来世告知
意識を失う直前また目覚める可能性について言及したが、まさか本当に目覚めるとは思わなかった。さっき(といってもあれからどれくらいの時間が経ったかは不明だが)までは病室にいた。しかしここは明らかに病室ではない。というか確実に地球上ではない。
光り輝く無数の星や銀河が360°所狭しと点在しており、上も下も右も左もない空間。そう、間違いなく宇宙だ。昔綺麗な星空を見るために山奥にキャンプに行ったことがある。あの時目にした星空も物凄く綺麗だったが、今目の前に広がっている光景は比べ物にならない程幻想的だ。星や銀河の放つ光が多すぎて、黒いはずの宇宙が青く見える。
俺自身はどういう状態なのかというと、バレーボール程の大きさの丸い球になっており、青い光を放っている。光を放っているといっても周りで強く光り輝く星々とは違い、申し訳程度に光っているだけだ。手もなければ足もない。いよいよ死後の世界のお出ましである。
「はいそこの青い球の君ぃ」
唐突に声をかけられた。「青い球」というのは状況からして俺のことだろう。声がした方を振り返る、身長は170cm程だろうか。全身緑色で鳥のような嘴を持ち、頭に皿のような物を乗せ、背中に亀の甲羅のようなものを背負った男? が立っていた。見覚えがある、河童だ。
「誰が河童だ、俺は鬼だ」
見た目河童の自称鬼は表情を変えず、やれやれといった感じで腹を搔いている。このビジュアルを見て鬼と判断する人間はいないだろう。
「俺を河童という奴は決まって日本人だ、勝手に名前をつけやがって。まぁいいや、とにかく仕事だ仕事。青い球のお前、こっち来い」
河童は明らかに俺とは違う方を向いている。青い球とは俺のことではないのだろうか。周りを見渡すと、星々の光が強いのでさっきは気付かなかったが、俺意外にも似たような球が何個もあることに気付いた。何個、というよりは何十、何百といった方がいいだろう。それぞれが、やはり俺のように弱い光を放っており、色は様々だが何個も同じ色が被っているものもある。
「青い奴って言ったって腐るほどいるだろ、いい加減色で呼ぶの止めろよ」
河童とは別の声がした。身長は180cmくらいだろうか、赤い顔に長い鼻、右手に葉っぱで出来た大きな団扇を持っている。こいつも名前は知っている、天狗だ。
「誰が天狗だ、俺は鬼だ。お前さては日本人だな」
先程と似たようなやり取りだ。見た目天狗の自称鬼は明らかに不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。
「色で言ったって分からねーんだからよ、直接引き寄せちまえばいいんだよ」
天狗は右手に持った団扇を高く上げた。すると数ある玉の中から一つの球が引き寄せられるように天狗のもとへ飛んでいった。
「あ、余計なことすんなよ、俺の仕事だぞ」
「お前だけに任せてたら日が暮れちまうよ」
ここが宇宙空間だということはお構いなしのやり取りだ、そもそも暮れる日などどこにもない。青い球を引き寄せたはいいが、この後どうしたらいいのか分からないのか天狗はポケットから何やら資料のような物をとりだした。
「で、こいつは次何だっけ?」
「お前は引き寄せるだけ引き寄せていつもそれだ。やるならちゃんと全部把握しとけっての、そいつは特別だから個別に呼んだんだ。天国だよ天国」
「おぉ、そうかそうか、随分と徳を積んだんだな。よしじゃあ行ってこい」
天狗がそういうと青い球は何処か遠くへ飛んで行ってしまった。天国? 徳を積んだ? 何のことやらさっぱりだ。同じ気持ちだったのは俺だけじゃないらしく、複数の球から一斉に声が出始めた。
「何なんだここは」「お前らいったい何なんだ」「俺達はどうなってるんだ」
当然の疑問である、むしろここまでよく黙っていたものだ。懇切丁寧な状況説明が求められる所だが、どうやら河童と天狗にその気はないらしく。「また始まった」と言わんばかりに露骨に面倒臭そうな顔をしている。
「ここは宇宙だ宇宙、死んだら宇宙に来る、常識だろ? さっきも言ったが俺達は鬼で、お前達はこれから何に生まれ変わるのかを発表される立場、これでいいか? 」
河童がぶっきら棒に答える。死んだら宇宙に来るなどという常識は習ったことがない。生まれ変わる? 天国か地獄かを決めるんじゃないのか。
「天国はさっきの奴だけだ。こんだけいて天国行きが一人だけとは、出来のわりーグループだなここは」
天狗が団扇で仰ぎながら言った。どうやら俺は天国には行けないらしい。生前さほど良い事をした記憶はないが、悪いことをした記憶もない。天国は行けなかったが、流石に地獄行きだけは回避できるだろう。
「ここに地獄行きはいねーよ、地獄行きはそもそも別のグループだからな。このグループは天国行きか生まれ変わるかのどっちかだ」
やはり地獄行きは回避できたようだ。しかし生まれ変わりか、正直悪い気はしない。来世はあれをしたいこれをしたいなんて願望は、生前何度も考えたことだったからだ。
「よし、こっからはスピード勝負だ。おい、こいつらを並ばせてくれ」
「あいよ」
河童の申し出に天狗が応え、再び団扇を高く上げる。すると俺を含めた球の面々は一瞬にして河童の前に縦一列に整列した。俺はかなり後ろの方らしく、河童と天狗の姿は僅かにしか見えない。
「俺が読み上げるからお前飛ばしてくれ」
「了解」
何を読み上げるつもりなのだろう。そう思った瞬間、河童は資料を一瞥し、流れるように記載されている文字を読み始めた。
「ネズミ、シマウマ、蟻、虎、スズメバチ、カマキリ、犬」
河童が謎の言葉を読み上げ、天狗が読み上げられた球を何処かへ飛ばす。流れるような作業が淀みなく行われている。まるで達人同士がやる餅つきを見ているようだった。河童が餅をこね、天狗がすかさず杵でつく。どんどん球の列が前に進んでいき、さっきまで僅かにしか見えなかった河童と天狗が近づいてくる。
「ホタテ、クワガタ、てんとう虫、タンポポ、赤血球、乾電池」
まさかとは思うが今読み上げているのがそれぞれの来世なのか。シマウマや虎はまだしも、赤血球やタンポポはそもそも生命体なのだろうか。寿命があるとはいえ、乾電池に至っては確実に違うだろう。生まれ変わるのも悪い気はしないといった考えは甘かったようだ。人間に生まれ変わる保障など、どこにも無かったのだ。
「ここから30人は微生物ルーレットだな」
微生物ルーレットというパワーワードを聞いた瞬間俺を含めた球達に動揺が走った。微生物ルーレット。赤血球や乾電池もなかなかだが、微生物に比べればいくらかマシなのではないか。今の先頭から30人、ギリギリ俺も含まれるのではと思った瞬間、先程まで前に並んでいた球達が消え、目の前が河童と天狗の姿へと変わった。
「今回は随分と少なかったな微生物組」
天狗が団扇で仰ぎながら独り言のように呟いた。どうやら間一髪のところで微生物は回避できたようだ。河童は天狗の独り言に応えることなく、手に持った資料を凝視している。ここまで淀みなく進んでいた来世告知がピタリと止んだ。
「何だよ、お前だって突っかかってんじゃねーか。貸してみろ」
焦れた天狗は河童から資料を奪い、どれどれと資料を指でなぞり始めた。
「あれ? お前これ」
天狗が資料から目を離し河童に問いかける。河童は、「そうなんだよ、危なかった」と手で口元を押さえている。
「良かったなぁ、間違えなくて。大問題になるところだったぞ」
このやり取りが俺にとってどういう意味をもたらすのかは分からないが、あまり良い予感はしない。いい加減こっちにも説明をしたらどうなのだろうか。
「悪い悪い。河童のミスでまた生まれ変わるところだったんだぞお前。本来特別枠は天国行き同様最初に告知してやらないといけなかったんだ」
「う、うるせー。俺は決してミスしそうになったわけじゃねーぞ」
特別枠? 何がなんだかさっぱりだ。簡潔に言ってもらいたい、俺はこの後どうなるんだ。
「あぁ、お前次神様だよ」
駄文失礼しました。
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