神様からの推薦
昔街中で怪しげな女性に、「貴方は神を信じますか」と問われたことがある。急いでいたので会釈だけしてその場を去ったが、一週間くらいは妙にその質問が頭に残っていた。特に信仰している宗教はないが、両親が亡くなった時には仏教の習わしに従って葬式をあげたし、娘が手術をした時には神社に神頼みをし、年が明ければ初詣にも行っていた。
そんな俺だが、「神を信じますか」という問いに対する最終的な結論は、「いいえ」だった。理由は色々あるが、非科学的だというのが一番の理由だ。
「お前次神様だよ」目の前の天狗はさっき間違いなくそういった。生前無神論者だった俺が神様。悪い冗談にしか聞こえなかった。神というのは、会社でいうところの社長だ、係長止まりだった俺に務まるはずがない。70億を超える地球の全人口を統括することなど不可能だ。
「当り前だ、お前なんぞにそんな大役振るわけないだろ。神様ってのは何も一人や二人じゃない、八百万の神って言葉聞いたことねーのかお前」
天狗が呆れたような物言いで俺に問いかけた。八百万の神・・・・・・要はそれだけの数の神様がいるのだという考え方だろう、それくらいは知っている。ということは俺も八百万の中の一人になるということなのだろうか?
「そういうことだ。正確にいうと神になる為のチャレンジに挑むことになる。失敗したら転生。その場合お前は確か・・・・・・モグラになる。チャレンジの内容についてはこの後先輩神様から説明があるだろうよ」
チャレンジ、要するに試験があるということか。八百万の内の一人とはいえ神様かモグラか、物凄い落差のある二択である。どちらになりたいかと言われればやはり前者だが、しかし何故俺がそのチャレンジとやらに選ばれたのだろう。そもそも天国行き、地獄行き、転生行き、チャレンジ行きはどうやって決めているのだろうか。
「そりゃ人間の時にどう生きたかに決まってるだろ」
聞けば点数で決めているらしい。持ち点100から減点していく仕組みらしく、最終的に60点以下となったら人間以外に転生。悪事を働いた物は点数がマイナスになっていき、-100点を超えたら問答無用で地獄行きとなる。
もちろん良い行いをすれば点数は増え、死んだ時点で60点を超えていればめでたく天国いきだという。ちなみに一度点数がマイナスになった者については、その後いくら善行を重ねても60点を超えることはないという。
「立ちション-1点、道の唾吐き-2点、風邪引いてるのにノーマスク-3点、ゴミのポイ棄て-4点、トイレットペーパー使い切ったのに新しいのに替えないで出る-5点と、色々細かく決められているのだ」
「どうだ」と言わんばかりに河童は得意げに腕を組んでいる。人間一人一人に担当者が割り当てられれており、常にノート片手に行動をチェックしているらしい。しかしチャレンジ行きとなるのは何点からなのだろうか。
「神様チャレンジ行きになるのは現役の神様からの推薦者のみだ。もちろん点数がマイナスでないことが前提だがな。お前を推薦したのはとある小さな神社の神、茶々丸だ。推薦理由は知らんぞ。神様って連中はとにかく気まぐれな奴が多いから、そもそも理由なんざないのかもしれんが」
現役の神に推薦された、それはきっと光栄なことなのだろうが、何故俺がという疑問は尽きない。前にも述べたが、生前俺は特に良い事はしていない。もちろん悪いこともしていないが。そうだ、悪いことなどしていない、なのに何故俺の来世がモグラなのだ。モグラということは持ち点が60点以下だったということじゃないか。
「何言ってやがる。食えもしないのに食べ放題で多めに肉注文して残すは、コンビニのトイレでうんこした後に流さずに帰るは、色々やってるじゃねーか。そもそもお前高校生の時何度か万引きしてるだろ? あれも良くないな、それだけで-10点だ」
なるほど、軽微な罪が重なりいつの間に60を下回ったということか。しかし、晩年は町のゴミを拾ったりと良い行いも重ねているのだが。
「ゴミ拾いは+1点だ」
いつの間に天狗は俺の後に控える球を次の場所に運ぶ作業へと移り、質問には河童が答えている。
マイナス点数は地獄行き、60点以下で転生、60点以上で天国行き、チャレンジ行きは現役の神様からの推薦。それは分かったが、では人間になるにはどうしたらいいのだろうか。ある意味人間こそ一番の当たりクジだと思うのだが。
「お前人間が当たりだと思ってんの? 地獄の次に大変なのは人間だと思うけどな。人間になるのは前世で人間以外だった奴だけだ。要するに人間ってのはチャレンジなんだ。そいつがその後天国か地獄か、転生するかを決める為のな。そこで60点以下だった奴は一度別の命を経験してからじゃないと新たなチャレンジ、人間にはなれないってことさ。ちなみにお前の前世は馬な、その前は江戸時代に生きた農民。農民の時の点数は23点、今回は35点、だから本来なら次はモグラ、別の命ってわけだ」
35点・・・・・・赤点には変わりないがそこまで悪い点数でもないのにモグラとはどういうことだろう。その前の江戸時代の農民だった時は23点で馬だというのに。話によれば0点の奴が例の微生物ルーレットにかけられることになるのだという。
「バッタ、カメムシ、ハクビシン、ミミズ、スズメ・・・・・・じゃなかった、お前ツバメ」
天狗による来世告知は続いている。バッタ、カメムシ、ハクビシン、これらに比べれば神様になれるチャレンジを受けれるというのはかなり幸福なことなように思う。最初はかなり困惑したが、今は少し覚悟が出てきた。
「よし、そろそろ飛ばすぞ。以降の質問は向こうで茶々丸に聞いてくれ。おい」
「はいよ」
天狗が団扇を上げた。次の瞬間目の前の景色が変わり、ワープ空間のような所へと飛ばされた。直後物凄いスピードで体(といっても球だが)が前に進みだした。新幹線の鼻面に縛り付けられた状態で走られているような感覚だ。次第に意識が遠のいていく。今度目覚めたら、いよいよチャレンジが始まるのだろうか。期待と不安が入り混じる感情の中で、俺の意識は消失した。




