魔法じゃない」
サクラの言う通り、破壊の魔女の回復能力は、魔法であって魔法じゃない。
魔法使いや魔女、悪魔などの魔法を使えるものには、それぞれ一つだけ特別な魔法を所持している。
その特別な魔法こそが、サクラの言う「半分魔法じゃない」だ。
固有魔法。
その人にしか使えない、その人オリジナルの魔法。
基本魔力量のように先天的ではなく、体質や環境など、様々な要因(後天的)で能力が決まる。
同じ効果でも多少違っていたりするので、全く同じ能力を二人以上使用できるというのはなく、本当にただ一つだけの魔法。
そして、普通の魔法と違うところは、魔力を使用しなくても良い所だ。
その分、魔力を使用なかった時より効果は下がるが、自身の体力を消費したり、空気や植物など様々なものからエネルギーを得ることによって使用できる。
破壊の魔女の場合、自身の血を媒介にすることにより魔法を使用した。
肝心の破壊の魔女の固有魔法は――。
「癒し……それがあの女の固有魔法だよ」
「癒しですか」
「その通りだよ」
今まで攻撃を喰らい回復したのは、固有魔法「癒し」によるものだ。
自分のみならず、様々なものに使用することが出来る。
サクラも幼少期に大怪我を負った時に、「癒し」の効果で回復した。
「もう一つ種を明かすと、私の破壊の根源はこの「癒し」だよ」
癒しの反対は破壊。
破壊の魔女は「癒し」の効果を反転させることで「破壊」を可能にしたのだ。
ここで疑問が残る。
「本来固有魔法の効果を反転させることは不可能なはずだ」
サクラの言う通り、固有魔法の効果を反転させるということは不可能だ。
「確かに、効果を反転させるということは本来は不可能だ、本来はね」
「その言い方だと、まるで例外があるみたいですが……」
「その通りだよ、坊や。何事にも例外というものはあるさ……ひとつ言わせてもらうけど天才だ、自分で言うのもあれだが、私は天才だ、魔王を倒すくらいには」
「え!?」
「……」
メニシアが驚くのは無理もない。
魔王というのは確かに存在していた。
それもメニシアたちが生まれるほんの少し前まで。
魔王は、悪魔のさらに上位の存在で、その名の通り悪魔たちの王だ。
強さはというと比べ物にならない。
その魔王を破壊の魔女は倒したのだ。
そして破壊の魔女は誰もが認める天才魔女だ。
圧倒的な魔力量に、豊富な種類の魔法を使用できる……それらが天才の名を広めていった――。
「正確には魔王を倒した勇者パーティーのうちの一人だけどね」
「そうか、サクラには話したことがあったねぇ」
勇者パーティーのうちの一人だったにすぎなくても、それでも凄いことには変わりない。
類稀なる魔力量に固有魔法を含めた天才の所以となる様々な種類の魔法による攻撃とサポート。
魔王に止めを刺したのは勇者だが、破壊の魔女の攻撃とサポートは、魔王討伐に大きく貢献しているのは間違いない。
「まぁ、天才だとは言ったが、私は天才だとはそこまで思っていない……が、あえて言うならその天才と圧倒的な魔力があって初めて固有魔法の効果が反転する。言わば力技という奴だ」
力技と言っても、並大抵のものにはそれを行うことは不可能だ。破壊の魔女のような天才と魔力量を持ち合わせていたら話は別だが、そのようなものは簡単には出てこない。
実際に魔王戦では、今のような「破壊」に効果を反転させていないが、「癒し」の効果を応用して魔王を苦しめていた。
「それにしても、よくサクラは固有魔法を知っていたねぇ……固有魔法については何も教えていないし、何なら使えないはずなのにねぇ」
「だから何だ」
魔法を使えるものなら誰もが固有魔法を使うことが出来る。
しかし、サクラは使えない。
魔法については幼少期に教えてもらったが固有魔法については何も聞いていないなかった。
知ったのは修行をしている時期、師匠からその事を聞いた。
何故使えなかったのかは師匠にもわからなかった。
ただ、サクラには母親譲りの圧倒的な魔力量に豊富な魔法の種類、そして師匠から教わった剣術があるので、固有魔法があろうがなかろうがあまり関係がなかった。
「いや、仮に固有魔法を使えたところで……」
破壊の魔女は禍々しいオーラを纏う。
「ここで死ぬのだから関係ないねぇ」




