第4話 呪われた天使㉒
翌日の早朝、天上大陸はド派手な爆発音とともに目覚めの時を迎えた――。
「な、なんなのー!」
「……サ、サクちゃん……」
「これは……」
「多分、あの二人だと思う――」
すでに普段着を身に纏っているサワン、それにシュウラが現れた。
「ビリンに朝の稽古に付き合ってもらおうと思った矢先のこれだ。ビリンは犯人に接触しない程度の距離まで偵察に行った」
「ちなみにあの二人というのは、サクラさんたちが戦ったという……」
「キルライナとシャル……この大陸であんなことをやる人なんて限られてくる……幸い、都市には影響はないけど……」
「さすがに爆発音はごまかせない。今のでモネとネロみたいに起きた人もいるだろうし……野次馬くらいいるでしょ――」
一同はすぐに準備を終え、シュウラの案内の元、ビリンがいる地点まで行き、合流する。
「ジャルダルク様……いかがなさいますか?」
都市エデン――天上大陸を統べる大天使ジャルダルクは、爆発音が聞こえる都市の外の方角を見つめる。
「フム……ここまでの光景……恐らく、この大陸史上最大級の厄災となろう……」
「でしたら――」
「だが、我の出る幕ではないだろう」
「……?」
「カギを握る者たちがすでに行動を開始している。それに助言は既にしている……あくまで我は最後の砦という奴だ……良いな、カルナよ――」
「……! 御意に……」
「……あの二人がサクラとビリン、シュウラが対峙した奴らか……」
対象者との距離はある程度離れており、その地点で気配を隠しながら様子を見るビリン。
視界に映るのは二人組の男女……キルライナとシャルその人たちであった。
彼らを中心に、美しかった草原が火の海に飲み込まれようとしている……未だ止める気がないようだ。
「クソッ……外道どもが……」
「……ビリン」
小さな声で呼びかけられたビリンは、振り返るとサクラたちがそこにいた。
「思いのほか早かったな」
「悠長にしている余裕はなかったからね……やっぱりか……」
「キル……シャル……ッ……」
わかっていたこととはいえ――一度は家出をしたとはいえ、大好きな故郷を火の海で飲み込もうとする元同僚をビリンは許せずにいる。
道中、そして今も怒りの感情が強くなっていくのを、サクラは気付かない訳がない。
「……ビリン、二人は攻撃を止めている気配は……」
「ない……まるで愉快犯だ。遠くからとはいえ楽しそうな表情と来たもんだ」
「ねぇサク……あの人たち、私たちの時みたいな感じがする」
「モネたちの時……! 悪魔化?」
該当するのがこれくらいしかない。
だが、モネとネロのように悪魔の姿をしていない。
「うん……でもそれだけじゃないみたい。こう……なんて言うんだろぉ……うーん……」
どうやらネロは、言葉にできない何かを感じているようで、それはモネも同様。
「悪魔化したからこその感覚なのでしょうか……気を付けるに越したことはないですけど」
「ああ、俺の一発であの時は終わったが、まだ何かありそうな雰囲気だったしな……そこのところはどうなんだ」
シュウラの視線は、サワンに向く。
「……正直サクラの実力を疑うわけじゃないけど、あの時シュウラが割り込んでこなかったら少しまずかったかもしれないかな」
「尋常じゃない力を感じたし……だけど僕が今感じてるのはそれじゃない……むしろ静かすぎるのが不気味」
やはり、サクラも感じていた違和感……だが、それが何なのかわからない以上、今やることはただ一つ――。
「――お願いみんな、私の大好きな故郷……天上大陸を守るのを、どうか……手伝って!」
「しっかし、こうも綺麗なものって脆いもんだなぁ」
「ほんの少しの汚れも、綺麗なものにとって致命的な毒……今の光景がまさにそう……」
キルライナの銃弾、そしてシャルの斬撃……それらを爆弾と同じ役割にするために火属性の魔力を込めて放つ。
結果的に草原を火の海と化しているので正解だ……あくまでついでなのだが……。
「どうするキル……あらかた焼き尽くしたら今度は都市?」
「都市は都市で化け物がいるからな……今の俺たちには関係ない話だが……おっと――」
突如襲い掛かる攻撃に回避行動を取るキルライナ。
キルライナがいた場所には数本のナイフが地面に刺さっていた。
「来たか、サワンにサクラ――!」
予想通り、サワンとサクラが姿を現し、攻撃態勢に入っている。
「六ノ太刀……苦楽ノ章第二・幻――」
「ハアッ――!」
サワンの強化された拳をキルライナは銃で、サクラの刀をシャルの細剣でそれぞれ受け止める。
拳と銃がぶつかる鈍い音と、刀と細剣がぶつかる鋭い音がそれぞれ響く。
「ハハ、やっぱり来た」
「でもまたお前らか……他の奴らはどうしたんだ?」
「そんなに僕たち以外とも戦いたいの? だったら……ほら――」
サクラが鍔迫り合いの状態を解き、そのままシャルに一撃蹴りを入れて後退する。
寸でで蹴りの威力を相殺したが、上空の気配を逃してしまうことに……。
サワンも後退した瞬間――。
「――ジャスティス・アロー!」
無数の光の槍が雨のごとくキルライナシャルに降りかかる。
流石に避けきるのは不可能と判断したキルライナは、魔力の銃弾で光の槍を相殺することを選択。
シャルも斬撃で続くが、やはり全ては無理だったようで、二本三本は掠める結果になった。
「伊達にサクラたちとやり合って互角に立ち回っただけはあるか……その程度で済むんだからな」
「その程度だぁ?」
「なんかムカつく……ッ」
ある程度のかすり傷が数か所。
しかし、すぐにその傷は癒えていく……シャルの能力によるものだろう。
「サワンの言っていた通りか……細剣によるものなのか?」
「それもあるし、シャルは回復のスペシャリストだからね……魔力の流れを回復に利用したりするから……」
「厄介極まりないけど……その細剣がまた使えるかは別の話だけどね――」
「え――?」
細剣の重量が上がったとかではない。
理由は不明だが、突然細剣がシャルの手から落ちてしまった――。




