第4話 呪われた天使⑳
以前、サワンはサクラの両親とパーティーを組み、魔王を倒した。
しかし、サワンの話を聞いた限りだとその魔王は二人目であり、先代の魔王はサワンが生まれる前に存在し、倒された。
魔王がいたこと自体は、ビリン等は知っていたのだが、二人もいたこと自体知らず、実話であることを知っていても、おとぎ話のような出来事と認識してしまうくらいには遠い昔の出来事であると認識していたので、サワンが対峙した魔王が倒されたのが近い年数だったことに驚きを隠せなかった……同時に何故その認識になっていたのかがわからない。
それはビリンだけではなく、メニシアもそうだった。
メニシアに至っては、一般人だったこともあり、魔王の存在自体本当におとぎ話の中の話に捉えていた。
なぜ、二十年近く前の出来事が、おとぎ話のような出来事になってしまったのか……。
「……まあ、疑問に思うか……」
先程の和やかな表情と打って変わって、真面目な表情を見せるジャルダルク。
重い内容なのだろうか、一呼吸置いて、決心した面持ちで口を開く……。
「サワンから聞いている通り、確かに魔王は二人いたことになる……実際にそうだ。だが、サクラ……いや、サクラたちの疑問はなぜ二人目に関して直近の出来事であるにも関わらず現実味が無いのか、ということであろう。簡単な話だ……そのようにしたからだ」
最後の言葉が衝撃的過ぎる。
その言い方だと、意図的にそうしたように聞こえる……実際言葉通りなのだろう。
「それはあなたがやったのか、それとも……」
「ない……とは言い切れないな……」
認めた……つまり、意図的に人々の記憶を改ざんしたことになる。
「その言い方だと大天使様は関わってはいるけどそう多くはないという言い方に聞こえるのですが……」
「メニシアの言う通り……我は多くは関わっていない。そもそも我に人々の記憶を改ざんするほどの力――能力を持ち合わせていないし、専門外だ。あくまで改ざんすることに対して了解しただけだ」
記憶を改ざんした者が別にいる……つまり、大天使が出来ないことを成し遂げた者がいるということになるが、それはもう神の領域になるのではないか。
「お主らが考えていることは間違えてはいないと思うぞ……だが、口止めはされていないゆえ、経緯くらいは話すとしようか――」
二人目の魔王が活動していた時――。
それはもう酷かった……一人目の魔王が可愛く思えてくるくらいに。
一人目の魔王がすごくないというわけではない。むしろこちらも地獄という光景を人々に与えていたくらいだ。
しかし、二人目の魔王はその比ではなかった。
水大陸と風大陸――はじまりの超大陸史上最大と言っていいほどの滅亡の危機にさらされるほどの規模。
それは、隣の大陸ではじまりの超大陸より遥かに大きな規模を誇る火大陸にまで及ぼそうとしていた。
文字通りの世界の滅亡――人々はその言葉が脳裏に過る――。
その後に現れた勇者一行の手により魔王は倒され、世界の滅亡は回避され、平和な時代が訪れた。
しかし、二人目の魔王は、世界の人々に深い傷を心に残していった……恐怖という名の。
平和が訪れたからといって、その平和がずっと続く保証がない。
そこで各首脳と、当事者である勇者一行、そしてとある者たちが一堂に会し、話し合いを進め、最終的に一つの結論に辿り着く……それこそが人々の記憶を改ざんするということ。
集まった者たち皆が合意した上で、人々の記憶を改ざん――魔王は一人しかいないこと、それは現実に起きた事ではあるが、まるでおとぎ話のような出来事であるように認識してしまうこと、さらにそれは遠い昔のように認識させること……他にもあるが、大まかな内容はこれといったことくらいだ。
ただし、一部の者はその例に漏れる……例えばこの会合に集まった者たちがそうだ。
他にもいるが、それは強い意志を持つ者。
だが、その数は少ない……それこそ歴戦の戦士ほどの強者くらいだろう。
記憶を改ざんした者は、数少ない者たち一人一人と会合、話し合いをし、それぞれが了承をしたうえで、真の意味で世界全ての人々の記憶を改ざんし、今に至り、サクラたちは真実を知ることとなった――。
「――こうして、今に至る……我の知る限りだがな」
「ジャルダルクが言うんだからそれが全てなんでしょ……私も同犯みたいなもんだけど……」
勇者一行……つまりその会合にはサワンも同席していた。
衝撃的な内容の前だと、サワンの件は霞んでしまうかもしれない……。
「あの……とある者たちっていうのは……まさか……」
「神業……神の領域……そう、文字通りの……神だ」
神……魔王以上に物語の存在という認識しかないくらいには圧倒的な存在。
例えば、六聖教会が信仰している六つの属性を司る精霊は、神の眷属とされている。
だが、信者であったとしても一般人は精霊の存在も物語やおとぎ話の存在と同じように思い込んでいる……しかし――。
「今までの話からすると、そのことも記憶を弄ってんのか?」
「それはない……確かに精霊は存在する。単純にこの世界に干渉していないというだけの話だ。ゆえに世間一般には空想上の存在として認識されている……存在を認知しているのは我ら以外だと六聖教会のトップ――幹部クラス以上の者たちくらい……あとはサクラとその師匠と言ったくらいか」
「……まあ、でなきゃこの年で魔法を極めないでしょ」
なぜサクラの師匠が精霊の存在を認知しているのかは知らない……いや、ジャルダルクは知ってそうではあるが、サクラが魔法使いとして最強と言っていいほどの実力を有しているのは精霊の存在が絡んでいる……。
「魔力のコントロールももちろん大事なこと。それを踏まえたうえで、精霊との対話を繰り返して、仲良くなった……僕が言うのもあれだけど、精霊に愛されたことによって使える魔法の幅が広がった……要は強くなるための近道に精霊を使っただけ」
「使っただけというがな、そもそも精霊を会うこと自体が幾度の生であるかどうかだぞ。しかも魔力の流れからしても全属性の精霊と……それを抜きにしても強くなったのはサクラ、お主の努力の賜物……加えると天才的なセンス……あの二人の娘なら驚きはすまい」
ここでモネとネロがサクラの袖をクイクイっと弱めに引っ張る。
「ねえサク~、私やネロはサクみたいに強くなれないの?」
「……(コクコク)」
「……いや――」
サクラは二人の頭に手を伸ばし、優しく撫でる。
「さっきも言ったけど僕のはあくまで近道ってだけ……モネもネロも僕と同じくらい強い魔法使いになれる」
「「……うん」」
その表情は愛くるしいことこの上ない。
「話を戻すけど、精霊が神の眷属というのはわかったけど、ジャルダルクの言い方的には天使――天族も神の眷属である認識でいいの?」
「ああ……だが、精霊よりそれが強く表れているわけでもないし、この都市……いや、世界中に存在する天族は一般の種族に近く、むしろ神の眷属だと認識――自覚か……持っているものは少ない……そもそも神の眷属と言えるのは天族の中でも大天使である我くらいだ」
天族の中でも神の眷属と言えるのは、ジャルダルクの言う大天使くらい。
大天使と名乗れるのは先代の統治者……つまり先代の大天使が指名した者が次代の統治者兼大天使となる。
ジャルダルクも例外ではなく、先代に指名されたことにより今の地位に君臨している。
だが、ジャルダルクは他の天族よりも圧倒的な神聖力を持ったまま誕生し、文字通り神の眷属と言っても過言ではないレベルであったので、必然的に大天使の地位に上がったようなもの。
この状況を例にするなら、大天使の地位に君臨するには二通り存在し、一つは先代からの指名。
もう一つはジャルダルクのように生まれながらに神の力――神聖力が備わっているか。
後者に関しては、言わば偶然の産物のようなものなので、意図してどうこうできるわけではない。
ちなみに初代大天使が後者にあたる。
「……つまり大天使はこの世で一人しかいないと……」
「そんなことないよ~」
サワンが間に割って入る。
「大天使というのはあくまで役職名みたいなものだからね。もちろんジャルダルクは偉大だよ、歴代の大天使の中でも……でもでも、それはあくまでジャルダルクが突出しているってだけの話。大天使を名乗れそうな人……神の眷属と名乗れるくらいの神聖力を持つ天使自体は複数人いるよ」
「サワンの言う通り……我以外にも複数存在する……あくまで我がリーダーのような立場というだけの話だ。そもそも神の眷属の力があったとしてもあくまで力があるだけで、肩書は飾りみたいなものだ……精霊も含めて――」
精霊にしろ天使にしろ、確かに神の眷属――神の手により生みだされた存在ではある……しかし、それだけのことである。
神の手となり足となりというわけではない。
極端な話、神に逆らうことさえ可能だ。
それは神がこの世界に干渉しないようにしているから……あくまで神は見守るだけ……ただそれだけだ……。




